「信じられませんよ!こんないい施主さんの建物を狙うだなんて!」
「まったくだ!職人ギルド総出で犯人に抵抗しますよ!必ず役人に突き出してやります!
俺たちが大切に建てている建物を、燃やそうとする奴を許す職人は、この国にはいませんよ!俺たちも自発的に見回りしてます。」
「そうなんですか?ありがとうございます。
ですが、勤務時間外のことですし、そこまでご迷惑はかけられませんよ。それに執拗に放火してくる犯人が、どれだけ危険かも分かりませんし、皆さんの身の安全を考えると、気安くお願いするわけにも……。」
俺は職人さんたちの気持ちがとても嬉しかったが、同時に困惑してしまう。
「それなら、うちの警備兵をかそうか?
日頃からジョージには世話になっているからな。警備兵なら問題ないだろう。」
エドモンドさんがそう言ってくれた。
「本当ですか?それなら助かります。」
「俺も考えていたんだ、執拗に放火してくる犯人ってのは、おそらく諦めないだろうからな。だいぶ危ない感性の持ち主と言える。」
「そうですね……。うちの店への粘着性すら感じます……。単独犯ならいいですが、もし複数だとなると、店を開始したらもっとひどくなるという可能性すらありますし……。」
「うちも出資してる店だ。守るのは俺の仕事でもあるさ。ジョージは心配しなくていい。
必ず犯人を見つけてみせる。」
「分かりました。お任せします。」
「だからだな、その、アイスネッククーラーとやらと、魔法びんをだな……。」
「分かりました、すぐに出しますよ。」
俺は思わず笑ってしまった。
俺たちはいったん作業員たちに挨拶をしてその場を離れ、ルピラス商会に移動した。
「これがその、アイスネッククーラーと魔法びんになります。アイスネッククーラーは、22度以下の流水か、冷凍庫で凍らせるタイプのものですね。冷凍庫のない店が多いので流水でも凍らせられるものにしてみました。
──試してみられますか?」
「もちろんだとも。」
エドモンドさんは流しでしばらく、アイスネッククーラーに流水をかけていたが、
「ほ、本当に流水で凍ったぞ!?
これはなんだ、魔道具なのか!?」
驚いて流しから飛び出て来た。
「まあ、そんなようなものです。
繰り返し使えて便利ですよ。」
「なんてことだ……。夏場に外で仕事する奴らが全員買うぞ、これは。」
「魔法びんは10時間以上、冷たさと温かさを維持できるものになりますが、本来は室内での使用を想定したものですので、屋外だとせいぜい近場での使用で、馬車などの長距離移動だと、こぼれるので使えませんね。」
「それでもじゅうぶん便利だぞ……。
これは売れる!うちの従業員の分だけでも今すぐにでも欲しいくらいだ!」
「分かりました。
いくつくらいお出しすればいいですか?」
「そんなにすぐに手に入るのか?」
俺の言葉に驚愕するエドモンドさん。……まあ、頼まれてすぐに渡せるだけの在庫を抱えておきながら、それを売らない商人なんていないからな、気持ちは分かるが、そこは知らんぷりをしていただくしかない。
「ええ、まあ。」
とだけ答えておいた。
「ジョージは本当に欲がないな。」
俺も別に欲はあるが、そういう方向にないというだけである。
「じゃあ、魔法びんをとりあえず500、それとアイスネッククーラーを1万個だな。」
「そんなにですか!?」
「そんなにはないか?」
「いや、出せますけど……。」
「ジョージ、これは革命なんだ。流水で凍らせられる保冷具だなんて、未だかつてないんだぞ?よその国からも引く手あまただろう。
俺はこれでも足りないと思っているくらいだぜ?すぐに追加を頼むことになるだろう。
連絡をしたら、すぐに持ってこれるか?」
「はい、まあ。」
「じゃあ、とりあえず、今言った分を倉庫に置いてくれ。うちの従業員の分はさっそく配らせよう。うちの従業員の分だけでも、先に精算するか?」
「いえ、まとめてで結構です。」
「分かった。じゃあ行こうか。」
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