性欲を筆頭にあらゆる感情を取り戻し荒ぶる勇者だったが、魔法使いへの恐怖心も同時に思い出してしまった。
勇者「コワイ……マホウツカイ………コワイ……」ガタガタ
騎士「とりあえず魔法使い殿のおかげで大人しくなってくれましたな」
魔法使い「ものすごく不本意なんだけれど」
騎士「えー今の状況を整理しますと、勇者殿に戻った感情は……自己承認欲求、名誉欲、金銭欲、物欲、食欲、性欲、そして恐怖と」
魔法使い「溢れんばかりの性欲を持て余す屈強で強欲な男が恐怖心で欲望を抑え付けられて震えている状態ね」
騎士「我々はとんでもないモンスターを産み出してしまったのかも知れませんぞ」
魔法使い「やっぱり始末するべきかしら」
騎士「いえ、まだ勇者殿を形成する上で大切な感情を思い出させておりませんぞ」
魔法使い「勇者の感情……」
騎士「それはズバリ……勇気!そして……」
魔法使い「愛ね」
騎士「あんたその言葉死ぬほど似合いませんな」
魔法使い「……」ドゴッ
騎士「グハッ」
魔法使い「とりあえずその愛と勇気とやらを勇者に取り戻して貰えばいいのね」
騎士「腹に無言で膝入れるのはやめてくだされ……」
魔法使い「でもどうやって取り戻させればいいのよ」
騎士「この写真を見てくだされ」
魔法使い「これは……若い女?」
騎士「そう、実はこれは勇者殿の幼馴染であり婚約者だそう。これを勇者殿に見せればきっと愛を取り戻すことでしょう」
魔法使い「あんたなんでこんな写真持ってるのよ」
騎士「先日、建て替えた3万Gを返してもらおうとちょっと鞄を漁らせていただきました」
魔法使い「あんたまさか私の鞄も漁ってないでしょうね」
騎士「ハハハ、マサカマサカ」
魔法使い「…………まあ愛はそれでいいとして、勇気はどうすんのよ」
騎士「それは任せてくだされ!このワシにいい考えがありますぞ!」
魔法使い「?」
…………………。
騎士「勇者殿ー!!」
勇者「コワイ……マホウツカイ……イナイ……?」
騎士「ワシがついているので大丈夫ですぞ」
魔法使い「こいつ私をなんだと思ってんのよ」
騎士「ところで勇者殿、この写真を見てくだされ」
勇者「…………コレハ……」
騎士「そう、この綺麗な女性は勇者殿の婚約者。勇者殿は魔王を討伐して平和な世界で彼女と結婚して幸せに暮らすのが夢だったのでは?」
勇者「オレハ……コノコト………コノキモチ……コレガ……」
騎士「そう!」
勇者「セイヨ…………愛?」
騎士「そう!愛ですぞ勇者殿!」
魔法使い「ギリギリだったわよ今」
勇者「ソウカ……愛……オレハ愛ノタメニタビヲ……!」
騎士「さあ後は勇気を取り戻すだけですぞ!」
魔法使い「どうすんのよ」
騎士「魔法使い殿……両手を後ろに組んでみてくだされ」
魔法使い「なによ?これでいいの?」
騎士「はい。これで完了ですぞ」ガチャッ
魔法使い「なっ!?ちょっとあんた何よこれ!!」
騎士「これは先日、魔法使い殿の鞄を漁って見つけた手錠ですぞ!」
魔法使い「やっぱ漁ってんじゃないのよ!!!外しなさい!!あんた本気で殺すわよ!」
騎士「さあ勇者殿!最後の試練ですぞ!魔法使い殿を攻撃してみなされ!」
勇者「マホウツカイ……コワイ……」
騎士「大丈夫ですぞ!この通り体はワシが後ろから抑えていますしなにより両手が使えません!さあ勇気を振り絞って!」
魔法使い「冗談よね?ね?ね?私なんて攻撃してもいいことないわよ!?お願いやめて!」
勇者「オレ……ガンバル……ユウキ……オモイダス」
魔法使い「思い出さなくていい!そんなもん思い出さなくていいから!!」
騎士「さあ!張り切って!」
勇者「ウオオオオオオオ!」
魔法使い「いやああああああああ!!!」
『勇者の攻撃!しかし騎士が盾でガードした!』
騎士「ふぅー……間一髪でしたな魔法使い殿」
魔法使い「あっ……あっ…」
騎士「しかしやりましたぞ勇者殿!恐怖を克服して魔法使い殿へ剣を振り下ろせました!」
勇者「コ……コレガ……勇気……?そうか……俺は勇者!勇者だ!」
騎士「思い出しましたか勇者殿ー!!」
勇者「おお!騎士!騎士じゃないか!」
騎士「いやーよかったですなー!ねー魔法使い殿!」
魔法使い「………………」
勇者「おぉ、魔法使い!そんなところにへたりこんでどうしたんだ?」
騎士「はっはっはっ。なあに少し驚いただけですよ」
魔法使い「……そうね……大丈夫よ」
勇者「そうか!ならよかった!」
魔法使い「えぇ、勇者よかったわね……ところで騎士。話があるからちょっとこっちきなさい」
騎士「なんですかな?」
魔法使い「いいからきなさい」
騎士「あだだだだ。行きます行きますから引っ張るのはやめてくだされ」
勇者「おいお前らどこに行くんだ」
魔法使い「すぐ済むから待っててね勇者」ニコッ
10分後
勇者「おい…なんだよコレ……なにがあったんだよ」
騎士「……コワイ…マホウツカイ……コワイ…コロサレル……コロサレル……サンマン…イラナイ……」ガタガタ
魔法使い「かわいそうに……よほど怖いことがあったんでしょうね……ふふふ」
勇者「なんでニヤついてんだよ」