俺はカイアたちを裏庭に残して家の中に戻ると、手紙を飛ばす魔法であるミーティアを使い、アシュリーさんとララさんにあてて手紙を書いた。ミーティアは急ぎの時用の、手紙が鳥の姿に変わる魔法で、急ぎでない時はリーティアという、手紙が蝶々に変わる魔法を使うそうなのだが、なんとなくすぐに返事が欲しくなってしまったのだ。
特に期限をもうけて動いているでなし、別にのんびりでもいいようなものだが、電話やメールやSNSに慣れた現代人の悪いところだよな。エドモンドさんに教えて貰ってからというもの、アシュリーさんたちにも以前会った時に、リーティアとミーティアを渡しておいて、何度かやり取りしている。
コボルトの住んでいる場所とは、かなり距離があるから、これかなり助かるんだよな。
内装業者のサニーさんとも、細かいやり取りはそれを使ってやってくれている。全体のことは俺が決めるが、コボルトの伝統を活かした内装にする予定だから、こればっかりはコボルトに聞かないと分からないしな……。
おかげでリフォーム工事も始まったことだし、出来る準備はすすめておきたいからな。
裏庭に出てミーティアを飛ばすと、俺も円璃花の横のデッキチェアに寝そべって、遊んでいるみんなを眺めた。しばらくは積み木よりもこっちで遊びたがるかも知れないな。
するとどこかから、ヒラヒラと蝶々が飛んで来て、俺のそばに寄ってくる。
アシュリーさんからの返事かな?さっきの今だというのに、ずいぶんと早いな?
いや、そんな筈はさすがにないか。向こうに届いてすらないだろうからな。そう思って手のひらを上に向けると、蝶々が手紙に変化して俺の手のひらに落ちた。だが差出人をよく見ると、それはサニーさんからだった。
取り決めはすべて終わって、既にリフォーム工事が始まっているから、この時点でサニーさんとやり取りすることも、今はもうそんなにないんだが、どうしたんだろうな?
冒険者たちのストライキで材料が手に入らないとかだろうか?そう思って読みすすめていくと、何やら不穏なことが書いてあった。
『店の改装工事が始まってからというもの、時々店を覗きに来る怪しい人影があります。また、夜中に何度かボヤ騒ぎがありました。
王城の警備兵が見つけてくれて、大きな火事にはなりませんでしたが、火の気もないことですし、完全に放火だと思われます。』
そんなことが起きていたのか……?
『コボルトの店だということは、まだ公にはなっていない筈ですが、どこかで聞きつけた人から、嫌がらせを受けているのかも知れません。まずはご報告まで。サニー。』
「なんだって……!?」
俺は思わず口に出してしまっていた。
「──どうしたの?」
ただならぬ様子の俺に、円璃花が驚いたように体を少し起こして俺を見てくる。
「さっき言ったコボルトの店のことなんだがな、かなり雨で建物が傷んでいたから、使える部分を残してリフォーム工事の真っ最中なんだが、どうも嫌がらせを受けているみたいなんだ。コボルトは元が魔物だから、この国の人たちに反発を受けているんだが……。」
「そうなの?コボルトを嫌っている人たちがそれをやっているのは確実なの?」
「まだ分からない……。
だが、俺が店をやろうとしている場所は、王城近くの貴族街の一等地だ。夜も城の警備の兵士がうろついているような場所だというのに、俺の店だけわざわざ何度も放火する理由は、たまたまでは絶対にないと思う。」
「確かにそれはそうね……。」
円璃花は眉をひそめた。
「すまないが、ちょっと店に顔を出してきたいんだ。様子を見てきたいし、内装業者と話もしたい。子どもたちを頼めるか?」
「ええ、もちろんよ。」
「ありがとう、行ってくる。」
俺の様子に、遊んでいたカイアも心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫だ、サニーさんに会って店の状態を確認したら、すぐに戻ってくるから。カイアはここでアエラキとキラプシアと遊んでおいで。お姉さんに迷惑をかけないようにな。」
そういうとカイアはコックリうなずいた。
俺は馬車に乗って、急いでコボルトの店へと駆けつけた。
「おお、来たのか、ジョージ。」
「エドモンドさん!いらしてたんですね。」
腕組みしながらコボルトの店のリフォーム工事を見上げていた、ルピラス商会の副長であるエドモンドさんが、俺に気がついて笑顔を向ける。だがその表情は少し険しい。
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