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第28章 勉強万歳

守護者選定千点テスト



 セイとミカが異世界で戦っていたのと同じ頃。

 ミリアは講義室の教壇に立ち、集まった塔大の学生たちを見渡す。

 無遅刻無欠席を確認すると、彼女は咳払いをして口を開いた。


「みんな、今日は集まってくれてありがとう。君たちを招集した理由は他でもない、す終焉の使徒のことだ」


 ミリアは黒板にカムイたちと終焉の使徒の勢力図を書き出す。

 ガメオベラの顔にバツ印をつけると、彼女は学生たちに向ける顔を強張らせた。


「使徒の一人・ガメオベラはクーロンG9が倒したが、まだ四人もの使徒が残っている。一方こちらはシン君を失い、ユキ君は敵の手に落ちたまま。そしてセイ君とミカ君は行方不明。端的に言って、状況はかなり不利と言える」


 そこで、とミリアは続ける。


「塔大の中でも指折りの成績優秀者である君たちと共に、対抗策を考えようと思う。まずは君、何かないか?」


 ミリアは学生の一人を指名するが、彼は何も答えない。

 もう一度呼びかけようとすると、その学生はいきなり立ち上がって叫んだ。


「やってらんねー!!」


「っ!?」


「勉強勉強ってもうウンザリだ! こんなもんやめてやる!!」


「そうよ! 子供の時からずっと机に向かわされて、全然遊べなかったんだから!」


「オレは……勉強が嫌いだぁー!!」


 彼の叫びを呼び水に、他の学生たちも次々と憤りを爆発させる。

 やがて怒りの矛先は、守護者であるミリアに向けられた。


「待て、話せば分かる……うわあっ!」


 学生たちは説得しようとするミリアを突き飛ばし、彼女を壁際に追い詰める。

 絶体絶命の最中、講義室の扉が勢いよく開かれた。


「祭りの場所はここかァ!!」


「おいアラシ……ったく!」


 アラシとシナトは暴れる学生たちを薙ぎ倒し、ミリアを連れて講義室を脱出する。

 町外れの倉庫まで移動すると、シナトが厳重に倉庫の扉を施錠した。


「これで安心だな。ところで、シナト君は何故ここに?」


「ドローマの方が落ち着いたので、様子を見に来たんです」


「ありがとう。二人には助けられてばかりだな」


「いいってことよ! で、何であんなことになってたんだ?」


 アラシの問いに、ミリアは首を横に振る。

 先程の光景を受け止めきれないまま、彼女は苦々しく言った。


「分からない。昨日まではみんな熱意を持って勉学に励んでいたんだ。なのに何故……」


「ティルルがやったんだよ」


 薄暗い倉庫の中心に、終焉の使徒アンティルが姿を現す。

 小悪魔の尻尾を得意げに振って、彼女は自身の企みを明かした。


「ティルルの力であの人たちの本音を解放したの。底なしの欲望は、全てを破壊し尽くすまで満たされない。自分で自分の国を滅ぼすなんて、素敵でしょ? キャハハッ!」


「彼らの、本音……」


「そう。みんながアナタみたいに勉強好きなわけじゃない。周りに置いていかれないように苦しみながら勉強してる人たちだっている。彼らの心の闇が、アナタに分かる?」


「仮にそうだとしても、君が彼らを操っている事実は変わらない。今すぐ元に戻したまえ」


「えーっ、みんなこのままがいいって言ってるよ?」


 アンティルは嘯き、倉庫の窓を指差す。

 怒れるレンゴウ国民の集団が、武器を持って倉庫を取り囲んでいた。


「……仕方ないな」


 ミリアは倉庫の鍵を開け、国民たちの前に立つ。

 四方八方から向けられる敵意にも怯まず、彼女は声を響かせた。


「君たち自身の口から聞かせてくれ。君たちの要求は何だ?」


「アンティル様をレンゴウの守護者にすることだ!」


 アンティルがしたり顔で頷く。

 ミリアは淡々と呟いた。


「ならばこうしよう。時期としては少し早いが……」


 ゆっくりと手を挙げ、国民たちの注目を集める。

 ミリアは大きく息をして、力強く宣言した。


「聞け! 私はここに、『守護者選定千点テスト』の開催を宣言する!!」


 それは百点満点のテストを十科目分受け、最も多くの点を取った者がレンゴウの守護者となる国内最大の試験。

 国民たちのどよめきを背に、ミリアはアンティルに挑戦状を叩きつけた。


「勝負だアンティル。私の国を奪いたくば力づく、いや、頭づくで来るといい!」


「分かったよ。ま、ティルルが負けるわけないけどね」


「試験は明日の昼、塔大のA講義室で行う。そこで白黒つけよう」


「はーいっ。じゃ、またね〜」


 アンティルは無邪気にそう言い、国民たちを引き連れて去っていく。

 敵となった民に背を向けて、ミリアも歩き出した。


「行くぞアラシ君。試験に備えて勉強だ」


「オレもやるのかよ!?」


「当たり前だろう。むしろ君にしか頼めない」


 ミリアの目に嘘はない。

 尚も躊躇うアラシに代わって、シナトが頭を下げた。


「アラシのことをお願いします」


「シナトお前っ」


「保護者の承諾も得た。行くぞ」


 ミリアはアラシの腕を引き、気持ち大股に塔大へと戻っていく。

 二人の背中を見送ると、シナトはクーロン城に引き上げた。


「ミリア様の仮説によれば、これでセイたちと連絡が取れる筈だ」


 シナトは一縷の望みを託し、G9の動力炉に装置を接続する。

 そして夜が明け、ミリアたちは試験当日を迎えた。


「これはただの試験じゃない。我がレンゴウ国のために、必ず満点を取る」


 ミリアはそう呟いて、A講義室の一番手前の席に座る。

 最終確認のために広げた参考書には、解法や難問への対策がびっしりと書き込まれていた。


「そう気負うなよミリア。偉そうにしてる方がお前らしいぜ」


「それは褒めているのか?」


 二人は参考書のページを捲りながら、アンティルが来るのを待つ。

 数十分後、アンティルが不躾に講義室の扉を開いた。


「お待たせ〜!」


 洗脳した学生たちを引き連れ、自分の軍団で席を埋め尽くす。

 騒ぎ散らかす学生たちを尻目に、ミリアが冷たく言い放った。


「見下げ果てたものだな」


「結果が全てでしょ? 真面目な努力なんて無駄だってこと、ティルルが証明してあげる」


 ミリアとアンティルが睨み合い、激しい火花が飛び散る。

 試験開始五分前を告げる予鈴が鳴った時、講義室はプロレスリングへと変わった。

 物理的に。


「いざ掴め! 千点満てぇぇぇん!!」


 天の声が叫び、スポットライトが二人を照らす。

 光と歓声に包まれて、赤コーナーのミリアが歩き出した。


「矛より鋭く、盾より堅く。閃く知識に果てはなし! 叡智の守護者、ミリア・ザ・グラダファ!!」


「フルネーム初めて聞いたな……」


 アラシの呟きをよそに、今度は青コーナーのアンティルに照明が当たる。

 アンティルは大勢の学生を引き連れ、リングに続く道をランウェイのように歩き抜けた。


「自由奔放、堕落が本望。終焉の使徒・享楽のアンティル! 世界の終わりは楽しく、ね?」


「守護者選定千点テスト……開始ーッ!!」


「どりゃあああああーッ!!!」


 解答用紙が配られ、壮絶なる試験が幕を開ける。

 そして難問に次ぐ難問との戦いの中、前半500点分は瞬く間に過ぎていった。


「それでは中間発表を致します!」


 テストの採点を終えて、試験監督が声を張り上げる。

 ミリアの背筋に緊張が走る中、試験監督が参加者たちの点数を告げた。


「まずは最下位のアラシ! 0点!!」


「だろうな!」


 開き直るアラシをよそに、次々と点数が発表されていく。

 他の学生たちが400点台前半で散っていく中、ミリアは堂々の満点を叩き出した。


「ふ、当然だ」


「こりゃ勝ちだな!」


 宣言通りの満点に、アラシとミリアは勝利を確信する。

 しかし試験監督は、二人目の満点獲得者がいると告げた。


「そして同列一位、アンティル!!」


「えへへ、ありがとーっ」


 結果が分かっていたかのように、アンティルは愛嬌たっぷりの笑顔を振り撒く。

 学生たちの歓声を浴びながら、彼女は悪辣な表情でミリアを睨んだ。


「何? 採点は普通にやらせたよ?」


「後半戦は一時間後! それでは各自、休憩!」


 試験監督の号令で、アンティル一派は机や椅子を散々に蹴散らしながら講義室を飛び出していく。

 アラシとミリアはもはや怒ることもなく、荒らされた講義室を元に戻した。


「かつて、私はカムイの神秘を暴こうとしていた。誇りを剥奪し、それでも尚残るものは何かと。……それがまさか、こんな形で跳ね返ってくるとはな」


 遅まきながらに自分の行動を悔い、ミリアは拳を握りしめる。

 アラシが揶揄い混じりに言った。


「あいつらが戻ってきたら謝んないとな」


「……ああ」


「お詫びの品は、アンティルの首だ」


 ミリアとアラシは拳を突き合わせ、後半戦に向けて決意を新たにする。

 そして作戦を立てるべく、二人はシナトの待つクーロン城へと戻っていった。

––

異界からの啓示



「経過はどうだい、シナト君」


 玉座の間に入るなり、ミリアが尋ねる。

 シナトは首を横に振って答えた。


「今の所、特に変化はありません」


「分かった。そのまま続けてくれ」


「それより腹減ったぜ。シナト、飯くれ!」


「作り置きのシチューがある。温め直して食べよう」


 シナトは厨房に向かい、シチューの入った鍋を火にかける。

 シチューが再加熱されるのを待ちながら、アラシは本題を切り出した。


「あいつら、やっぱり不正を働いてたぜ」


「そうか。やはり君を参加させて正解だったな」


 ミリアがアラシを試験に参加させた理由、それはアンティルが仕掛けてくるであろう不正行為を探るためだった。

 アラシが単刀直入に告げた。


「あいつらがやってたのは、カンニングだ」


「カンニング? だが、私とアンティルの席はとてもそんなことができるような配置ではなかったぞ」


「洗脳した奴らを使ったんだ」


 ミリアを囲むように配置された学生たちは、四方八方から彼女の解答を盗み見た。

 そして伝言ゲームの要領で、アンティルに情報を集約させていたのだ。


「これは……さて、どう攻略したものか」


 ミリアは考えを巡らせる。

 普通に満点を取っても勝てはせず、カンニングを咎めても恐らく意味はない。

 悩むミリアたちの元に、シナトが鍋を運んできた。


「おっ、できたか!」


 アラシが興奮して身を乗り出す。

 シナトは申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみませんミリア様。こんなものしか用意できなくて」


「気にするな。我々の間に気遣いなど無用だ」


 ミリアは笑って皿を受け取り、シナトにシチューをよそってもらう。

 白いシチューの中には、角切りの人参やじゃがいもがごろごろと転がっていた。


「いただきます」


 まろやかな味わいが口の中に広がり、深いコクが全身に染み渡る。

 活力が満ちていくのを感じながら、ミリアは思わず呟いた。


「美味い……。私もこんな料理が作れるようになりたいものだ」


「ミリアは飯作んねえのか?」


「凝りすぎるぐらいに凝るか、菓子で済ますかの二択だ」


「おお、何かそれっぽい!」


 和やかな雰囲気の中、三人はシチューを平らげる。

 シナトも交えて作戦会議を再開しようとしたその時、クーロン城に接続した装置が反応を示した。


「よし、向こうの世界に繋がったぞ」


 ミリアは高揚を堪えながら、通信の準備を整える。

 彼女は低く落ち着いた調子で呼びかけた。


「こちらミリア。セイ君、ミカ君、このメッセージを聞いたら至急応答してくれ。繰り返す、こちら……」


「もしかして、セイちゃんたちの世界の人!?」


「……君は?」


 ミリアは怪訝そうに尋ねる。

 ノイズ混じりの高い声が、自分の名を告げた。


「あたしは木原林香。今、セイちゃんたちと一緒に戦ってるの。……世界の壁を越えて通信するなんて、凄いね」


「簡単な仕組みさ。クーロンにはカムイの勾玉に極めて近い物質が使われている。水晶玉を使ってその波長を次元の穴に投げ、同じ波長を拾ったんだ」


「クーロンって?」


 今度は木原が質問する。

 ミリアは何処か自慢げに答えた。


「こちらの世界の防衛兵器だ。カムイと共に並び立ち、幾度もの戦いを潜り抜けてきた」


「……っ!」


 そこで声は聞こえなくなり、ミリアは首を傾げる。

 装置に耳を近づけた瞬間、木原が叫んだ。


「そっか……そういうことか!! お陰で希望が見えたよ! ありがとうミリちゃん!」


「み、ミリちゃん?」


「あたし決めた! フロストシステムを一から見直して再設計する!」


「……見直しか」


 ミリアは左胸に手を当て、木原の言葉を受け止める。

 勝利への解法を導き出して、彼女は異なる世界の天才に礼を言った。


「こちらこそ、君のお陰で活路を見出せそうだ。感謝する」


 そこで通信は切れ、後半十分前を知らせる予鈴が遠くに響く。

 ミリアとアラシはシナトに見送られて、塔大へと駆け出していった。


「来たんだね。逃げたのかと思ったよ」


「下らん挑発はいい。始めるぞ」


 参加者たちは着席し、試験の開始を待つ。

 そしてチャイムと共に、試験監督が解答用紙をばら撒いた。


「後半戦……レディーゴーッ!!」


「ドリャアアァー!!!」


 刻一刻と過ぎていく時間の中、ミリアは次々と問題を解き進める。

 そしてミリアが最後の問題を解き終えた瞬間、試験終了のベルが鳴った。


「後は、結果を待つのみか……」


 さしものミリアも息を切らし、額の汗を拭う。

 アンティルは体力を持て余したまま、意地悪い顔でミリアを見た。

 正々堂々などという愚策で挑んできた下等生物を、散々弄んだ末に叩きのめす。

 アンティルにしてみれば、これほど楽しいことはない。

 しかし次の瞬間、アンティルの確信は粉々に打ち砕かれた。


「アンティル、997点!!」


「なっ……!?」


 アンティルは愕然と立ち尽くし、握り拳を震わせる。

 遠のいていく感覚の中、試験監督がミリアの1000点満点を告げた。


「ウィナー、ミリア!!」


 勝利のゴングが響き、ミリアの栄光を讃える。

 堪らず机を叩いて、アンティルが怒鳴り声を上げた。


「何であんたが勝ってるの!? あり得ない! だってティルルは」


「カンニングをしているから、か?」


 ミリアが冷静に指摘する。

 もはや言い訳に意味はないと悟ってか、アンティルはあっさりとその事実を認めた。


「そうだよ、だって真面目にテストを受けるなんてバカバカしすぎるもん! 使えるものは何でも使わなきゃ!」


「愚かなことだ。そのカンニングのせいで敗北としたというのに」


「……どういうこと?」


「最後の一問で、私は敢えて間違った答えを記入した。そして君がそれを書き込んだのを見計らって、正解に修正したんだよ。見直しさえしていれば、すぐ気づけた筈なのに」


 打ち震えるアンティルに、ミリアは更なる屈辱を突きつける。


「ああそれと、997点というのも採点ミスだ」


「何ですって?」


「君は私の怒りと、アラシ君を参加させた意図に気づかなかった。我々の全てを見誤った君は、0点だ!」


 アラシとミリアは肩を並べ、アンティルに特大の0点を叩きつける。

 許容量を超えた憎悪が、アンティルの口から狂笑となって溢れ出した。


「何いい気になってんの!? どうせこんなの遊びだし!」


「あっ、待て!」


 アラシの追跡を振り切り、アンティルは講義室の窓を突き破って飛び降りる。

 重力に身を任せるアンティルの翼が、体の数十倍もの大きさに巨大化した。


「ティルルの真の姿・見せてあげる!」


 アンティルは体内に秘めた闇を解き放ち、鳥人と悪魔が融合したような姿を持つ『翼乱災獣よくらんさいじゅうホルバス』に変貌を果たす。

 塔大を破壊せんと襲いかかるホルバスに、クーロン城が死角から突撃した。


「いいぞシナト!」


 アラシは抜群の跳躍力でクーロン城の壁に飛び移り、玉座の間へとよじ登る。

 そしてシナトから操縦を引き継ぎ、城を戦士の姿に変形させた。


「超動!!」


 クーロンG9は機敏な動きで間合いを詰め、拳の応酬でホルバスを追い詰める。

 そして飛んで逃げようとするホルバスの尻尾を掴み、何度も地面に叩きつけた。


「何だかいつにも増して荒っぽい戦い方だな」


「慣れないことして疲れたからな! 気晴らしに大暴れしてやるぜ!!」


 クーロンG9の砲撃が、倒れたホルバスを襲う。

 蜂の巣にされる刹那、ホルバスは翼を盾代わりとして砲弾の雨を受け止めた。


「ティルルを……舐めんなーっ!!」


 ホルバスは翼を刃のように硬化させ、極限まで空気抵抗を減らして低空を疾走する。

 そして超高速斬撃を連続で繰り出し、クーロンG9の装甲を削り出した。


「くそっ、何か手はないのか!」


 シナトはレーダーで敵を捕捉しようとするが、中々ホルバスに狙いを定められない。

 街への被害を避けねばならない以上、無闇に砲撃することもできなかった。


「五分間、そのまま耐え続けてくれ」


 水晶玉からミリアの声が響く。

 困惑の声を上げるシナトを、アラシが制した。


「オレはあいつを信じるぜ」


「……ならば、俺はミリア様を信じるアラシを信じる!」


 二人はミリアの言葉に賭け、ホルバスの猛攻をひたすらに耐え忍ぶ。

 そして五分経過したまさにその時、激しい閃光がアラシたちの視界を包み込んだ。

 次いで雷鳴が轟き、ホルバスが地面に墜落する。

 驚くアラシに、シナトが空を見るよう促した。


「雷雲? ……そうか!」


「ああ。ミリア様は、ここに雷が落ちることを察知していたんだ!」


「雷というのは巨大な静電気のことだ。あれだけ激しく動き回れば、静電気の一つくらい起こるさ」


 水晶玉から伝わる声が、ミリアの勝ち誇る様を二人に伝える。

 クーロンG9は倒れたホルバスを鷲掴み、ミリアたちに見せつけるように天空高く放り投げた。


「クーロン砲・最強爆裂波!!」


 龍の怒りを体現した砲撃が、ホルバスを跡形もなく焼き尽くす。

 レンゴウを堕とさんとした邪悪を打ち滅ぼして、クーロンG9は高らかに咆哮した––。


「……ってな具合に、オレ様たちが大活躍したんだよな!」


 そして今、アラシは戻ってきたセイとミカにアンティルとの戦いを語り聞かせている。

 熾烈な戦いを制したクーロン城は、彼らの会食の場となっていた。


「そろそろセイ君たちの話も聞きたいな。気になることが山ほどあるのだ」


 ミリアが身を乗り出して言う。

 再会と勝利の喜びを分かち合いながら、セイたちは束の間の平和なひと時を過ごすのだった。


「ううっ……くそっ!」


 同じ頃。

 シヴァルの雪原に聳え立つ白銀の城で、フィニスはじたばとのたうち回る。

 心配そうに覗き込んでくるブリザードに氷を投げつけて、彼は叫んだ。


「何だよその目は! ボクを笑ってるのか!?」


 ブリザードは哀しげに俯き、灰色の空に消えていく。

 力尽きて眠るまで、フィニスは怒りを爆発させ続けていた。

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