「今、何かが動きませんでしたか?」
「確かに、何か動いたな。ネズミか?」
「おいおい、パン屋にネズミだって?さっさと追い出すか退治してやらねえと……。」
俺の脇を、サッと通り過ぎようとした何かを、俺が瞬時に手の中につかまえる。
「ジョージ!ネズミを掴んだら汚いぞ!
……なんだ、そりゃあ?」
俺の握りこぶしの中で、抜け出そうともがいているのは、拳サイズの人間だった。
「ポッチュをはなせ!」
「帰れ人間!」
すると、パン屋のあちらこちらから、小さな人間たちが姿を表した。子ども、老人、すべてが同じサイズの小さな体をしていて、ストンとした民族衣装に身を包んでいる。
ラーメンのどんぶりのふちにありそうなデザインの模様で、バンダナと、それとお揃いの模様が、服の袖や服に入っている。色はバラバラだが、デザインそのものは同じだ。
「コロポックルみたいだな……。」
俺がポツリとそう言うと、俺の手の中の小さな人間と、周囲で見守っていた小さな人間たちが、ギョッとしたような顔をする。
「──え?ほんとにコロポックルなのか?」
「お、お前、俺たちを知っているのか?」
お年寄りのコロポックルがそうたずねる。
「まあ、俺の地元にいたからな……。
コロポックルは。」
地元と言っても、日本という意味でだけどな。北海道のアイヌの先住民とも言われる種族で、物語の中じゃ妖精なことも多い。
名前の由来は下に住む人という意味で、穴の中で生活をしている。小さな葉っぱを持ったイラストを見たことがある人もいる筈だ。
あれは蕗の葉で、1枚の葉っぱに10人入れるくらいの大きさの、アイヌの前の日本の先住民説がある存在なのだ。
こっちのコロポックルは妖精なのかな?
まさか見れるとは思わなかった。
「だからか?お前からは大地と植物の加護を感じる。我らに近しい存在だ。」
おじいちゃんコロポックルが俺を指さしてそう言うと、まわりのコロポックルたちもうんうんとうなずきだす。
「いや、それはたぶん、俺の子どもがドライアドだからだと思う。俺を守護して加護を与えてくれているからな。」
「なんと……!それはほんとうか!?」
「ドライアドさまの加護だって!」
「ほんとかな?」
ザワザワと話し出す声がする。
「だがほんとうにせよ、そうでないにせよ、お前が我らと近しい存在であることに変わりはない。どうか我々を助けて欲しい。
この店の主人と関わりのあることだ。」
「エレインと関係があるだって!?」
アスターさんが食い気味におじいちゃんコロポックルに近寄り、子どものコロポックルたちが、その後ろにササッと隠れた。
「この店のご主人……、エレインさんが、どうかなさったのですか?」
「エレインは、我らに優しい人間なのだ。
……だがもう2日も帰って来ない。」
「エレインはパンに使う材料を取りに、森に行ったんだ!」
「ポッチュのお祝いの為に、素敵なパンを作るわねと言って……。」
「オ、オイラが、子どもが産まれたなんて、エレインに言わなければ……。」
俺の手の中で、ポッチュと呼ばれたコロポックルが泣き出した。
「そういうことなら、ジョージだけじゃなく俺たちも手を貸すぜ!」
「ああ、そうだな。エレインのパンにはいつも世話になってる。」
「森のどのあたりか分かりますか?
案内出来る人がいたらついて来ていただきたいです。一刻も早く探しましょう!」
アスターさん、インダーさんも胸を叩いてうけおってくれた。
「オイラが案内するよ!エレインがいつも行く場所は分かってる!……けど、そこには夜になると魔物が出るんだ。昼間でも、もし寝ているところを邪魔したりしたら……。
オイラたちじゃ歯が立たないんだ。」
「だいじょうぶです。俺たちは冒険者だ。」
「1人、元、だけどな。」
「よし、急ごうぜ!」
俺たちは、マジオさんとザキさんに、馬車と移動販売の店を任せると頼み、エレインさんを探しに行くことを告げた。
任せておいてくれ!と2人がこたえ、俺たちはポッチュとともに森へと急いだ。
「ここだよ。エレインは今の時期はここの木の実を取ってることが多いんだ。」
ポッチュが案内してくれた場所は、小高い丘の上に木の実がたくさんなっていた。
「ここ、土が崩れてませんか?」
木が丘の端っこに立っている場所の、足元の土が不自然にえぐれていた。
「下に滑り落ちたのかも知れんな。
……見たところ姿がないようだが。」
下を覗き見たが、エレインさんらしき人の姿はなかった。
「ちょっと降りてみよう。」
「ロープを出すぜ!俺が行く!」
────────────────────
X(旧Twitter)始めてみました。
よろしければアカウントフォローお願いします。
@YinYang2145675
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
7/29よりピッコマでコミカライズ先行配信中です!
9話(1話3分割)まで無料で読めます。
1話につきハート10個までつけられます。
たくさんの応援お待ちしています!
継続の為には売れ行きが大切なので、よければ買って下さい(*^^*)