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第42話 誘拐犯は航空自衛隊次期戦闘機?(3)

「誰からの電話です?」

 四十八願がしばらくして聞いた。

「鷺沢さん?」

 鷺沢は放心している。

「どうしたんです?」

「いや、ね」

 鷺沢は次の言葉に少し時間がかかった。

「ちょっと打ちひしがれてた」

「え、どういうことなんですか?」

「あの戦闘機」

 鷺沢は言葉を切った。

「誰が乗って操縦してるかもわからんのだって」

「ええっ」

「自衛隊も警察も今必死になって総動員体制で調査してる。電話は藤原3佐からだった」

「あの以前の話の防衛省監察本部の?」

「そう。もうどこもかしこも、カンカンでてんやわんやなんだそうだ。まずあの戦闘機、今日本とイギリス、イタリアの3カ国共同開発の戦闘機。名前はまだないけどF-3ってマニアには呼ばれている新型戦闘機の試作機なんだそうだ。なんでも開発費と開発期間の大幅圧縮のためにコンピューターシミュレーションを多用してるため、これまでの戦闘機や航空機の開発とは手順がかなり違うんだそうだ。とはいえ、勝手に誰かわからんパイロットが乗って、勝手に予定にない離陸をしてしまうのは想定外。しかもその名無し試作戦闘機、実は部内では『蒼電そうでん』と呼ばれているらしいんだけど、それがね、離陸しちゃったあと、開発の三菱の工場のある名古屋空港のレーダーだけでなく、近傍の航空自衛隊のレーダーサイトも追跡してたんだけど、すぐに見失ったらしい」

「えっ」

「今時の戦闘機らしくステルス、センサーにバレない技術が山盛りなんで、リフレクターって言う識別用の反射装置を隠せばまったくレーダーや赤外線センサーでは追跡できない。敵のミサイルや迎撃機に対応させないための装備で、レーダー電波の反射面積RCSはこの『蒼電』の場合はもう小さな昆虫、テントウムシみたいなレベルまで減ってるらしい。それをつかってるらしく、墜落したのか行方不明でどこか遠くへ逃げちゃったのかも全くわからないらしい」

「そんなむちゃくちゃな。ハリウッドのアクション映画じゃあるまいし。どっかの国に持ち去られちゃった、なんて話に? 荒唐無稽です!」

 さすがに四十八願もそう話に乗り始めた。

「その可能性もあって、いま必死なんだそうだ。航空自衛隊の戦闘機に早期警戒機も全部出動して探してる。どっかの飛行場に着陸したんじゃないかってんで、国内の航空基地や飛行場はもとより、近隣各国の飛行場もこっそり偵察衛星で探してるらしい。でもまだどこにも該当がない。墜落の痕跡もない」

「ほんとに『消えちゃった』んですか」

「ほぼそれに近いらしい。でもこんな事件、さすがに普通に発表できないと官邸が判断したらしい。外国だったらそことの外交紛争になりかねずデリケートな問題だ、ってんで、捜索のための時間稼ぎをすることにしたんだ」

「それで大臣の結婚を」

「偶然佐藤大臣、独身だったけどフィアンセがいたんで、当人も納得して急遽、結婚発表会見にしてマスコミを引きつけることにした。普通の芸能人の結婚じゃ芸能担当しか引き寄せられないけど、現職大臣、それも少子化女性問題担当大臣の結婚じゃ、社会部・政治部の記者も無視できない。というわけでほとんどのメディア記者は不審に思ってるけどあの会見でそれを隠した質問に明け暮れたらしい。それを知らない一部の小さなメディアが聞いたけど」

「ええっ、じゃあ、あの会見」

「そう。完全な出来レース。でも一部の記者は推測して政府に『貸し』作ってあとで有利な取材しようってのもいるらしい。でもあの戦闘機、性能的にはマッハ2の超音速巡航も可能で、それをやったら沖縄から東京までの1560キロをたった38分で飛んでしまう。まあその場合はさすがにジェットの排気でばれて探知されてしまうけど、でも高度5万メートル以上の航空管制で他の旅客機などが全く飛ばない高高度をほぼ直進できてしまう」

「沖縄ってたしか羽田からの国内線直行便でも3時間ちかくかかりますよね」

「ああ。平均2時間44分かかる。それが38分」

「そんな機体が他国に使われちゃったらとんでもないことに」

「それに近い超音速巡航の戦闘機が米軍のF-22やロシアのSU-57、かつてPAK-FAと呼ばれてた第5世代戦闘機。中国のJ-20やまだ正式発表されてないJ-35も第5世代。しかし今回の蒼電はその次の世代、第6世代戦闘機になるといわれてる」

「今時の戦闘機の速度だけならそんなに地球って狭いんですね」

「尖閣から1時間で東京に余裕で着いちゃうからね。現代戦でこの地上に安全なところなんてないよ」

「そういう時代に戦闘機が行方不明……」

「必死に探してるけど実質テントウムシだもん。見つからない。だけど今の時間まで滞空できるほどの燃料は積めないから、もうどこかの飛行場に降りてるはずなんだそうだ」

 気がつけば夜になっていた。

「ところが国外国内問わず、普通の飛行場には全くそれらしき着陸の記録も形跡もない。政府は最悪、行方不明となったと発表する覚悟なんだそうだ」

「行方不明、って。しかもパイロットもだれかわからないのに」

「政府はその覚悟とはいえ、見つけるつもりで必死なんだそうだ。調査捜査もはじめは内密に、が使える組織だけにしたかったんだろうけど、そうもいかなくなってきた」

「なんか誘拐事件みたいになっちゃってるんですね」

「そう。で、普通の組織での公開捜査寸前に、普通じゃない組織にも依頼するらしい。藤原3佐は最後に言ってた」

「普通じゃない組織?」

 そのとき、マジックパッシュの呼び鈴が鳴った。

「佐々木さん? どうしたんですか?」

 玄関に来た佐々木はすこしイラッとした目だった。

「お願いがあってきました」

「まさか、その普通じゃない組織って」

「そう。そのまさか」

 鷺沢は、指で自分と四十八願と佐々木を指した。

「ぼくらのこと。調べてくれって事でしょ、その行方不明の戦闘機のこと」

 鷺沢の言葉に佐々木はますますイラッとした顔になったが、クビを無理矢理縦にして、四十八願はそれに思わず言ってしまった。

「え、マジ?」

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