あまりいい気持ちじゃないな。本人が悪いとはいえ、彼がこうなってしまったことに、俺に責任があるわけじゃないんだが。
「でも、ルピラス商会の警備兵が見回りに来てくださるなら良かったです。実は、すぐに手配は難しいと言われてしまったのですが、冒険者ギルドに警備クエストを依頼してまして。ちょっと依頼を取り消して来ますね。」
「そうでしたか、お手数をおかけして申し訳ありませんでした。」
「いえ!ひとっ走り行って来ます!
ジョージさん、ではまた!」
「はい、また。」
そう言ってくるりと踵を返して走り出したサニーさんの後ろ姿が、特に肉厚で平たくて硬そうなお尻と短い足動く姿が、完全に走るきぐるみのそれと一致して、俺は思わず、んぶっ!と声を漏らしてしまったのだった。
「どうした?ジョージ。」
エドモンドさんがそれを見ていぶかしむ。
「いえ……、なんでも……。」
サニーさんの横に、走るピンクのウサギのきぐるみの幻影が見えるかのようで、俺はしばらくサニーさんの愛らしい体型にもだえていたのだった。かわいいな、サニーさん。
「──ただいま。」
俺はエドモンドさんと作業員さんたちに別れを告げて、家に戻って来ていた。
「おかえりなさい、どうだったの?」
裏庭でまだ楽しげにトランポリンで遊んでいるカイアとアエラキを見守りながら、ウッドデッキでくつろいでいた円璃花が、さっそく心配そうに聞いてくる。
「どうも顔見知りが犯人だった。俺の店を出す予定の場所の、土地建物のもともとの所有者だ。国が彼から土地建物を取り上げて俺に差し出したからな、恨んでの反抗だろう。もともと取り上げる予定があったのを、その後に売ると高いからってんで、融通をきかせてくれたってだけの話で、俺の存在がなくとも取り上げられる予定ではあったんだがな。」
「そうなの?それって逆恨みもいいとこじゃない。けど、大丈夫なの?店は。」
「一応、俺の店に出資してくれている、ルピラス商会のエドモンド副長が、私設の警備兵を回してくれるというから、おそらくは大丈夫だ。というかそれまでも、作業員さんたちが自主的に夜に巡回しててくれたらしい。」
「そうなの?それは有り難いけど申し訳ないわね。それに何かあったら危険だし……。」
「そうなんだ……。だからエドモンドさんの申し出が有り難かったよ。その犯人──まだ犯人と決まったわけじゃないが、ロバート・ウッド元男爵というんだが、その人の身重の奥さんが、馬車で実家に帰るのに乗り合わせてな。他の乗客と一緒に助けて、お礼にと実家の宿屋に招待された時に出くわしてな。」
「馬車に乗ったの?──身重の体で?」
「そうなんだ。旦那さんに暴力を振るわれて実家に逃げて来たらしくてな。」
「なにそれ、最低……。」
「追いかけて来た彼が、また奥さんに暴力を振るおうとしたところを助けたら、奥さんの男だと疑われてな。それで恨まれてるってところだ。このまま済むとはちと思えない。」
「確かに。そういう人間て、何するか分からないものね……。どうにかその人を捕まえられないの?だって放火犯なんでしょ?」
「おそらくは。だがまだ証拠がないのと、追いかけて一度は捕まえたんだが、逃げられちまってな。なんとか警備兵がとらえてくれればいいんだが。店が始まっても不安だよ。」
「店の従業員やお客様に、何かあってからじゃ遅いものね。そんな人なら、ジョージや店舗だけを狙うとは思えないわ。」
「ああ。だから俺も何か対策を考えなくちゃとは思ってる。──ああ、そうだ。店に立ってくれる予定のコボルト2人が、ネイルを教わりに家に来てくれるそうだ。明日来れるって言うんだが、構わないか?」
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