ハリエットは表情を曇らせたまま固まっていた。
そんな彼女を見て、アルフレッドはふむ、と顎先に手を当ててゆっくりと同じ言葉をもう一度繰り返す。
「ティアーズのオークションに参加するにはどうすればいいか方法を教えてほしい」
「は……?」
さっきよりも間の抜けた声で返してしまう。
(ティアーズって、やっぱり
世界的に名を馳せる、この国で最も有名なオークションハウス「ティアーズ」。
その敷居の高さは折り紙付き。
事前登録に加え、資産や信用を証明できる書類の提出が必要だ。
そもそもコネクションがなければ、門前払いが関の山。
小さな骨董品店のいち従業員が手助けできるような案件ではない。
(そんなこと言われても。兄のジェイドならともかく、私にはどうしようも……)
顔が広く業界の事情に精通している兄の顔を思い浮かべ、ハリエットはやはり無理だと首を振る。行きたい、と言われても何も手助けができない。自分にできることはないのだと、口を開きかけた時だった。
「ただいま! ハリエット、いるかい?」
明るい声とともに、店の扉が勢いよく開いた。
「いやぁ。今日も大漁大漁! 上等な家具を仕入れられたぞ、――と。ハリエット、ただいま、母さんは?」
「ジェイド!」
ハンチング帽を片手に持ち、どかどかと店内に踏み込んできたのは兄のジェイドだ。
ハリエットと同じ白シャツにダークグリーンのベスト姿の彼はアルフレッドの存在を認めると、ブラウンのスラックスを履いた足を不意に止める。
「お客さん?」
「ジェド。急に止まるな。危ない」
後ろから苛立った声とともに、ジェイドの背を押しやる男の姿が現れる。
「やあハリエット、お邪魔するよ」
「ヘンリー!久しぶりね」
深みのある藍色の目を和やかに細めながら現れたのは、兄の親友のヘンリーだった。いつもながら洗練された身なりで、兄とは大違いだとハリエットは心の中で感想を漏らす。
旧知の友人の登場にハリエットは一瞬ほっとした表情を見せる。だが、次の瞬間、いつの間にか隣に来ていたアルフレッドが二人を指差して困惑気味に問いかけた。
「……誰、彼ら?」
「兄ジェイドと、その友人のヘンリーです」
お客さんに紹介するのも変な気分だったが、オークションの件は自分では手に負えない。ここは骨董品店の主である兄の力を借りるしかないと、ハリエットは肩を竦めた。