「いや、この前用事で地下鉄千代田線に乗ったら、それが代々木上原折り返しの列車で、向かいの席に年配の女の人が座って寝てて。なんか役所の資料みたいなの持ってるから霞ヶ関か国会議事堂前で降りるのかなと思ってたら、降りないでそのままで。いや、これ乗り過ごしじゃね? どっかで起こそう、そうだ代々木公園で気づかなかったら起こそうと思ったけど、俺、気づいたら駅員に起こされて。代々木上原まで寝ちゃってたの俺も。そしたらその彼女も一緒で。で、お疲れですね、っていったら、向こうもこっちに気づいてたらしく。大丈夫すか、って聞いたら、永田町に戻らないと! って。で、いろいろ話したらその人、防衛担当の内閣参与さんだった」
「なにそんな偶然で凄いレアキャラ引いてるんですか!」
「そしたら、その参与さんに物騒ですけどボディーガードいなくて良いんですか、って聞いたら、いろいろあって警察のSP連れられなくって、って言うんで、じゃあ俺雇ってくれます? っていったら、話してるうちにそうなって」
「ええっ、じゃあ橘さん、今……」
「そう。内閣参与のプライベートボディーガード」
「へええ!」
「で、いろいろ話してるうちに。教えてくれた。その参与さん、防衛政策担当なんだけど、次期戦闘機関連で困ってることがあって、って」
「大丈夫なの参与さん、そんな口軽くて」
「まあボディーガードだし」
「そうなのかな」
「それで聞いたのが、たぶんNSA情報だろうね。どうも戦闘機開発の現場関連で物騒なこと生成AIで調べてるのが何人かいるらしい、って話で」
「マジ!? でも重工さん、前工場で修繕中の戦闘機の配線が何者かによって故意にズタズタに切られた事件があったよね。あれ内部犯行だったんじゃないかな」
「重工さんもいろいろだからね。で、こっそり調べたら、案の定、重工さんの中で国際協調で開発するのに異論持ってるグループがいたらしい。イギリスやイタリアの協力は役に立たない、自分たちだけでやりたい、って」
「うわー。でも重工さん、プライド高いのまだいそうだもんなあ」
「昔からそうだよね。系列会社製の自動車でないと系列会社の駐車場に置けないとか言う噂もあったから」
「で、どうしたの?」
「警察公安部がこっそり内偵を始めてた。そりゃ危ないから公安外事部も動き出してた。でもそれ、彼らに察知されちゃったのね」
「やたら勘が良いなあ」
「いや、警察がしくじったの。警察、テクノロジー苦手だし、彼らはめちゃ得意でそういう内偵されるのを予測していろいろトラップしかけてたらしくて」
「本当? でもそれで試作戦闘機を勝手に発進させちゃマズいよなあ。それもパイロットの素性も隠し通して」
「そこがね、彼らは一つのシナリオを作った。それが試作戦闘機蒼電の強奪計画が良くない連中に画策されていて、それを阻止するには蒼電を発進させるしかない、ってストーリー」
「ええっ」
「生成AIを上手く使ったみたい。それがなかなかリアリティのある話になっちゃったらしい。たしかに小説や映画のストーリーとして見てるときは『まさかねえ』と思えても、実際自分の身の回りでそういうことが起きてくるとたしかにビビってしまう。で、そのストーリーはそれを補強するいくつかの作られた証拠と共に共有され、それに工場の連中だけでなく空港の管制塔の連中の一部まですっかり騙された。管制塔ではその連中とそうでない連中でケンカになって」
「それで空港のフォローミーカーで蒼電をおっかけたのか。結局離陸されちゃったけど、空港の管制塔がそういう危機状態だったらあるかもなあ。なかなかあることではないけども」
「そう。地に足着いてるんだから落ち着いて真偽考えてほしかったんだけど」」
「スゲーな生成AI。すでにここで稀代の詐欺事件が確定だ」
「AI怖いよね。たしかに。こうやって詐欺師の道具にされたらマジやばいわ」
鷺沢もみんなもあまりのことにボー然としてしまった。
「で、その連中はどこにその蒼電かくして、そして給油して再整備して飛ばしてんの? 秘密の基地でもあるの? その資金は誰が?」
「そこまでは、まだなんだ」
「そうか……」
鷺沢はうなった。
「でも、そのAI監視、NSAは全部は教えてくれなかったんだろうな」
「そうだな。NSAも手の内は全部はじめからは教えない。とくに今回の戦闘機、一応アメリカはなんとも思ってないと言うことになってるけど、アメリカには第6世代戦闘機はまだない。何を日本が作るか興味がないはずない。多分そこで寸止めしたんだろう。もっと知りたきゃ何かで払え、って」
「なるほどね。じゃあ」
鷺沢の目が四十八願に向かった。
「できるかな? AIに吐かせるの」
「またプロンプト・インジェクションでしょ。ええ、やりますよ」
四十八願はいやいややり始めた。
「もー。人使い荒いのはどっちよ」
鷺沢はそういう四十八願に『ゴメンね』の仕草をしている。
「でもその戦闘機、そのあとどこに着陸したんだろう。国内外どこの基地も飛行場もしらべても見つかんなかったって」
石田がいう。
「でも、何か見落としてるのかな」
佐々木がそう漏らす。
「でも何を見落としてるのかがわかんないからなあ……」
「うーむ」
このマジックパッシュにあつまった彼らは皆、知恵を絞ってうなった。
「あと、なんでレインボーブリッジの下をくぐるなんて真似したんだろう?」
「その目的もわかんないよね。なんで進んでそんな危ないことを」
鷺沢はそれを聞きながら、こめかみに手をやっている。
「なんですかそれ」
「いや、とあるマンガで見た、ひらめきを得るおまじない」
「そんなのに頼るんですか」
「今はなんにだって頼りたいさ。下手すりゃ大事な新型戦闘機が戻ってこないことになる。日本国民として大損もいいことだし。絶対に無事に取り返さないと」
「そりゃそうですけど」
「ひらめきの神様、ひらめきの神様、かしこみかしこみお願いします……」
「そういう台詞なんですか」
「そのキャラ、これ、医者に1日3回までってとめられてるって台詞だった」
「なんですかそれ。変なマンガだなあ」
ぐりぐりとこめかみに当てた拳を動かしている鷺沢に、佐々木がすっかりあきれている。
だが。
「ぴっきーん!!」
鷺沢がそういって目を見開いた。
「ええっ、なんですか!?」