「それでね?あなたをお呼び立てしたわけなのです。あなたにしかお願い出来ないことだと思うのですがいかがでしょうか?」
「はあ。」
俺は目の前でたおやかに微笑むメイベル王太后に、思わずそう言葉を返した。
ことのくだりはこうだ。
隣国ノインセシア王国の現国王の母君であるメイベル王太后は、この国──バスロワ王国──の現国王の祖父であり、元先代勇者のランチェスター公の娘さん、かつ先代国王の妹君だ。
隣国の元国王に懇願されて嫁いたものの、瘴気をはらう為にこの地に降臨された聖女様に対する、ノインセシア王国の酷い扱い──つまりは現国王である息子のやり方──に反発し、抗議の意思を示す為に、現在実家に里帰りしている状態である。
そんな彼女と彼女の兄上である前国王は、この国の侍従長であるジョスランさんとは乳兄弟なのだと言う。ジョスラン侍従長の母親が前国王の乳母であり、ジョスラン侍従長はその息子さんとして、幼い頃より遊び相手になっていた。
当然妹であるメイベル王太后も、小さい頃一緒に遊んで貰ったり、嫁にいくまで色々と世話になっていたのだと言う。
そんなジョスラン侍従長がもうすぐ60歳の誕生日を迎える。その日に向けて王族たちは、様々なお祝いを考えているのだそうな。
「恥ずかしながら、アーサーや、セレスや、サミュエルが、楽しそうにジョスランのお祝いについて話しているのを聞いて、そういえば……と思い出しましたの。
おそらく諸国漫遊中のお兄様も、旅先からなにがしかを送ってくる筈ですわ。」
王族に謁見の際、前国王を見かけないと思っていたが、息子にあとを引き継いで、旅行を満喫しているのか。羨ましい限りだな。
ちなみにアーサー様は国王、現公爵夫人であるセレス元王女は女官の管理と王宮に新たに仕入れる品を選別する責任者、王弟サミュエル様は宰相の立場についている。
「わたくしは長らくこの国を離れておりましたでしょう?
おまけに急いで戻ってきてしまったものだから、何も持たずに来てしまったのです。
だからジョスランに何を贈ったものかと考えていたのですけれど、パトリシアに聞いたあなたの話で思いつきましたの。」
ちなみにパトリシア様は現国王の娘であるお転婆王女様だ。下に2人の弟君がいる。
以前王女様の命令で、友人であり宮廷料理人のロンメルに、無理やり王宮に連れてこられ、パトリシア王女に料理を振る舞ったことがあるのだ。だが俺はそもそも料理人ではないし、趣味で料理するに過ぎない。
「ですが……。この世界の珍しい食材を使った料理となりますと……。
俺の作れるものは、俺の国の普通の家庭で食べられているものばかりです。
そういう変わった食材を使ったことがないもので、どうにも……。」
俺が逡巡していると、
「──では、こういうのはどうかしら?
エイト卿はこれから、お父様の友人であるコボルトの為の店を作り、魔物扱いされているコボルトの扱いを、国民たちに変えさせようとしているとうかがいました。」
「はい、パトリシア王女の協力を得て、王宮近くのよい場所に、土地と建物を手に入れたばかりです。」
「──その店から、むこう30年間、ノインセシア王国からの一定以上の仕入れを約束しましょう。契約書を作って差し上げるわ。店の売上が安定するのではないかしら?」
むこう30年間だって!?
「……よろしいのですか?彼らがどのような商品を扱っているのかはご存知で……。」
「ええ。いただいた食材も、食器も、若返りのお茶も、どれも素晴らしいものばかりでした。今回のことがなくてもお願いしたいとは思っておりましたのよ?」
「気に入っていただけたのであれば幸いですが、30年ともなるとさすがに驚いております……。メイベル王太后はノインセシア王国で物凄い権限をお持ちなのですね。」
「夫はわたくしのお願いごとなら、なんでも聞いてくれますのよ。」
メイベル王太后はそう言って微笑んだ。
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