俺はエドモンドさんが御者をつとめる馬車の隣に座り、いつもの倉庫街へと移動した。
倉庫街では忙しなくたくさんの人たちが、汗をかきながら働いていた。
「お前たち、今日はいいものを持って来たから、それぞれの班長を呼んでくれ。」
エドモンドさんが倉庫の従業員に声をかけた。すぐに十数人の男性が集まってくる。
「これは今度売り出すことになったアイスネッククーラーというものだ。流水で冷やしたり冷凍庫で凍らせて何度でも使える首用の保冷剤だ。全員の分を配るから、班長が代表して取りに来てくれ。それとさっそく流水で凍らせて全員に配るように。」
エドモンドさんが俺が見本で渡したアイスネッククーラーを見せながら言う。
「よし、ジョージ、この籠の中にアイスネッククーラーを出してくれ。」
「わかりました。」
俺はエドモンドさんが用意してくれた籠の中にアイスネッククーラーを入れてゆく。
「さあ、順番に受け取るんだ。」
そう言われて、不思議そうにしながらも、班長たちはアイスネッククーラーの入った籠を受け取ると、流水をかけに歩いて行った。
するとすぐに遠くの方から、
「うわっ!?なんだ!?本当に凍ったぞ?」
「冷たい!こいつは気持ちがいいぜ!」
と声が聞こえた。
それを聞いた倉庫の従業員たちが、我先にと自分の班長のところにかけよって行く。
「慌てるな!全員の分があるんだ!」
「おい、誰だ2人分取りやがったのは!」
大騒ぎである。
「あとはこれは保温と保冷をかねた魔法びんってやつだ。氷を入れた飲み物を作ってみんなに配ってやってくれ。」
エドモンドさんがアイスネッククーラーを配り終えた班長たちに言う。全員しっかりアイスネッククーラーを装備していた。
「ああ、なら今、入ってるのを出しましょうか。次からは入れ替えて貰わないと、勝手に補充はされないのであれですけど。」
「本当か?すまない。」
俺は冷たい氷入りのお茶をイメージして、魔法びんを出した。全員が自分のマグカップを持っているらしく、班長からまわされた魔法びんの中身をついで、ゴクゴク一気に飲んでいる。
「うんめえ!」
「こんな冷たいものが飲めるなんて!」
みんなとても嬉しそうだ。
「じゃあ、残りはこの倉庫の中に出しておくから、休憩が終わったら整頓しといてくれ。
俺はまた戻るからな。」
エドモンドさんに案内された倉庫に、アイスネッククーラーと、魔法びんの残りを出すと、満面の笑みのみんなに手を振られながら俺たちは倉庫をあとにした。
「本当に、どこからあんなものを仕入れてるんだ?ジョージは謎だらけだな。
……ひょっとしたら、店に対する放火も、ジョージを妬んでということはないか?」
「俺を、ですか?」
帰りの馬車の中で、エドモンドさんが首を傾げながらそう言った。
「ルピラス商会と組んでデカい取引をしている奴がいることは、それが誰だか知らなくても、ちょっと商売に携わってる奴なら知ってることさ。そして今度そいつが店を出すってこともな。だとしたら、コボルトに対する反発じゃなく、ジョージに対する妬みの可能性だってあると俺は思うぜ。」
……確かに、大きく儲けている個人は少ないだろう。冒険者ならいざ知らず、商人ともなると、もとから商売している人間からしたら、あんまり面白くはないかも知れないな。
俺は腕組みをしてうなった。だんだんそんな気がしてきたのだ。
店に戻ると、俺たちに気が付いた作業員のみんなが、屋根の上から手を振ってくれる。
そして、それが、あっ!とでも言いたげな表情になったかと思うと、一斉に屋根の上から俺たちの馬車の後ろを指さした。
「なんか、後ろを指さしてませんか?」
「後ろを?なんだ?」
俺とエドモンドさんは、御者席から身を乗り出して後ろを振り返った。
すると、こちらを見ていた人影が、俺たちの視線に気が付いて、建物の陰にサッと身を隠した。──あいつか!
「ジョージ!何を!」
「奴を追いかけます!」
俺はゆっくりと走っている馬車の御者席から飛び降りると、急いで影を追った。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。