みんなで朝ごはんを食べる。今日のメニューは菜の花のお浸し、卵焼き、里芋とこんにゃくとエリンギと豚肉の煮物、キュウリの漬物、ワカメと大根と油揚げのお味噌汁だ。
やっぱり小鉢がたくさん並べられる余裕のある生活はいいな。色々出したくても、仕事しながらだと時間がないからな。
「今日はちょっと1日出かけることになると思う。移動販売の馬車が一部完成したって連絡があったんでな。働いてくれる人たちの様子を見に行って、お試しで近隣に販売を開始する予定なんだ。俺も一緒に近隣の村にあいさつ回りをする予定だから……。」
「この子たちを見ていればいいのよね?
だいじょうぶよ、いつもみたく、一緒に遊んでいるから。」
「すまないな、こんなに同時に色々始める予定じゃなかったんだが、つい、な……。」
「どうせ困っているのを見て、ほっとけなかったんでしょ。貴方らしいわ。」
円璃花がそう言って笑う。
「うん、まあ……。」
「それより、もうすぐよね!温泉旅行!」
「楽しそうだな。」
「そりゃあそうよ。外出が許されない身分ですもの。出かけられるとなればね。」
円璃花はとても嬉しそうだった。
「──まだ会議してるのか。」
「そうみたい。」
聖女様である円璃花の所属をどの国にするのかという問題は、なかなか決着がつかないようだった。本来なら、あらわれた国の所属になるのが通例だったんだからな、例外がなかったとなると、対応にも苦慮するだろう。
「はやく決まらないと、お前も息がつまるよな。外出禁止ってのはな……。」
「ほんと、それよ。別に外出出来るなら、もうどこだっていいわ。正直。
まあ、あの国以外で、だけど。」
嫌がる円璃花に虫料理を提供し続けた、ノインセシア王国は、聖女様を保護する権利を既に失っているから、当然そこ以外で、ということになる。
「私としては、この国のほうが有り難いけどね。知らない土地に今更行くのもね。」
「ただまあ、前回がこの国だったことを考えると、ここ以外になるんじゃないか?」
前回の勇者であるランチェスター公は、この国のお姫様と結婚して先代王になった。
「……そうよねえ。あーあ、せっかく譲次とも再会出来たっていうのにね。」
「使命を果たしたら、また戻ってくればいいじゃないか。」
「その時は、たぶんよその国の王子様と、結婚でもさせられて、余計に戻って来れなくなるわよ。先代もそうだったって言うし。」
「そうなのか?」
「そうよ。この世界の王族は、代々勇者か聖女のいずれかの血を引いているんですって。
だから私もそうなると説明されたわ。」
「お城住まい、憧れてたんだろ、なら、渡りに船じゃないか。」
「王子様がいい人ならね……。
でも、たぶん、かなり若い子でしょ?
それがちょっとね……。」
「まあ、それはな……。」
中の人が中年の俺たちとしては、若い子にあまり興味が持てない。正直性的な目で見るのがかなり難しいのだ。
「まあ、なるようになるさ。
その時また考えたらいい。嫌がるのに無理やり結婚させたりはしないだろうさ。」
「そうね、そうする。」
「じゃあ、そろそろ行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。」
階段に隠れた円璃花が、カイアたちと手を振ってくれる。手を振りかえしてドアを閉めた。たぶんこれから洗い物を一緒にやってから、みんなで遊ぶんだろうな。たまに円璃花たちだけにしか分からない思い出を作っていることに寂しくなる。……早く帰ろう。
「よう、ジョージ。」
「お待たせしました。」
「いや、大して待ってないさ。」
「嘘をつけ、最新の馬車と聞いて楽しみにしていただろ。昨日眠れなかったろ。」
「それはお前だろ、ザキ。」
アスターさん、インダーさん、ザキさん、マジオさんが、アスターさんの家の前で立って待っていてくれ、笑顔で手を振ってくれている。今日は移動販売に使う馬車が一部完成したので引き取りに行く日なのだ。
俺は馬車を操縦出来ないので、あくまで納品確認の為だけの同行だ。
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