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第43話 誘拐犯は航空自衛隊次期戦闘機?(4)

「結局ここでやるしかないと判断しまして。おじゃまします」

 そういうのは石田刑事である。

「まあ、四十八願の機材はここにしかないからなあ」

「でもステキなところですね。ここ。地域の気持ちの温かさを感じます」

 石田は初めて見るマジックパッシュの中をいろいろ興味深げに見ている。

「それはそうと、その戦闘機『蒼電』はどうなっちゃったんです?」

「今のところ完全に行方不明です。三菱や名古屋空港の調査もまだまだですし」

「でも自分とこで開発してる飛行機なくすとか、正体わかんない飛行機に離陸許可出すとか、みんなプロとは思えない失態ですよね」

 鷺沢が言う。

「彼ら、プロとして強いプライド持ってますからね。それなのに」

 石田も同意する。

「とりあえず情報共有のゲストアカウントを県警と警視庁、官邸事務局が発行したのでログインお願いします」

「わかりました」

 四十八願がIDとパスを入力し、そして石田の持ってきている専用携帯の画面のなにか不思議な揺らめく雲のようなアニメーションをPCカメラで読み取った。こういう二段階認証もあるのだ。

「ログイン完了」

「すごい、航空自衛隊の統合自動防空システムJADGEの画面まで見られるんだ」

「最近政府のクラウド化でこういうの作ったんですよ」

「自慢のシステムってワケですね」

「ええ。私も手伝いましたし」

 四十八願が平然という。

「四十八願、なんでもやるなあ」

「それほどでもー」

 なぜか四十八願は照れている。

 だがそのときだった。

「あれ、なんだろうこの表示?」

 佐々木が言う。

「R-109、四国九州沖、日向灘東方訓練空域ですね。航空自衛隊機と米軍機が異機種間空戦訓練DACTをやってるみたいですね」

「こんな時に」

「かといって予定すっ飛ばしても『蒼電』が見つけられるわけでもないですよ。今回はどうやら岩国の海兵隊第242海兵飛行攻撃隊(VFMA-242)『ベンガルズ』のF-35Bと新田原第303海上支援航空隊『デンマーク』のF-35Bの訓練ですね」

「新田原のは海自の航空護衛艦『いずも』『かが』搭載運用のために作られた飛行隊だ。つい最近まで臨時F-35B飛行隊だった。新田原の昔はF-4EJ使ってたんだよね。F-4って戦闘機、独特にかっこよかったよね。そのあとF-15J/DJになったけど」

「マニアな話は良いです」

 四十八願がぴしゃりととめる。

「でも配備間もない303空のF-35BがもうDACTしてるのか。たしかに今の国際情勢、のんびりしてもいられそうにないからなあ」

「最近も我が国、また巡航ミサイルを追加購入しましたね」

「弾切れはホント怖いからね。でもこのペースの早めかた、明らかにどっかで戦争になるってのを強く推測してるんだろうな」

 そのときだった。

「緊急通報です! デンマーク02より、正体不明機アンノウンと現在接触中、識別されたし!」

「ええっ、まさか」

 F-35から電送されてきた画像情報が表示される。

「『蒼電』です!」

「なんでこんなところに!」

「というかどこで給油したんだ?」

中部航空方面隊作戦指揮所中空SOCが防空体制指標を1つ上げました。また『デンマーク』に当該不明機の追跡を指示。防衛大臣および官邸緊急参集チームへの報告も」

「正体不明機、現在速度マッハ1.2で東へ飛行中」

「F-35の巡航速度と同じぐらいだ。30分あれば余裕で東京に来られる!」

「航空自衛隊は高射ミサイルでの迎撃の準備に入りました」

「東京に来ますかね」

 鷺沢に石田が聞く。

「ここまでやっておいて海外へ脱出しなかったんだ。とすれば東京を狙うと思う。ぼくだったらそうする」

 鷺沢は顔をこわばらせている。

「デンマーク01および02、正体不明機を追跡中、しかしレーダーサイトは機影捕捉できず!」

「マッハ1.2出してるのにステルス状態?」

「三菱の技術者に寄れば、蒼電はスーパークルーズステルスが可能なんだそうです」

「そんなむちゃくちゃなものを奪われないでよ……」

「ほんとそうです。まもなく正体不明機、紀州沖に到達します。あっ!」

「どうした!」

「デンマーク01より、正体不明機を失探ロスト! 見失いました!」

「まずい!」

「防衛大臣、撃墜命令出さないの?」

「まだ出せないようです。やっても防衛出動とかの手続きが複雑すぎて時間がかかると」

「それどころじゃないのに! でもどこに行ったんだろう。振り切ってまだ東京目指すかな」

「わかりません……」

 画面には紀州沖から円の指標が広がって表示されている。蒼電が到達するだろう位置の推測円である。

東京航空交通管制センター東京コントロールに飛行中の民航機から通報あり。富士山上空で見慣れない機体を目撃したとのこと」

「まさか、蒼電もうそこまで!」

「東京コントロールは飛行中の各機を待避させ始めています! 空自からの要請のようです!」

「空自は撃墜する気だ! むちゃしやがる!」

「大臣は誰が操縦しているかわからないのを気にしているようですが撃墜を許可する模様です」

「でも急がないと人口密集地上空での撃墜になっちまう!」

「なおも正体不明機、レーダー反応なし!」

「バケモンだ……」

「空自、肉眼追跡のために戦闘機を緊急発進させました! 百里基地第3飛行隊、小松基地306飛行隊より2機ずつ発進! 三沢基地からも応援が発進します!」

「それじゃ間に合わない!」

「再び見失いました」

「首都上空に入られる!」

 そのとき、マジックパッシュでも轟音が聞こえた。

「まさか」

 その直後だった。

「首都圏の警察110番受理台に正体不明の轟音の通報多数! あと……」

「何?」

「レインボーブリッジを『飛んでくぐる』飛行機の通報が」

 四十八願の言葉に、沈黙が生じた。

「……その飛行機、南に向けて離脱したそうです。空自各レーダーサイトも探知不能。また見失ったと」

 四十八願は続ける。

「完全に蹂躙されたな」

 鷺沢の声が漏れた。


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