店は屋根が取っ払われて、壁のレンガも剥がされて、ほとんど骨組みだけの状態になっている。もとは木組みの建物だったので、レンガはあくまでも外壁の役割だ。レンガの壁なら耐火の役割があるから持ちこたえると思うが、この状態の建物に火がついたら、あっという間に燃え落ちてしまったことだろう。
「サニーさんから手紙をいただきました。」
「うん、俺もそのことで来た。ちょっとただごとじゃないな。放火ってのは、明らかにこの店に害をなす意思があるということだ。」
「それも何度もだと……。まったく知りませんでした。コボルトの伝統品をてがける店だということは、公表していないのですが。」
「コボルトの店だから、という理由で狙われているのかはまだ分からないが、もしもそうだった場合、店が始まってからも、しつこく狙われ続けないとは言えないだろう。
そうなると店に立つコボルトたちにも、危険が及ぶ可能性があるだけに、今のうちに解決しておきたいんだがな……。」
「はい……。俺もそれが気になっていて。反発は多少あるものと思ってはいましたが、さすがに放火ともなると……。なにか犯人の手がかりがないかと思って来てみたんです。」
「業者たちが、何度か店を覗いている人間に気が付いて、追いかけたそうなんだが、どうにも取り逃がしてしまったらしい。」
「そうでしたか……。残念ですね。その人たちに話を伺いたいのですが、呼んでいただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ。もちろんだ。」
エドモンドさんが現場で働く作業員数名を呼んでくれ、俺のことを店の経営者だと説明してくれた。それを聞いた作業員さんたちの表情が、パアアアアッと明るくなった。
「ああ!ジョージ・エイトさんですね!
俺はルーガと言います。お会いするのは初めてですが、いつも差し入れをありがとうございます!みんなこの現場に来るのがとても楽しみで、毎日楽しく働いてますよ!」
「──差し入れ?なんだい、そりゃあ。」
エドモンドさんがルーガさんの言葉に、俺を振り返ってたずねてくる。
「ああ、はい。飲み物と、お菓子と、保冷剤を、午前と午後に一回ずつと、お昼ご飯の差し入れの配達を、近くのお店に頼んでいまして。俺の家はここから少し遠いので……。
その時間は休憩していただいてるんです。
一度も顔を出せずに申し訳ありません。」
「とんでもないです!」
「……休憩が多くないか?ジョージ。」
エドモンドさんが驚いた顔をする。
「俺の地元では、大工さんへの差し入れはこれが普通ですよ。まあ、お昼ご飯を出すかどうかは、その家によって違うでしょうが、午前と午後の差し入れは絶対ですね。」
「そ、そうなのか。」
「建ててくださる大工さんへの感謝の気持ちのあらわれですね。危険な作業ですし。」
「まあ、屋根に登るわけだしな……。」
「ずっと聞きたかったんですが、この、ずっと冷たい輪っかはなんですか?あと、冷たいお茶の入ったこのポットはなんですか?」
「これはアイスネッククーラーですね。冷たさが長持ちして繰り返し使えます。これは魔法びんというもので、冷たさだけでなく、暖かさも短時間であれば保てるものですね。」
「──魔法!?魔法なんですか!?」
「……いや、名前がそうなだけですね。」
「小袋に入ったお菓子も食べやすくて有り難いですよ!好きな時に食べれますし、家族に持っても帰れますし。」
「それは良かったです。」
矢継ぎ早に質問してくる作業員さんたちの勢いに押されながらも答えていると。
「──ジョージ。」
「はい。」
「あとで話があるんだが。」
「……。分かりました。」
商売のチャンスとばかりに目を輝かせたエドモンドさんが、食い気味に俺の肩を両手でガッシリと掴んで見つめてきたのだった。
「質問はそれくらいにしてやってくれ、ジョージはお前さんたちに聞きたいことがあってここに来たんだ。なあ?ジョージ。」
エドモンドさんが間に入ってくれる。
「あ、はい。放火の件でちょっと……。」
そう言うと、作業員さんたちは気色ばんで両手のひらを拳に握って振り回した。
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