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第23話 証言者は自衛隊統合指揮システム?(1)

「え、鷺沢がピンチ?」

 佐々木刑事のLINEの相手は例の引きこもりのハッカー、四十八願よいならである。

「鷺沢がバイトでいじめられてる? なんでまた」

『バイト先が50代のオッサンなんか雇っても将来性がないから、あれやこれや理由つけてクビにしたいみたいなんですよ。もともと鷺沢の元請けの社員、人をクビにすることを自慢してましたし。カバンが気に入らない、顔が気に入らないでクビにした、って自慢を飲み会のときにしてたらしいし』

 佐々木はあきれ顔になった。

「今時そんな事して良いことないのに。で、鷺沢どうなったの?」

『3日前からLINEに全く応答なくなって。落ち込んで寝込んでるだけだといいんですが』

「また?」

 佐々木はイラッとした顔になった。

「……鷺沢の家、行ったことないのよね」

『場所は教えます。石田さんと一緒にちょっと確認に行ってもらえませんか。ほんとお忙しいとは思うんですが』

「私、暇じゃないんだけどなあ」

 佐々木はぼやく。

『そこをお願いします!』

 四十八願は必死だった。


*


「石田さんすみません。付き合わせてしまって」

 国道を北上するパトカーに石田刑事と佐々木は乗っていた。しかしサイレンは鳴らさない。

「国道沿いのマンションみたいです。次の交差点を左折」

「右折でなくて?」

 ハンドルを握る石田が聞く。

「マンション前の交差点は右折禁止なんだそうです。それで一旦左折して右、右と曲がってUターンして左に」

「そうか。鷺沢、もともと発達障害に鬱だって?」

「それに統合失調症に高血圧なんだそうです。よくいる疾患のデパート状態」

「貧困層に多いもんなあ。今の健康は金持ちだけのものになった」

 石田が溜息をつく。

「それで増大する医療費の負担をナントカしようとして、消費税上げちゃう」

「で、その逆進性で補助出してるはずの貧困層をさらに貧困に追い込んで病ませて医療費が増大する。完全な本末転倒だけどそんな政策、このところずっとだもんな」

「財務省にしろ厚労省にしろ、ここまで明らかな愚策続けるのはなんでなんでしょうね」

「自分は困らないからだろ。昼は役所、夜は投資だろうし。株価が上がることにしか関心が無い。そんなの不公正も良いとこだけど、自分の会社の利益になるように審議会の答申出した民間委員が大手未だに振ってるんだもの」

「竹中平蔵ですか」

「彼だけじゃない。今はあの手のがうじゃうじゃいるからな。太陽光発電投資とか酷いもんだ。まともな設置基準もナシに山林をはげ山にしてテキトーな支えだけで太陽光パネル敷きまくって、その結果台風でそれが壊れて火事になったり漏電したり。それを処理しようにも消防が漏電で近づけない。でもまともな規制は未だにされない。民間委員とか言って露骨にそれで利益得てる連中が政府審議会に入ってよりによってさらなる規制緩和が必要だって答申する。官邸もそれに疑問持たない。というか、官邸の連中も同じような連中なんだろうな。最近風力発電で一人捕まったけど氷山の一角も良いところだ。でもそれを追い掛ける報道もロクにいない」

「報道、儲かりませんもんね」

「だからといってフェイクニュースそのまま横流ししてたらマズいだろ。でも戦争にフェイクニュースが使われるのはすでにやられてるからな。それにまんまと騙されるバカも少なくないし増して報道機関までコロッと騙される始末。それにプラットフォーマーもプラットフォーマーだよ。迷惑YouTuberとかがヘーキで蔓延るのになんの手も打たない」

「大炎上して事件になってからやっとアカウント凍結ですね」

「炎上しないと儲からないからだろ。炎上してもPV稼げれればプラットフォーマーは収入になる。しかもアカウント凍結すればその収入を払わずに済む。事実それで被害者とかにその収入分配したなんて話はゼロだ。丸儲けだから手放すはずがない。ましてそれを批判するものはほぼいない。みんなその地獄の釜の底でただただ這いつくばって貶め合うばかりだ。だから運営はしっかり炎上して美味しく頂けるまで待つんだろう。邪悪は禁止だったはずだけどその社是もなくなったからな」

「マンガ『カイジ』みたいですけど、ほんとそうですよね」

「さて着いたぞ」

 駅から離れた田舎風景の中にポツンと立つマンションの裏、外来駐車場にパトカーを止めた。鷺沢の部屋があるマンション、といっても築40年近いものだが、よく管理されてるせいかそれほどボロに見えない。

「いろいろ大規模修繕とかで工夫してても不動産としての評価は高くないので管理費とか安いんだそうです。公的住宅の家賃より安いとか」

「今この手のが多いよな。少子高齢化時代の終の住み処だ」

「世の中はタワマンタワマンって言うけど。3階の6号室です」

「先にちょっと管理人室に話してから行くか」

「そうですね」

「しかしこういうどん底の世界があるのに、テレビドラマは正社員たちが社内レクレーションで好きだの嫌いだのってのをやるんだよな。今時オシャレな社内食堂があったり。特権階級だから下々の生活になんて全く関心が無いんだろうな」

「でもその結果ロクに視聴率出ないじゃないですか」

「そりゃそうだ」

 そう言いながら二人は開放廊下の階段を上る。

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