「よし、さっそく行こうぜ。」
アスターさんが張り切って言う。行きは乗り合い馬車、帰りは注文した馬車に乗る予定だ。俺たちは乗り合い馬車に乗り込んだ。
「……最初の納品が20台だったよな。」
「ジョージ、ほんとに馬車を運ぶのに俺たちだけでだいじょうぶなのか?往復するだけでも結構かかるぞ?」
インダーさんが心配そうに聞いてくる。
「マジックバッグがありますし。同行していただくのは検品の為ですから。俺は乗れないので、良し悪しが分かりませんし。」
「馬車に乗って運びながら、実際に問題がないかを確認するってことだな。」
マジオさんが言う。
「はい、そのほうが一石二鳥ですし。一部を確認出来ればじゅうぶんなので。」
ワイワイ話ながら馬車に揺られていると、あっという間にアンデオールさんの住む、ガスパー村へと到着した。村の入口でアンデオールさんが待っていてくれた。アンデオールさんは木工加工職人で、馬車の車輪作りを担当しているこのあたりで有名な職人さんだ。
「おう、久し振りだな。息災そうだ。」
アンデオールさんがニッカと笑う。
「お久しぶりです、アンデオールさんも、お元気そうで。」
「馬車はひとつの工房に集めとるよ。
さっそく行こうか。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
アンデオールさんについて、俺たちはゾロゾロと徒歩で移動した。到着した工房はミオールさんのものだそうだ。中に入り切らないのか、工房の外でも馬車をせわしなく組み立てている工員たちの姿が見える。みんな真剣でこちらにはちらりとも目もくれない。すごいな、専門家集団という感じがする。
工房の外には、ゼファーさん、スーレイさん、ヤーナさん、ミオールさん、トックさんの、すべての馬車工房長全員が、ミオールさんの工房に集まってくれていた。
「馬車は少し離れたところに集めてあるので移動しましょう。こちらです。」
そう、うながされて、また更に歩いた。
歩きながら、なぜミオールさんの工房に馬車を集めることになったのかを説明してくれる。なんてもゼファーさんとスーレイさんの2人が、自分のところを代表にしろとまた揉めたらしい。結局間を取って、2人以外の工房に馬車をとりまとめることになったのだそうだ。やっぱり職人はやかましいな、とアスターさんがボソリと言ってくる。
本当ならスーレイさんの馬車工房が、1番アンデオールさんの村に近いんだけどな、とヤーナさんが教えてくれた。
俺はなんとも言えず、苦笑するしかなかった。近いからとスーレイさんの馬車工房に馬車を集めようとしたのを、ゼファーさんが納得しなかったのだろう。
「──さあ、とくと見てくれ、こいつはどうだい!?長時間の移動にも快適な仕様、そして荷台は、日頃は荷物を載せる用、人を運べるように切り替えも可能、だったな。
ご注文の通りになってる筈だぜ!」
「おい、俺の言葉を取るな!」
「まあまあ。」
ゼファーさんがドヤ顔で説明するのを、スーレイさんが難色を示し、トックさんが2人を引き離そうと間に割って入った。
「御者席も荷台も、座席の部分はうちの技術を採用してるんだ、自慢くらいしたっていいだろう?うちの馬車はなんたって快適だからな!それはお前も分かっていることだ。」
「座席の収納部分はうちの技術だろうが!
お前んとこだけの手柄みたく言うな!
うちの技術がなけりゃ、ジョージさんの依頼した通りの物が作れねえって、泣きついてきたのは、どこのどいつだ!」
「ぐっ……、まあ、それはそうだが。」
なるほど、技術を持ち寄ってくれたのか。
「見せていただいても?」
「ああ、もちろんだ。」
「乗ってみましょうか。」
「よしきた!楽しみだったんだ!」
「俺、いっちばーん!」
「おい、静かにしろよ!よそさまのところだぞ!子どもじゃないんだからな!」
楽しそうだな。まあ、仕事が楽しみなのはいいことだと思った。
アスターさん、ザキさん、マジオさん、インダーさんが、順番に馬車の御者席や荷台に乗り込み、使い勝手や座り心地を確認している。俺も荷台に乗ってみた。中は真新しい木のいい匂いがした。荷台の座席は通勤ラッシュ時の電車の座席よろしく、日頃は折りたたんで壁に収納出来る仕様になっていた。これなら荷物を運ぶのにも邪魔にならない。それが御者席の後ろと両側面の壁についている。
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