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第46話 誘拐犯は航空自衛隊次期戦闘機?(7)

「ようしわかった!!」

 鷺沢が力強く言う。

「なに横溝正史の等々力警部みたいに言ってるんですか」

 佐々木があきれる。

「たぶん、だけどね。蒼電がどこに着陸したか、だいたいわかった」

「ええっ、どこですか」

 鷺沢が逢えて間を開ける。

「なにもったいつけてるんですか」

「いやね、飛行場は全部探した、って言うでしょ」

「そうですけど」

「飛行場じゃないとこは探してないよね」

「そりゃそうですよ。そんなところに着陸できないですから」

「ところが、これ」

 鷺沢がネット検索を見せる。

「え、この戦闘機、高速道路に着陸してる……」

 佐々木が驚く。

「あ、有名ですよね。高速道路を代用滑走路として離発着する戦闘機。普通の基地はすぐ制圧されてしまうだろうから、高速道路とか使えるように、って」

 四十八願が言う。

「そう。ノルウェー空軍、パキスタン空軍、台湾空軍、さらには米空軍までもが高速道路での離発着訓練を実施している。能力的にもそれを新型機に用意することはある。ノルウェー空軍はしかもそれで最新鋭のF-35Aを高速道路で離発着給油までしてる。そのためにスイスの高速道路は中央分離帯が撤去できる」

「でも日本でそんなのあるんですか? 聞いたことがない」

「そりゃそうだよ。日本の高速道路はそのために作られたことがない。直線も短いし路面も弱い」

「じゃあ、どこへ」

「それがさ、国交省も問い合わせを受けても忘れてたと思うのがあって」

「え、なんです?」

「国交省が整備しなかった飛行場があるの。空港法でも空港扱いされてない」

「まさか……」

 石田が気づいた。

「ずーっと昔のテレビで見たかも。こんなの無駄だ、ってテレビでやってた」

「そう!」

「農道を広げて作った飛行場、だったかな」

「そう、農道空港。空港法では臨時にしか発着しない場外離着陸場あつかいだし、整備は農水省の整備事業で行われてる。もともと高級農産物を小型飛行機で出荷するのにつかうつもりで作られたけど、結局需要予測が実態と離れすぎてて、その整備事業自身も1998年で廃止され、その目的ではほとんど使えてないまま。それが全国に8カ所ある。滑走路長は800メートル幅25メートル。有視界飛行での離発着しか出来ない」

「そんな長さじゃ、戦闘機の離発着はは無理なんじゃないですか」

「普通はね。F-15とかは1500メートルの滑走路でやってるし、だいたい戦闘機は爆弾やミサイルをどっさり積むから長い滑走路が必要。でも今回の蒼電は?」

「試作機だ……ってことは、武装してない?」

 石田が気づく。

「してたとしても軽装備だろうね。空自のF-2Aは離陸は最短370メートル、着陸は450メートルでも出来る。F-15も何も武装しなきゃ600メートルで離陸可能とも言われてる」

「そんな!」

「でも農道空港、無駄で事業廃止なら使われてないのでは?」

「それが作っちゃったもんだから、なんとか活用できないかといろいろやってるんだよね。ドクターヘリと救急車のランデブーポイントにしたり、スカイスポーツ用に使ったり、広い平坦地を生かしてイベント会場としての貸し出し、トラックの走行実験、ラジコン飛行機大会に盆踊り会場、消防の防災訓練とかに使ってる」

「なんか必死なんですね」

「そりゃ役所だもの。でも議会から維持費に見合わないとか、廃止しろって言われてるとこ、さらにはNPOに運営を移管してるとこもある」

「厄介者扱いじゃないですか」

「そう思うと……つながらない?」

「あ!」

「そう。国際共同開発に異を唱えたい厄介者開発者と、そういう農道空港に賭けて追い詰められちゃった人々。共通項はスカイスポーツかもしれない。飛行機の開発者がスカイスポーツを全く知らないことは少ない。むしろつながってるだろうね」

「でもその資金はどうなるんです? 農道空港が使えるとしても、補給する燃料の確保、格納庫まではいかないけど駐機を偽装するなにかはお金かかりますよね」

「それが、日本とイギリスとイタリアの共同開発でしょ、蒼電とF-3。でも、もう一つ参加したかった国があったの。サウジアラビアね。日本政府はそんな国混ぜたら中東の対立に巻き込まれてヤバいから拒絶した」

「でもサウジは王家の独裁で……ということは」

「サウジの関係者が金を出したんだろうね。うまくいったら蒼電のF-3に絡めると思って」

「めちゃくちゃです!」

「でもそうなるとレインボーブリッジもつながってくる。農道空港、今は空港で使えないとしても人々が知恵を絞ってなんとか維持してるのに、国は事業廃止の上に地方を切り捨てて、その結果本当に廃止になりかけてる。その地方に支えられながらも地方に不便を強いて栄え人口も金も集める東京。その象徴を辱めたかったんじゃないかな。ふざけるな、と」

「そんな……」

「四十八願、どうなった?」

「だいたいそんな感じですね。AIもだいたい同じストーリーを自白しました。最後にはAIがスゴく苦しい言い訳はじめて、なんか可哀想に思えてきましたが」

「生成AIなんて確率演算のかたまりで意思なんてないのに」

 鷺沢がそう指摘する。

「こうして人間はだんだんAIに譲歩したりしていくんでしょうね。それはそれでいやなものですが」

 四十八願はそういうと肩をすくめた。



「蒼電を隠していた農道空港が見つかったそうです。そこはやっぱり市長の諮問機関に廃止を突きつけられてて、そこにサウジの王家からのお金で多数のジェット燃料の代わりになる灯油のタンクローリーと仮設大型テントを置いて蒼電を再給油、再整備したんだそうです。でも」

 佐々木が言う。

「でも?」

「一人、そこから行方不明の子がいるらしいんです」

「なんだそれは」

「まだ調べてる途中らしいんですが。未成年で、誘拐の可能性でそこの警察が捜査してたんだそうです」

「ええっ、誘拐事件?」

「そうらしいです。今その捜査範囲を拡大しようとしてるとのこと。あと、蒼電自身の機体も、そこの警察が到着したときにはなかった」

「まさか」

「ええ。また離陸しちゃって行方不明だと」


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