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第133話 ハンバーグ工房始動①

 可動部分が1番摩耗しやすい筈だが、収納部分が幅広く取られていて、座席を出した時に、可動部分でしっかりと体重が支えられるようになっている。ただしまえるだけではなく、きちんとたくさんの人が座っても耐えられるようになっていた。それでももちろん、固定されている御者席の座席のほうが、さすがに座り心地がいいんだがな。


 荷物を動かないようにさせる、固定具もしっかり取り付けられているのを確認する。

 特にハンバーグを入れる冷蔵庫を取り付ける必要があるからな、冷蔵庫が倒れでもしたら困っちまう。床板を外して冷蔵庫が倒れにくいように設置できる仕様になっていた。

「うん、これなら……。」


「御者席に比べると、多少座面がかたいと感じるが、これはこれで悪くねえな。乗り合い馬車の木の椅子に比べたら、全然快適だぜ!

 折りたたみ椅子ってのは初めて見たが、あんがいしっかりしたもんなんだな。」

 アスターさんは何度も荷台の椅子を開いたり閉じたり、座ったり立ったりしていた。


「走るところも確認されますか?

 ご注文の馬を用意しています。」

「そうですね、そうしたいです。」

「では少し待っていて下さい。」

 手綱を引かれた馬がやって来て、馬車に取り付けられているのを眺める。くりっとした目の可愛らしい焦げ茶色の馬だ。

「……メスですね。」


「馬車馬はメスが多いんですよ。オスは気性の荒いのが多くてね。去勢しないと調教に時間がかかります。オスは安く農耕馬なんかにされるか、騎兵隊が乗る馬になりますね。

 うちじゃ調教する牧場と連携してますが、調教出来る牧場が少ないので、調教済みの馬を手に入れるのはなかなか難しいですよ。」


 馬と馬車を一緒に購入出来るのは、このあたりじゃうちだけなんですよ、とミオールさんが説明してくれる。その界隈じゃ有名らしい。集合場所がミオールさんの工房に決まったのは、ゼファーさんとスーレイさんを争わせない為ってだけでもないんだな。

「よし、じゃあ走らせてみるぜ!よーしよしよし、可愛いなぁ……。頼んだぜ!」


 ハイ・ヨー、と掛け声とともに、ザキさんが馬に軽くムチを入れる。指示を与えるだけなので、ほんとに軽く、ピシッと当てる程度でいいらしい。馬はそれだけでゆっくりと歩き出した。うんうん、馬もよく調教されているし、車輪も安定しているな。石ころの多い地面でも、ガタツキをあまり感じさせないのは、俺の出したスプリングのおかげだろう。


 俺は馬車の荷台に乗ったまま、馬車の振動を確認しながらそう思った。俺の提供した新技術を、しっかり組み込んでくれたらしい。

「──素晴らしいです。問題ありません。」

「良かった!では残りの馬車も、このまま作らせていただきますね。」

 馬車工房長たちは、ホッと胸を撫で下ろしたようだった。


「この飾りは素晴らしいですね、木を掘っただけだが、これがあることで、とても豪華な仕様に見えます。これは商売を真似する人たちが出てきても、簡単には真似出来ないでしょうね。うちだけの特徴のひとつになる。」

 インダーさんが馬車から降りて、車体の飾りを撫でながらそう言った。


「そう言っていただけて嬉しいです!親しみやすさと荘厳さの双方を取り入れた意匠にしてみました!うちの担当なんです。」

 トックさんが笑顔になる。

「それより、このほろだぜ?インダー!全面に防水魔法が施されてる!雨の日でも、ほろにロウを塗る手間がないのはありがてえ!」


 アスターさんが荷台の上から、握りこぶしから立てた親指で、馬車の屋根をさして言った。屋根は取り外しが出来るよう、ほろになっているのだ。長距離でもない限り、乗り合い馬車は屋根がないからな。乗り慣れた仕様がいいだろうと思い、屋根は固定ではなく、取り外しが可能にして貰ったのだ。


「うちでは精霊魔法使いと取引をさせていだいているんです。防水魔法のほどこされたほろを備えた馬車が手に入る工房は、国広しといえども、恐らくうちだけですよ!」

 今度はヤーナさんが嬉しそうに言った。

 色んな技術が集まった結晶なんだな。

 アンデオールさんがこの5人を選んでくれた理由がよく分かった。


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