令嬢「爺や!爺や!」
爺「お呼びですかなお嬢様」ズバッッ
令嬢「なんでそんなジジイ離れしたスピード感で登場するのよ。もっとゆっくりでいいわよ」
爺「いえいえそんな……私は爺や……なの……で……ゲホッゲホッ」
令嬢「爺やだから言ってんのよ。死にかけてんじゃない」
爺「してお嬢様、今宵は一体どのような粗相を」
令嬢「してないわよふざけんじゃないわよ」
爺「ホホホ……ちょっと前までは赤子だったのにご立派になられて……」
令嬢「だからあんた知らないでしょ私の赤子時代」
爺「オホホホ……そうでしたな……」
令嬢「なんで笑い方がマダムなのよ」
爺「それではお嬢様。爺はこの辺で失礼させていただきます。今宵もお嬢様に素敵な夢が訪れますよう……」
令嬢「待ちなさいよ。なにちょっとそれっぽく締めようとしてんのよ」
爺「まだ何か?」
令嬢「なんなのそのやりきった感。あんたまだなんもやってないでしょ」
爺「それではお嬢様は今夜はどのようなご用件で?」
令嬢「あぁ……実は……ちょっt」
『I kill you!deth!deth!fuckin!』
爺「もしもし」
令嬢「何ノータイムで携帯取ってんのよ。せめて一言断りなさいよ。あとその着うた変えなさい」
爺「おー久しぶりじゃん!えっ、今……?大丈夫大丈夫。うん。全然。暇してたとこ」
令嬢「こいつマジでクビにしてやろうかしら」
爺「ブワッハッハッ!マジ!?えっ、それもしかしてあいつがバラしちゃったの?マジかー!うわーやられたー!マジウケる!そうそう俺なんよー!ビックリしたっしょ!?」
令嬢「なにそのキャラ」
爺「あ、やべっ、そろそろ切るわ。そうそう仕事残っててさ。いやー今アレに呼ばれててさー」
令嬢「今こいつ私のことアレって言わなかったかしら」
爺「あーいじゃあまた後でー!ウィーお疲れー……はいはーい……Love you……」
令嬢「なにそれダサい」
爺「失礼。警察からでした」
令嬢「もっとマシな嘘つきなさい」
爺「とりまお嬢様……そろそろご用件を言っていただかないと……」
令嬢「あんたのせいで先延ばしになってんでしょ」
爺「左様でございましたが……それはウケますな……」
令嬢「口調が戻りきってないのよ。切り替えなさい」
爺「申し訳ございませんお嬢様。仕切り直します…………ッシャ!シャーこい!オラッ!」バチッ!バチッ!
令嬢「なんで気合の入れ方がレスラーなの」
爺「爺はこう見えても新日プロレスに所属していた時期がありまして」
令嬢「何よその衝撃の過去、この前の話では言ってなかったじゃない」
爺「些細なことですので省かせていただきました」
令嬢「それ一本で面接乗り切れるレベルで濃い経歴よ」
爺「えーとそれで……国王様の遺産相続の話でしたかな?」
令嬢「違うわよ。なんであんたにそんな国家スケールの相談すんのよ」
爺「それではどんな?」
令嬢「実はね……私、昨日……」
『ブーッブーッ』
爺「おや」
令嬢「ごめんなさい。今度は私の携帯が鳴ってるみたいね」
爺「お嬢様はサイレントマナーという機能をご存知ですかな」
令嬢「なにあんた本当にしばかれたいの」
爺「取らなくてよろしいのですかな?」
令嬢「……いいわよどうせ大した相手じゃないわ…………」
爺「昨日喧嘩してしまった同級生の男の子……ですかな?」
令嬢「な……!なんであんたがそれを……!」
爺「フフフ……その男の子の名前はタケシ君。体が大きくて仲間内ではガキ大将のような存在ですが気の強いお嬢様とはそりが合わずに二人はよく喧嘩をしてしまう……違いますかな?」
令嬢「すごい……全然違うわ…………誰よそれ…………」
爺「デタラメってのは当たらないもんですな」
令嬢「当たるわけないでしょ」
爺「ところでその電話、取られなくて良かったのですかな?」
令嬢「取らなくていいわよこんなやつ」
爺「タケシ君……お嬢様に何か伝えたいことがあるのでは?」
令嬢「タケシじゃないって言ってんでしょ」
爺「なるほど………お嬢様がここに爺を呼んだ意味がやっとわかりました」
令嬢「…………フン……」
爺「爺がタケシ君を始末すればよろしいのですな」
令嬢「なんでそうなんのよ。どこのタケシが死ぬのよそれ」
爺「ふむ……それではどのようなご用件で……?」
令嬢「まあ……ちょっと…………そいつと喧嘩しちゃって……その……」
爺「お嬢様。自分の伝えたいことは恥ずかしくてもはっきりと言いなされ」
令嬢「ぐ…………」
爺「爺もよく粗相するので恥ずかしい気持ちよくわかります。さあはっきりと自分の言葉で」
令嬢「違うって言ってんでしょ。あんたと一緒にすんじゃないわよ」
爺「ではどのような?」
令嬢「……そいつと……また友達になるにはどうしたらいいかなって……そ……相談を…………」
爺「やっとご自分の口で言えましたなお嬢様!爺は嬉しいですぞ」
令嬢「うるさい!このバカ!」
爺「爺はこう見えても人生の先輩なので遠慮なくご相談なされ!」
令嬢「どの角度から見ても大先輩よアンタ。なんならOBに片足突っ込んでるわよ」
爺「つまりお嬢様はその男の子と仲直りしたいわけですな?」
令嬢「……ええそうよ」
爺「ならば話は早い。謝りなされ」
令嬢「……だって悪いのはあいつなのよ!?なんで私が謝んないといけないわけ!?」
爺「お互いに自分が正しい。相手が間違っている。そう思っているから争いが起きてしまったわけです」
令嬢「…………」
爺「その認識を改めないと平行線のままですぞ。大切なのは起こってしまった過去の是非よりも相手と仲直りしたいと思う心。その相手と望む未来です」
令嬢「…………そうなのかしら」
爺「どちらかが一方的に謝罪しての解決はわだかまりを残してしまうだけ。二人で相手を思いやって謝り合えば良いのです」
令嬢「そうね…………わかったわ……謝ってみる…………」
『ブーッブーッ』
令嬢「あっ、この音は私の携帯……」
爺「ハハハ。相手も同じことを考えていたようですな。どうぞ遠慮なくとりなされ」
令嬢「えぇ……そうするわ」
『deth!deth!fuckin!dethww!fuckinwww!』
爺「おや今度は爺の携帯が」
令嬢「空気ぶっ壊すんじゃないわよ。なんでそいつちょっと笑ってんのよ」
爺「ウィーっす!お疲れー!なになにどったの?え!?マジ!?もうそんなとこまで来てんの!?マジかはえー!ちょちょちょ!もーちょい待って!」
令嬢「ほんとなんなのかしらこの爺さん…………あ、もしもし?うん。私……あっ、あのね………………」
………………。
爺「お電話終わりましたかな?」
令嬢「えぇ……」
爺「して結果は?」
令嬢「…………無事に仲直りできたわ」
爺「おおそれは良かった!いやー心配しましたぞ」
令嬢「まあ今回はアンタに感謝するわ……本当にありがとうね」
爺「ハハハ……なーにお安い御用ですぞ。きっとタケシ君も今ごろ草葉の陰からお喜びのことでしょう」
令嬢「なにタケシ始末してんのよ」
爺「それでは爺は少し急ぎの用がありますのでこれで」
令嬢「ああそうなのね。悪かったわね呼びつけたりして」
爺「なに、ちょっと警察が家宅捜索に来たそうなので」
令嬢「ガチでやばいじゃないなにしてんのよアンタ」
爺「大丈夫です……大切なのは起こってしまった過去ではなく未来の爺の幸せ…………ですので爺が心をこめて誠心誠意土下座で」
令嬢「謝って済むなら警察はいらないって言葉知ってるかしら」
爺「それではお嬢様おやすみなさいませ……今宵もお嬢様に素敵な夢が訪れますよう……」
令嬢「なにそれ定番にしたいの」
爺「では」ズバババッッ
令嬢「去り際のスピード感がジジイ離れしてるわ……」