俺はアシュリーさんとララさんに、マジックバッグに入って貰った。
ごめんな、お父さん、またちょっと出かけるんだ、と言うと、カイアがしょんぼりした表情で見上げてくるので、思わず出かけたくなくなってくる。……いかんいかん。後ろ髪をひかれる思いで馬車に乗り込んだ。
家から少し離れたところで、2人にマジックバッグから出てもらう。御者はエドモンドさんがつとめてくれていた。
「外はこんな感じなのね!」
アシュリーさんは窓から外をのぞいて楽しそうにはしゃいでいる。
「以前は直接ルピラス商会で、マジックバッグの中から出ていただきましたからね。」
「王都の近くも、意外と森があるんですね。
もっと建物ばかりかと思ってました。」
ララさんも外を見ながら言う。
「ララさんは、他の冒険者ギルドに行かれる際に、ご覧になったことがないのですか?」
ララさんは普段コボルトの集落で、冒険者ギルドの受付嬢をしている。他の地域の冒険者ギルドに、仕事で行くこともあると言っていたから、見たことがあると思ってたんだがな。王都の冒険者ギルドには行かないのか?
「フードで顔を隠しながら、うつむいて、あまり見られないようにして移動するので、周囲の景色を見る余裕がなくて……。」
と苦笑した。なるほどな。
「これからは、毎日見られるようになって、そのうち飽きる景色ですよ。」
そのために、店をやるんだからな。
そう言うと、アシュリーさんもララさんもフフッと嬉しそうに笑った。
「──こちらです。」
まずはエドモンドさんが先に降りて、店の前に護衛兵を集めて配置してくれた。
俺は2人に馬車から降りてきて貰う。
「以前1度連れて来ていただきましたけど、改めて見るとほんとに王宮が近いんですね。ここからでもとてもよく見えるわ……。」
ララさんが上を見上げてそう言った。
「ええ、既に王宮職員さんたちと、このあたりの商人ギルドに勤めている方たちの間で、昼食優先券が取り合いですよ。枚数を固定することになったくらいです。」
そう言うと、
「そうなの。私たちを受け入れてくれている人たちもいるのね……。」
とアシュリーさんがつぶやいた。
「それに、とてもキレイで大きいわ!
ほんとにこんな場所で、コボルトの伝統品や料理を扱うお店が出来るなんて……!」
「それだけじゃないですよ。」
嬉しそうなララさんに、俺は上を指さし、
「──看板を見て下さい。」
「看板?」
アシュリーさんとララさんが、俺の指差す方向を見上げて、看板の存在に気が付いた。
そこには、犬の耳と鼻をデザインした可愛らしくも上品な形の、厚手の木の看板がぶら下げられており、王室御用達の意匠と、アンテナショップ、クリスの家と書かれていた。
アンテナショップとは、自治体の特産品・伝統工芸品の販売促進の為に、地元の製品を広く紹介する目的で作られる店のことだ。
企業が消費者の反応を探ったりする目的で開設することもある。常設もあれば期間限定のことも多い。俺も前世ではよくお世話になっていたものだ。この世界では馴染みのない言葉だが、コボルトの伝統品店の販売品を表すのには、1番ピッタリな言葉だと思った。
「クリス……兄さん……。」
アシュリーさんがポツリとつぶやいた。
「人間に魔物扱いされて襲われても、最後まで人間に手を出さずに亡くなられたクリスさんのお話は、コボルトたちが人間の敵に決してならないという事実を、象徴しているエピソードだと思いました。」
アシュリーさんはじっと看板を見つめ、ララさんはそんなアシュリーさんを見ていた。
「俺はそのことを忘れたくない、たくさんの人に知って欲しいと思いました。だから店の名前にさせていただきました。ここは、コボルトと人間の架け橋になる店です。きっとクリスさんが守ってくれます。そしていつか本当に、そんな世界になることでしょう。クリスさんがそうしたかったように。」
アシュリーさんの目から、ポロリと涙がこぼれ、後から後からとめどなく溢れ出す。
「……ええ!そうよ!
コボルトは人間を守る為に戦ったの……!
その誇りを傷付けない為に、クリス兄さんは、最後まで抵抗せずに殺されたわ……!
いつか必ず、人と手を取り合える筈だからって……。きっと、きっと作ってみせる。
兄さんが目指した、優しい世界を。
見ていてクリス兄さん。
私、必ずやり遂げて見せるから……!」
泣いているアシュリーさんの体を、ララさんがそっと抱きしめていた。
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