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第82話 逮捕者は国家元首?(2)

「でもまた例によって発信源さえ調べてレポ納品すれば終わりですよね。さっそくやりますよー」

 四十八願がそう言ってPCに向かい、キーを叩く。

「カラハンのそのgoドメインの発信者情報、さらっと調べますね。必要ならその先の論理と物理のネットワーク図とか手に入れてみますけど、まだそこまではいらないですよね」

 歌うように言いながら四十八願の手は止まらない。

「!!」

 四十八願の手が止まった。

「どうしたの?」

「リアルタイムログ監視の警報が。さっそくむこうもポートスキャンを仕掛けてきてます。サービス提供モード2に移行。一次ポート閉鎖開始」

 四十八願がいつも使っているPCのサブ画面をクリックする。

「ポート閉鎖よし。で、こっちはさらに調べていきますよ、と」

 四十八願の目がますます輝いていく。

「四十八願、このまえ北朝鮮のハッカー集団とガチでやりあってたもんね」

「あれにくらべれば、それほどでもない感触ですよ」

 四十八願はそういって、傍らのコーヒーのマグカップに手をやった。

「ざっくりですが、発信源はカラハン共和国軍戦略偵察総局ですね。基地はカラハン首都のサルマクスタンにあるアリフカラハン記念空港に隣接した空軍基地内とまで特定しました」

「はやっ。もうそこまで?」

「ただ、これは組織そのものがそこにあるという情報じゃ無いです。あくまでも論理ゲートウェイがそこだって話で、実際クラック操作をしている要員は世界中に分散している可能性は強いですね」

「人員規模は」

「おそらく2000人規模。でも北朝鮮121局は7000人、日本の自衛隊サイバー防衛隊などの関連人員が1430人。2027年までに2万人に増やす予定ですが」

「なるほど……カラハンは国の規模にしてはサイバー攻撃部隊に力を入れてる方になるのか」

「そうですね。一応当該基地の写真を入手しました」

「え、どこから?」

「このまえお世話になった情報収集衛星です。光学衛星がちょうどパスするところでした」

「でもわからんなあ、これだと。ただのバラックがいくつかあるって事しかわからない」

「それは晴山さんにお願いします。晴山さんの専門なので」

「そうだね」

「承知しました」

 晴山が自分のPCでその画像を加工して分析を始める。

「なるほど……この四十八願さんの位置ではなんともなんですが、この基地内にかなり真新しい衛星通信施設が整備されてますね」

「例のスターリンク?」

「いえ、あれだったらもっと小規模で運用可能なはずです。これはもっと別の衛星通信を使ってるんでしょう。おそらくロシアの静止軌道のエクスプレス衛星でしょうね。あとアンテナの形状からロシアのグロナスのものもあります」

「グロナスってロシア版GPSみたいな測位システムだよね」

「ええ。でもこれ、グロナスのシステムの指揮を執る規模なんですよね……なんでまたカラハンにこんなものがあるのか」

「怪しいなあ。ロシアとどういうつながりがあるんだろう」

「それと日本の総理暗殺予告ですからね」

「だよなあ……メチャメチャきな臭い話だよなあ」

 鷺沢が息を吐いて、改めて佐々木に言った。

「佐々木さん、これ、ほんとにぼくらが調べるんでいいの? こういうのを調べるにはもっとしかるべき組織が日本にもあると思うんだけど」

「それが、大倉参与はとくにマジックパッシュにお願いしたい、って」

「なんででしょうね」

 四十八願も不審がる。

「もしかすると……」

 鷺沢が何か思い当たったようだ。

「日本政府がまだ正式に相手してると思われたくないのかな」

「え、カラハンは政府が直々にgoドメイン使ってるのに?」

「同じレベルで争いたくないのかも」

「そんな事ってあり得るんですか」

「たしかアメリカでそういうことがあった。ソ連の事故で沈没した潜水艦を引き上げるのに米政府じきじきではなく当時アメリカの大金もち・ハワードヒューズの財団がやったってことがあったと思う」

「プロジェクト・ジェニファーですね。ソ連のK-129を引き上げた巨大サルベージ船・グローマー・エクスプローラー。CIAとの共同作戦で、それでアメリカは核魚雷や暗号表といったソ連の軍事機密を入手した、という話ですが公式には確認されてないです。それにサルベージ船も本来はマンガン団塊採掘という目的とされていました」

「国ってそういうことあるからなあ。ソ連の潜水艦が欲しくてもアメリカ政府が直々にやると外交問題になっちゃうもんね。今回もそういうことで偽装したいのかも」

「なるほど」

「佐々木さんここで感心しないでください」

「というか佐々木さんにそういうこと説明しないでやらせてるのか……大倉参与、じつはもっと深いこと考えてるっぽいなあ。この件、実はもっとやばい話になるのかも」

「え、どういうことですか」

 鷺沢は考え込んだ。

「こういうとき、おれたちが子ども食堂と併設ってのが心配になるんだよなあ」

「そこは大丈夫ですよ」

 四十八願がうなずく。

「かんたんにはバレません。ここのPCはそもそも直接にはネットにつながってないですし」

「そうだよね」

「結構慎重に偽装してありますからね。身代わりになってくれるゲートウェイはずっと遠くですし」

「佐々木さん、こんなので十分?」

「大倉参与に聞いてみます。たぶんこれで十分じゃないかなと」

「佐々木さん、これじゃただの大倉参与とぼくらつないでるだけのただの伝声管ですよね」

「仕方ないわよ。あの人、余計なことほとんど教えてくれないし」

「でも話はしてるんですよね」

「ええ。警視庁の竹カナコ警部と一緒に捜査してた頃の話とか。警視庁捜査一課の大部屋の端っこにコーナー作って3人でいろんな変な事件の捜査してたとか」

「うっ、それ、大人気のドラマ『相棒』みたいじゃん……」

「『相棒』の初放送は2002年10月、大倉参与が警部補でいた捜査一課特殊犯5係は2000年3月ですね」

「四十八願、いつの間にそんなこと調べたの?」

「そりゃ調べないと。相手のこと知らないのに一緒に仕事なんて出来ないじゃないですか」

「そうっちゃそうだけど」

「でも、そのときの係長の警部、どうしちゃったんでしょうね。鈴谷っていう警部だったらしいんだけど、その後どうなったかがサッパリわからない」

「ぼくに聞かれても。でも変だね、たしかに」

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