俺は、俺たちに気が付いて身を翻して走り出した人影を追って走った。俺たちに見られていることに気が付いて逃げ出すだなんて、放火の犯人ではないとしても、何らかの後ろ暗いところがあって覗いていたことには違いはない筈だ。絶対に逃がすものか!!
男との間にはかなり距離はあったが、ひたすらまっすぐな道で見失うことはない。
せめて犯人の目当てが俺なのか、コボルトなのかだけでも、はっきりさせておかなくちゃ、危なくてアシュリーさんやララさんを店に立たせるなんて出来ない。もしも犯人の目当てが俺じゃなく、罪のないコボルトたちなのだとしたら、俺は絶対に犯人を許さない。
たまたま、先祖が魔物の血を引くというだけで迫害されるなど、許されていいものか!
相手は成人男性のようだったが、幸い俺のほうが足が早かった。というか俺のほうがかなり背が高かったから、というかこの体、かなり人よりも足の長さが長いのだ。追いついて肩に手を置くと、強い力で振り払われたので、俺はその男の腰めがけてタックルを決めた。もんどりうって男と共に地面に倒れる。
相手はしたたかに額を地面に打ち付けたようで、思わず右手で額をおさえて体を起こした瞬間、右手で男の左肩を掴んで無理やりひっくり返して地面に両肩をおさえつけた。
「あなたは……。」
憎々しげに俺を睨んでいたその人物は、ロバート・ウッド元男爵だったのだ。
確か爵位を剥奪され、領地を没収されて、その後行方が分からなくなっていた筈だが。
この人が犯人ならかなり納得だ。国の強制力によって俺に店と土地を奪われ、また奥さんの浮気相手だと疑ってもいるのだから。
「……あなたが俺の店に放火を?」
俺はロバート・ウッド元男爵に尋ねたが、目線を下に落としてダンマリを決め込んだ。
「とりあえず詳しいことは役人に聞き出して貰いましょうか。一緒にいらしていただけますか?嫌だと言っても連れて行きますが。」
俺がそう言った時だった。額をおさえていた右手をポケットに突っ込んで何かを取り出したかと思うと、それが俺の目の前で強い光を放った。──閃光の魔道具か!!
俺が一瞬怯んだ隙きに立ち上がると、ロバート・ウッド元男爵はそのままどこかに逃げてしまったのだった。あとから慌てて追いかけて来たエドモンドさんが、大丈夫か、と言いながら俺に手を貸して立たせてくれる。
「逃げて行った男……。ありゃあ……、ひょっとしてロバート・ウッド元男爵か?」
「ええ。間違いなく彼でした。
放火も彼の仕業かも知れませんね。俺個人に対する恨みがある筈ですから。」
「ルピラス商会だって協力したってのに、ジョージの店にだけ手を出したのは、うちにはもともと警備兵がいるからかも知れんな。よし直ぐさま警備兵を手配しよう。奴が犯人なら単独犯だ。手が出せなくなるだろうさ。」
「……よろしくお願いします。」
それにしても薄汚れていたな、ロバート・ウッド元男爵。奥さんのジャスミンさんや、メイドがみすぼらしい格好をしていても、自分だけは身なりを整えていたというのに。
財産のほとんどを失ったというから、無理もない話だが。それも身から出たサビだが、きっと俺を逆恨みしているのだろう。
だがロバート・ウッド元男爵が犯人かも知れないと分かり、俺は少しだけホッとしていた。彼が犯人なのであれば、複数の見知らぬ相手から、コボルトたちが狙われるということはないからだ。もちろん、実際に店が始まって、店にコボルトたちが立つようになった時のことは分からないが……。
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