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第135話 消えたアスターさんの想い人①

「さて、お腹も満たしたところで、そろそろ行きましょうか、インダーさん。

 少し予定よりも遅いですが、移動販売に出る時間です。」

「おお、そうだな。すっかり話し込んでしまった。アスター、マジオ、ザキ、俺たちの出番だ!ハンバーグを売り尽くしてやろう!」


「よし!俺たちの初仕事だな!」

 アスターさんが椅子から立ち上がる。

「最初は顔見せで全員で行くんだよな。」

「うう~!緊張する~!!」

 マジオさん、ザキさんも立ち上がった。

「準備は出来てます。」

 馬房担当のナッツさんが、かたわらに立って張り切ってそう教えてくれる。


 4人は既に移動販売用の制服に着替えている。俺もお昼ご飯を食べる時の着替えの際に着替えてある。顧客の信用をうるために、統一した制服を着ることにしたのだ。

 これには協力先として、ルピラス商会の紋章も入っている。一部の提携先に使わせているから、ジョージもどうだ?とエドモンドさんが提案してくれたのだ。


 海の物とも山の物ともつかぬ俺たちが、物売りに突然村に行ったとしても、有名なルピラス商会の紋章は知っている人も多いから、拒絶されることが少なくなるだろう。

 そして何より制服は、従業員の犯罪防止にも役立つ。とある企業で会社の名前と連絡先をデカデカと車体に入れたら、信号無視やスピード違反が減ったというのは有名な話だ。


 自分の素性がバレたり、会社に影響を与えてクビになる環境では、人は悪いことがしにくいものだからな。馬車に特徴のあるデザインを施したのもその1つだ。よそに真似されにくいというのもあるし、ひと目でうちの馬車と分かるからな。アスターさんたちはともかく、大勢の荒くれ者の冒険者たちを雇うのだから、これくらいは必要だろうと考えた。


「頑張れよー!」

「頼んだぞー!」

 外まで出て来て手を振って見送ってくれる村人たちに手を振りかえして、俺たちの乗った馬車はハンバーグ工房を離れた。

「──まずは丘の上のランダ村からだな。」

「ああ、冒険者の拠点にもなっている村だからな、お客は多いことだろう。」


「拠点?」

 マジオさんとザキさんが御者席、俺とインダーさん、アスターさんが荷台にしつらえられた座席に座ってる。俺が首を傾げると、

「ダンジョンや、森や平原に魔物が出没する場所の近くにある村や町のことさ。冒険者が勝手にそう呼んでいるだけだけどな。」

 とアスターさんが教えてくれる。


「冒険者ギルドの支部が近くにあることもあるが、ない場所もたくさんあるんだ。人の行き来が他の村よりは多いが、冒険者ギルドの支部がない場所には、そもそも店が少ない。

 村の中で働いている人間が少ないからな。食べ物が買える店や、食べ物屋がないんだ。

 ナイフやロープくらいは売っているがな。

 武器なんかは町に行かないとないな。」


「なるほど……。」

「まあ、ランダ村にはパン屋があるから、まだマシだけどな。」

「パン屋?」

「ああ、あそこのパンはうまいよな。

 なんといってもやわらかい。」

「かたくないパンを、コボルトの集落以外じゃ初めて食べたよな。」


 そうなのか、この世界。

 そう言うわれてみると、こっちに来てから、この世界のパンはナナリーさんのところで食べたきりだが、確かにかたくて、スープにつけて食べる前提だったな。

 あれが標準仕様なのか。

 そこにきて、コボルトの集落で焼いてくれたパンは柔らかかった。


 酵母菌のことを知らないのかもな。

 この世界じゃ、パンはそれぞれの家庭で作って食べるものだと思っていたが、パンも商品にくわえたら売れるかも知れないな。

 そうこうしている間に、馬車がランダ村についた。ランダ村のパン屋は、丘の上の巨大な木の脇にチョコンと建っている、木の枝や実のデザインの可愛らしいお店だった。


「この木の下で売ろう。ちょっと騒がしくするからな、隣のパン屋に挨拶してこよう。」

「あ、なら俺も行きます。」

「俺も久し振りに顔を見てこよう。」

 インダーさんの言葉に、俺とアスターさんがパン屋へ向かうこととなった。マジオさんとザキさんが、その間に店の準備をしておくぜ!と声をかけてくるので頼んでおいた。


「おーい、エレイン、久し振りだな!

 ちょっと今日から俺たちも、隣で商売を始めることになってな……。──ありゃ?」

「誰も……いませんね?」

「おかしいな、店があいていて、鍵もかけずにそんなこと……。」

 インダーさんも首を傾げる。

 俺たちがあたりを見回すと、何かが視界の端で動いたような気がした。


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