ルピラス商会が警備兵を使って見回りをしてくれるというし、作業員さんたちに見回りの苦労をさせることもなくなる。しばらくは安全だろう。俺たちは店に戻り、作業員たちに犯人らしき人物が顔見知りだったこと、ルピラス商会の警備兵が見回りをすることになったので、夜は休んで欲しいことなどを告げた。作業員さんたちはホッとしていた。
そこにミーティアが飛んで来て、俺の手のひらの上で手紙に化けた。手紙を読んでいる俺をエドモンドさんが覗き込む。
「誰からだ?急ぎの手紙なんて。」
「アシュリーさんからです。店に立つ前に覚えて欲しいことがあって、こちらにいらしてくれるようお願いをしてまして。」
俺は手紙から目線を外して答えた。
「そうか。ここに来るのか?」
「いえ、俺の家に来ていただく予定です。」
「そうか、久しぶりに会いたかったな。」
「伝えておきますよ。」
俺はそう言って笑った。すると遠くから誰かこちらに向かって来るのに俺たちが気が付くと同時に、相手がこちらに走って来た。
サニーさんだった。かなり低い身長、かつかなり短い足でチョコチョコと走ってくるサニーさんの姿は、ぶっちゃけ、きぐるみそのものかのようで妙に可愛らしい。
「ジョージさん!お久しぶりです!
いらしてたんですね!ちょっとお昼ごはんで自宅に戻ってまして。」
「お久しぶりですサニーさん。」
ハァハァ言いながらサニーさんが笑顔で挨拶してくれる。
「サニー、放火の犯人らしき人物が見つかったよ。奴をとらえれば万事解決だ。」
「本当ですか!?誰だったんですか?」
「ロバート・ウッド元男爵という、ここの土地建物をもともと所有してらした方です。」
「ああ、犯罪をおかして捕まったという。」
実際のところ別に捕まってはいないんだけどな。ただ爵位と財産の大半を没収されたというだけだ。だが貴族として生まれた者にとって、それは死よりも重い罪なのだという。
貴族は貴族としてしか生きられない。だからサニーさんのように、自ら手に職を持って生きて行かれる人間は稀なのだという。
令嬢であれば誰かしらのところに嫁入りするし、少なくとも爵位を継げない子息であっても、侯爵家以上であれば准男爵以上子爵以下の地位と土地を与えて貰えるし、そうでなくても王宮絡みや役場絡みの仕事につくことが出来るのだそうだ。この世界の天下りってやつかな。ちなみに准男爵は功績をあげた平民に与えられることのある爵位でもある。
商人ギルドや職人ギルドのギルド長なんかがそれなのだそうだ。もともとが平民の場合もあるし、貴族の子息だった場合もあるが、ギルド長は全員なんらかの爵位を持っているのだそうだ。ちなみにキャンベル商人ギルド長は子爵だと、あとでエドモンドさんに教えて貰った。どうりで他のギルド長よりも、かなり仕立てのよい服を着ていたわけだ。
王侯貴族とやり取りすることが多いと言っていたのも、もともと貴族でツテと信用があるからのことだろう。
ちなみに冒険者ギルドのギルド長は、基本的に元Bランク以上の冒険者で、貴族の子息がつくことはないとのこと。冒険者は荒くれ者が多いから、時に実力で黙らせる必要もあるからなのだそうだ。
だから本当であれば、侯爵令息であるサニーさんは、侯爵家を継ぐことがなかったとしても准男爵か男爵にはなれるのだ。本人は平民として平民の奥さんと生きることを望んだが。本人にその気さえあれば、いくらでも仕事は見つかる筈だが、ロバート・ウッド元男爵は、それよりも俺に対する嫌がらせをすることを選んだ。きっと今度こそ逮捕は免れないだろう。ジャスミンさんはどう思うのか。
教えたレモネードとハーブソルトが好調らしく、たまに仕入れの連絡を貰うと言っていたエドモンドさんが近況を聞いた時点では、まだ2人は離婚していないとのことだった。だがジャスミンさんとお母さんのアラベラさんのところにも身を寄せておらず、どこに行ったのか分からないというのは、エドモンドさんがジャスミンさんから仕入れた情報だ。
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