みんな、フーッと溜息をついた。
「なんかどうしてこんなことに、って思うけど、あまりにも情報量多くてどうして良いかわからない」
佐々木がそう訴える。
「整理が全然追っつかない。蒼電とそれあやつってる連中、あまりにもやりたい放題だよ……」
鷺沢も同意する。
「でも整理して切り分けるしかないです。こういうのの解決はそうするしかない」
四十八願はそういうが、かといって何かが浮かんでいるわけでもない。
「でも私としては、今ここにいて良かったと思います。署や県警本部では、さらになにも出来ないですから」
石田はそう言う。たしかにここでは政府の基幹情報システムや権限をもらった自衛隊の情報を表示するシステムが四十八願のマルチパネルPCのおかげで見やすい。四十八願がリモートワーク用に買い集めたそのいくつものディスプレイパネルは今真価を発揮している。その見た目は宇宙船のコントロールセンターのような物々しさである。それが畳敷きの部屋に置いてあるのがいかにもこのマジックパッシュらしい見た目である。
「どれからやったら良いかわかんないけど、やるか……」
鷺沢が息を吐くと、始めた。
「まず、蒼電を操縦する人間は誰か。その目的は」
四十八願がその鷺沢の言葉をPCで書き留め。液晶パネルに表示する。
「そしてどこで給油したり整備したリしてるのかですね。どこかに秘密の飛行場でもあるのかな」
石田の言葉も四十八願は書き留める。
「蒼電の離陸を許しちゃったのはなぜか、ですね。三菱と名古屋空港管制塔でいったい何があったのか」
佐々木も続ける。
「どれも皆目見当も付かん。ここでこうやってもどうもなりそうにもないし」
「他に出てない疑問は?」
「まだありそうだけど、とりあえずこれで掘ってみるしかないんじゃないかな」
「ですね」
「ただ一つ、ぼくも不思議だと思ってるもう一個があって」
鷺沢が言う。
「なんです?」
「あの出来レースの会見。あれ、慌てて目くらましに使ったって言ってたけど、ホントかなあ」
「えっ」
他の3人は鷺沢の顔に釘付けになった。
「たしかに時間はなかったと思う。でも、あれをやるにも時間がかかるはず。時間が足りなすぎる。いくら政府の中にそういう判断が出来る人間がいても、それにしては準備が早すぎる」
「そう、ですよね……」
「もしかすると、これ、全部を把握できないにしても、なにか予兆をつかんでいた人がいるんじゃないかな」
「そんな。どうやってそんなことを」
そのとき、石田が言い出した。
「まさか、検索エンジンや生成AIを検閲してる奴がいるのかな」
「ええっ」
「こういうことを画策する人間も全知全能じゃない。どっかでうろ覚えや勘違いがあるはず。そしてこの蒼電強奪を計画したグループがいるとしたら、話が漏れるのを避けるため、できるだけ人数を減らしているはず。その分増える見落としのチェックは生成AIを使ってるんじゃないか」
「そうですね……私も仕事で行き詰まると生成AI使ってます。便利なんですよねあれ」
四十八願も同意する。
「でもそういう犯罪計画をAIに読ませたら、AI自身がAIの倫理ルールに反すると判断して答えないんじゃ」
佐々木が指摘する。
「普通にやればそうだ。でもこんなことやる奴が普通な訳無いじゃん。そこはいろいろ回避するプロンプトを使える人間だと思うよ。生成AIはにもかかわらず使い手によっては恐ろしく有能だ」
鷺沢が言う。
「
「それも友好国の政府内のデータまで見境なくやって、ウィキリークス事件で暴露されたよね。いくらなんでもやり過ぎだ。民主主義に反するって。でも米は同時多発テロのショックでそういうことを見境なくやるようになった。テロリストの嫌疑のある者をグアンタナモで拷問したり。まあ中国とロシアはもっとむちゃくちゃしてるけどあれはならず者国家で警戒されてるからね」
「でもこの監視社会、そのうえ多くの人がだれでもスマホで写真や動画撮れる時代に、こんなあからさまな大事件起こして知られないって、どうして出来ちゃうんでしょう」
「たしかに。どっかにああいう見慣れない飛行機が降りれば、スマホで撮ってSNSにアップするような人間は絶対いるよね」
「それなのにまだ全然それがない」
「YouTubeとかだと『考察班』なんて言っていくつかこの件の考察動画がすでに上がってるけど、ほとんどがすでに知られてる当たり前のことに時間を割いて、考察部分は数秒だ」
「ただ話題に乗って収益稼ぐためなんでしょうね。クズ動画でイヤになりますが」
四十八願がそう吐き出す。
「でも……それがどっかで日本政府の一部に知らされてたのかな」
「防衛省監察本部の藤原3佐はすごくビビってたので、あのレベルには知らされてないんだろうね」
「あの人ほんと純朴でウソつけなさそうですよね。大丈夫かと思うけど」
そのときだった。
「おー、楽しそうだなみんな」
「
鷺沢がかつて行きつけの模型店で店員バイトしていた元陸自偵察隊のバイク隊員の橘がやってきた。
「ああ、やっぱりこの件にも首突っ込んじゃってたのか。ホント危なっかしいなあ」
橘はそう理解している。
「橘さん、なんか知ってる?」
鷺沢が聞くと、橘は白い歯を見せてにやりと笑った。
「知ってるんだなそれが」
「ええっ!」
全員これには驚くしかない。
「なんで?!」