そんなわけで、だけども。
「なぁ、アイネ」
「んー?」
アイネの工房へやって来て、作業中の背中を見ながら。
「俺って、アイネのことが好きだったらしい」
「ぶっ!? な、何、急に?」
これまた珍しい、噴き出すアイネなんて初めて見たよ。
あぁでも、うん。
初恋だったといわれたら、ちょっと納得してしまったかもしれない。
「……何? 今日は、アイネをいじめにきたの?」
「いや、そういうつもりはなくして」
眠たげな目がジト目に変わってる。
そうだな、初恋だったとしてもおかしくない。
改めてそう言う目で見れば、確かに何と言うか好みといって良いのかも知れない容姿をしているし、何より。
「でも、仲間って意識が強いんだよな」
「アイネをどうしたいの。どうかしてほしいの?」
あ、ちょっと眉が吊り上がって来た。
ここら辺にしておいた方がよさそう、かな?
「はぁ……そう言う目、やめる」
「どういう目だ?」
「……もう。知ってる、はず。アイネ、そう言うの興味ないから」
「ああ。知ってる」
わかっている、知っている。
俺とアイネが手を取り合ったのは、そう言う浮いたとでも言うのか男女のアレソレじゃあない部分で一致したからだ。
「でも。うん」
「うん?」
「アイネも、もしかしたら、キミに初恋してたのかもしれない、ね」
「……そっか」
お互い少しだけ過去へと意識を飛ばしながら、想う。
「キミの子なら、産んでも良いって思ったこともある」
「実験的な意味で、だろ?」
「そう。けど、実験であってもそう思えるのは、やっぱりそういう気持ち、あったから、だと思う」
これで満足? とでも言いたげに睨まれた。
……少しだけ勿体なかったのかも知れない。
あるいは、戦時中じゃなければそういう未来があったのかも?
いや、戦時中でなければお互いの存在を知ることもなかっただろう。
「ああ、満足だよ」
「……それで満足される、のも。ちょっと腹立つ、なぁ」
お互い苦笑いを向けあう。
多分、これでよかった。迎えられた今にお互い満足しているんだから。
「今からでも惚れ薬、作ってやろう、かな」
「うん?」
「なんでもない、よ。それより、本題。マジックアイテムについて、でしょ」
「ああ。悪い、それじゃあ話を進めようか」
アイネが用意してくれたのは二つのアイテムだった。
「一つは、アイネお得意のレジストリング、キミの本気でもない限り、大体無効化できる」
「相変わらずとんでもないよな……それで? もう一つは?」
「リミットリング。装着者の実力を調べて、数値化する指輪。ちょっとつけてみて」
言われるがままに指輪をはめてみると。
「100って出てきたぞ?」
「おー……流石、満点、だね。ちなみにアイネは10、だよ」
「えっと?」
「それが言っちゃえば持ち点、だね。魔法とか、攻撃を受けるとその質に応じて、減ってくの」
レジストリングとリミットリングを二つ装着したアイネが、かもーんと手を招いてきたので。
「とりゃ」
「……痛い。もうちょっと、手加減、する」
「めちゃくちゃしたけど」
「ほんと? あ、でも減ったの9だね、良かった」
えーと?
「これ、0になったら
「いやアイネさぁっ!? もうちょっと強かったやばかったじゃんっ!?」
「これでも研究者だから。ぶい」
「ぶいじゃなぁいっ!」
意味がわからない! 研究者ってヤツはどいつもこいつもまったく!
「でも、これ、使えるでしょ? バトルロワイアルに」
「使えるけどさぁ!? あーもう、使えるよ、ありがとうさん」
「ん。役立つ女ですよ、アイネは。ぶい」
怒る気にもならないや。
あぁでも、そうか、そうなのかもな。
「放っておけないって意味で、やっぱ俺はアイネが好きだったのかもな」
「んやっ!? ま、また、急にそういうこと、言う。めっ」
めっされてしまったね、どうも。
けど、放っておけないなら今もまさしくそうだ。
だったら俺の初恋はまだ終わっていないのかも? なんて。
「ガラじゃねぇ……」
「さっきから、忙しそうだね、キミは。あぁでも、いつも、かな」
「おかげさまで、な」
「じゃあ、ありがとうって言って」
あぁ、もう何でもいいや。
「ありがとう」
「よし」
初恋がどうとか、婚約者がどうのとか。
まだまだそう言うのに現を抜かしていい場合じゃない。
そう言うのにみんなが現を抜かせる世界がやって来てからでいいだろう。
「じゃあ、また」
「ん。いつでも、おいで」