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第86話 逮捕者は国家元首?(6)

「で、思ったのね。大倉参与たち官邸が今、何考えてるか、なんとなく」

「どんなことです?」

「今言って良いのかなあ、これ」

 四十八願も晴山もそういう鷺沢の顔を不審そうにしている。

 そのとき、テレビのニュース番組が眼に入った。

「総理、また外遊するんですね」

「外遊って言うけど遊びに行ってるわけじゃないさ」

「支持率どん底なのに。また資金援助の約束してくるんでしょうか」

「日本が外交努力するにはお金しか無いよ。外交ってのは顔つなぎとお金か武力威嚇かしかないんだ。でも日本は武力威嚇は出来ないし、海外への資金援助はそもそも国内でぼくらに使えるお金じゃ無いからね」

「結構それ間違ってる人いますね」

「もっと国内に金回せ、ってね。総理、家族に東大卒が多くてコンプレックスなのか、すぐ財務省のいいなりみたいに財源確保だ、増税だ、って言っちまうから評判悪い。でも最近は引っ込めてるけど」

「でも、どこ行くんだろう」

「中央アジアのあと、東南アジア歴訪だそうです」

「やっぱり中国対策なんだろうなあ。一帯一路でかなり中国の息がかかってる国が多いみたいだし」

「ロシア対策でもあるんでしょうね。ウクライナがこのままナアナアでおわって侵略していいことになったら、次は台湾って事になっちゃうし、そうなると日本もたまんないですから」

「日本だけじゃない。世界中が大迷惑だ。戦争やっていいことなんてない。ロシアもいいことないはずなんだけど、それを判断する力もプーチンにないからね。ロシア人は年金がもらえればウクライナなんてどうでも良いらしいし。でもそうやってると戦場に送られて西側兵器にすりつぶされちゃうんだけどね」

「ほんと、心が痛みます」

「中国もまともに判断して欲しいんだけどね」

「してくれるんでしょうか」

「わかんないよ。自衛隊とかは戦略的にも監視してるだろうけど、その結果は安易に知らせはしないだろうし。でも古いトマホークミサイルでもいいからってアメリカから買ってる。とにかく数揃えようとしてるのは、弾切れが怖いって状態が近いって事なのかもね」

「恐ろしいです」

「でもさ」

 鷺沢が言い出した。

「『相棒』とか警察モノの推理ってさ、年末年始とかのスペシャルでせっかくこういう国家とか政治とかあつかっても、絶対そういうのを真相にしないで、個人の怨恨が真相だった、ってしちゃうよね。せっかく警察機構の問題にしても、それほっといて弟とか子どもが殺されたとかの個人的な恨みとかにしちゃう」

「うっ、何ちょっとメタいこと言ってるんですか」

「でもそうですわねえ。しかもそんなに恨むなら直接殺さないで普通に刑事民事で訴えちゃうとか、それが無理ならマスコミに流すとかしたほうがずっと合理的なんですよね」

「だいたい今の日本じゃ1人殺しても死刑にならないじゃん。だったら恨む相手をサクッと1人だけ殺して『すんませんどうしても勘弁できずに殺しました』って自首すれば情状酌量されちゃうかもなんだよね。それを下手に完全犯罪狙って連続殺人なんかしたら罪重くなって死刑になって復讐にならなくなるし、しかも相手の警察は四六時中そういうこと考えて相手にしてるプロだよ? それを出し抜くってどう考えても無理なのに」

「いきなり推理ドラマとか推理小説の否定に入らないでください!」

「まして推理小説、そのトリックのために明らかに不自然な館建築したり。それ建てた奴に狙われそうなすねに傷持ってる人間がそこに呼ばれて、のこのこきてなんでそれ見てヤバいって気づかないのか」

「ひいい、よその名作の批判もしないでください!」

「まあ、そんな組織とか国家の問題とまともに対決したら2時間とかでは全然決着しないし趣旨もズレるからだろうね。推理モノでなくなっちゃう」

「メタ過ぎます。この話だって推理だと思ってましたよ」

「でもすでにここまでのこの話、推理にしちゃ変なことばっかりだよね。そもそも対人巡航ミサイルなんて出してる推理、うちだけでしょ」

「そうですよ。もうちょっとまともな解決しないと」

「だってうちの犯人がまともじゃないんだもの。僕らは悪くない」

「もう、ほんとメタ過ぎるってば! こんなんじゃどっかの鉄道研究部みたいですよ!」

「著者が同じだもの。これも僕ら悪くない。これも著者が悪い著者が」

「めちゃくちゃです!」

「とは思うんだけど、この話、さすがにここまできてほんとグズグズになってる気がするんだよね」

「キャラなのにストーリーに文句つけないでください!」

「そもそも何の話だったっけ、って思っちゃってたの。ここで正直な話」

「ひいいい!」

 四十八願はすっかりあきれて泡を吹いている。

「まさかのここにきて小説崩壊……」

 晴山も唖然としている。

「でも、ここまできてわかってるのは、この話の犯人、ぜんぶ海外のやべー国なんだよね」

「そうですね……」

「単純な恨み辛みってのはないですね、ほとんど。あってもその背後には海外が」

「そのかわり、きっちり解決してる感は薄いかもしないです」

「推理小説ってのはパズル的なきっちり感、だいじなんだけど、それはうちの著者には書けないっぽい」

「その結果軽くミッションインポッシブルみたいな真似をすることになっちゃいましたもんね」

「はたして、これでいいんだろうか」

「えええっ、それ、私たちが考えることなんですか!」

「そりゃそうなんだけど、さすがに著者任せにしてるのが不安になってきた。というのも、大倉参与の考えてる事って、わりとすごいことだと思うからね。総理も外務大臣も同意してるんだろうけど」

「どういうことです?」

 鷺沢はすこし間をおいた。 

「それは『勇気』ってことさ」

「え」

「この国に本当は一番足りないけど、世界の多くの国が期待し、そしてやましいことのある国がもっとも恐れて潰そうとしているモノでもある」

「ええっ」


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