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第20話「がんばるでは足りない」

 学園内バトルロワイアルの開催が決定、告知された。


「予想通り、って感じだな」

「周囲の視線に関してのことなら、そうだねと同意するよ」

「……うぅ、居心地悪いよぅ」


 フォルトゥリアへと割り当てられた教室の中で、相当参っているらしいルルはぐたりと机の上で伸びた。


「ルル、まだ告知されて初日だよこれからが踏ん張りどころじゃあないか」

「うー……クルス君はよく平気だよね。あたしが気にし過ぎなのかなぁ」


 少しだけ恨みがましそうな目でクルスへと目を向けるルルだが、多分一般人としてならその感覚は正しい。

 貴族、それも器の一族であることを考えるならなんとも言えなくなってしまうが、俺も露骨に向けられるこいつらをどうにかしてやると言った視線には少し疲れる。


「僕自身も平気というわけではないのだけれどもね。ただ、今受けている視線や感情がひっくり返った時の事を思えばそこまで労せず耐えられる」

「ひっくり返った時?」


 なるほど。イイ性格をしていると思うべきか、それとも王族が持つ処世術とでもいう手段の一つだろうか。


「ねぇ、ルージュ」

「同意を求めてこないでくれ。俺はクルスほどイイ性格をしてないんだ」

「うん?」


 にやけ顔しながらのクルスから視線を逸らす。同類みたいに思われるのはちょっと……。


「じゃあキミは今の状態に何も思ってないのかい?」

「予想通りでしかないしな。いちいちなんでどうしてと困惑する体力気力が勿体ないってだけだよ」

「……えーと? 二人とも?」


 変わらずピンと来てないルルはどうかそのままでいてと願わずにはいられないね。

 なんというか元々根っからの善人だとは思ってたけど、善人どころか聖人と言ってもいいかもしれない。


「わかりやすく言うなら、学院生全員をわからせてやろうぜって話だよ」

「わ、わからせって」

「実際クラスメイトからは変な目で見られなくなっただろう? 侮られなくなった、というか」

「まぁ、うん……ちょっと複雑だけど、ね」


 クラスメイト達にとって、俺とユニア、クルスとルルの二つに分かれての模擬戦は中々に衝撃的な光景だったらしい。


 ルルの言う複雑って言葉通りではあるが、少なくとも広い意味でフォルトゥリアという調査隊として相応しいと思われたのなら良いことではあるんだけども。


「認められるということは称賛を受けるということではない、だね。人は自分が持つ常識内で物事を判断したいと願う生き物だ。その考えから言うならば、逸脱した存在を受け入れるのには時間がかかるものだよ」

「……難しい話、だね。あたし、そういう風に考えたことなかったよ」


 クルスの言ったことに間違いはない。

 あえて補足するのならば、両者ともにとってと言えるだろうか。

 逸脱者も、常識外れになったことで向けられる感情を納得したり受け入れたりするのは時間がかかるものだ。


 そのあたり、クルスはやっぱり王族なんだろうな、しっかりと割り切っている。


「ともあれ、だ。開催は一か月後と決まったが、戦い自体は始まっている」

「番外戦術期間、ということだね」

「ああ。どうすれば勝てるかを探られる期間だ。あるいは、流石に無いとは思いたいが八百長を仕掛けられたりとかな。俺たちは俺たちで、訓練含めて準備をしっかりしよう」

「うんっ! あたし、がんばるよっ!」


 握りこぶしをむんっと見せつけるように気合いを入れたルルに笑顔を返しながら、心の中で小さくため息をついた。




 そう、バトルロワイアル開催の告知はされたのだ。

 先も言ったように今は準備期間というよりは番外戦術期間に入っていると言っていい。


「頑張る、じゃあ少し足りないんだよな」


 クルスは流石にそのあたりを理解しているような雰囲気ではあるが、ルルが少し気になる。

 あるいはこれでこそと思うべきなのかもしれないが、結果を出したいではなく、結果を出して当たり前という状態を実感したことは無かったんだろう。


「平和になった証拠、か」


 スケールの大きさこそ小さくなったが、争いが無くなったわけじゃない。

 小さな学院という世界に争いを無理やり持ち込み発生させた俺が言っていいセリフじゃあないが、平和とは誰かによって維持されるものではなく、平和の世に生きる者たちが維持していくべきものだ。


 その土台に立つべき者たちが他人事で終わらせ続けたのなら、まぁ想像はしたくない結果に結びつくのは目に見えている。


「改めて今回のバトロワは、思っている以上に色々な意味が含まれているよな……ったく、頭を使うのは専門外だってのに――うん?」


 思わず頭を掻いてしまいそうになった所で、何やら剣呑な雰囲気を放つ上級生たちが俺を睨んできた。


 ……なるほど。

 こういう形で大丈夫だってのは実感したくなかったけれども、捨てたものじゃないらしい。


「思いは口にしてこそ相手に伝わるものだと思いますが」

「っ……お前」


 喧嘩の売り方がわからないとは実に貴族様らしいと思うべきか。

 いや、そもそもこんな上品とは言えない技術を持っていると思うことが間違ってるんだろうが。


 なら、教えてあげようか。

 これ見よがしに肩を竦めて、近づいていきながら大きくため息をつく。


「失礼、目は口程に物を言うとも言いましたね。ですが、器が知れますよ? 控えるなら控える、表に出すなら出すとした方がよろしいかと」

「ぼ――僕たちを誰だと思っているっ!! 無礼もいいところだぞっ!」


 誰か知っているかって、知らないよ。

 というか勝手に取り巻きまで巻き込むんじゃあない、群れたがりは余計に弱く見えるぞ。


「無礼? なるほど重ねて失礼いたしました。では次からは先輩を見習って、負け犬のように遠巻きから睨みつけるだけに致します」

「~~っ!?」


 言っておいてアレだけど、俺ってやっぱ下品だよなぁ……でもこういう言い方の方が慣れてるから勘弁してもらいたいところ。


「キサマのような名も知れない弱小貴族がなぜ――」

「――そこまで」

「っ!? め、メジール、教諭……」


 うーん、嫌なタイミングだよね。折角本音らしき部分が聞けると思ったんだけど。

 近くに誰かいるとはわかっていたが、渦中のメジールとは思わなかったし、重ねてこのタイミングで介入してくるかーやだやだ。


「その憤りを発散するのは決まったバトルロワイアルでするべきでしょう。あなたもです、ルージュ君」

「ええ、その通りですね。先輩方、重ねて失礼いたしました。どうぞ、当日は楽しみにしております」

「……くっ、覚えていろルージュ・ベルフラウ。その化けの皮、必ず剥がしてやるからな」


 そ、その捨て台詞はやられ役か三下感凄いからやめて下さい。


 ……はぁ、まぁいいや。


「図ったようなタイミングでの仲裁、ありがとうございます」

「ええ、図っていましたからね。可能であればもう少し穏便な喧嘩の売り方をして欲しいものです」


 とりあえず、今回鍵を握っているだろう人物と接触できたのだから。

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