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第143話 エリック・ヒューストンの静かなる戦い①

 通路を挟んだ反対側が、芸術大賞の貴族関係者席らしく、仕立てのいい服で着飾った人たちが大勢集まっている。かたわらに立っていられても迷惑だからか、立派な椅子の横に質素な椅子が置かれていて、それぞれの椅子に貴族とその従僕たちが座っているようだ。

 後ろは護衛の兵士たちでかためられているからか、後ろで立ってたりもしないんだな。


 代わりに従僕用の椅子は、貴族の椅子からちょっとだけ後ろに下がって置いてある。そこにチャーリー・ストークス伯爵が、従僕を伴って最後にやってきて、席についた途端、俺の隣の円璃花の存在に気が付いたらしく、無遠慮にジロジロと眺めたかと思うと、円璃花にニヤついた嫌らしい視線を投げて寄越した。……この人、どれだけ女好きなんだ?


「……なにかあったのか?」

「ちょっとね。」

 円璃花はそう言って言葉を濁した。

 すぐに周囲が少し薄暗くなり、授与式典が始まった為、話は一度そこで途切れた。

 サミュエル宰相の進行で、勲章を授与される人たちが、一人ずつ壇上へと上がり、勲章を授与されたのち、おのおの言葉をのべる。


 これはなにかの魔道具なのかな?スピーカーのように、サミュエル宰相の声が、頭の上から響いてくる。俺がそう思って目線だけで上を見上げていると、これですよ、と円璃花の隣の席のアイリスさんが、コッソリと小さな宝飾品を手のひらの上に乗せて見せてくれた。なるほど、この距離で見えないが、サミュエル宰相はこれを身に付けているんだな。


 恐らく後で円璃花も使うから、アイリスさんが預かってるんだろう。

 俺とメッペンさんの番になり、拍手とともに壇上に上がって、アーサー国王陛下より男爵位の叙爵を、パトリシア王女殿下から勲章を、しきたりにのっとって授与される。


 いつもはお転婆のパトリシア王女も、こんな時はやっぱりちゃんと王女様なんだな。

 緊張してたどたどしく、遠くに住んでいる妹と、仕事を手伝ってくれて、今日は自分の代わりに責任者として現場を守っている義弟に感謝を伝えたいと思います、と言ったメッペンさんと、俺もそれらしいお礼の言葉をのべたことで、叙爵と勲章授与式は終わった。


 パトリシア王女の、2人いるという幼い弟さんたちの姿も、アーサー国王陛下の横の席に見える。何度か王宮には来たが、弟さんたちは初めて見たな。まだ政治の場には参加させていないと言っていたから、こうして人前に出ることはとても珍しいのだろう。


 ただその場にいるだけの為に来ていたらしく、挨拶はかわせなかったが、足のつかない椅子に腰かけて、とても緊張しているらしいお兄ちゃんと、まだよく状況が分かっていないのか、リラックスして緊張のきの字も見えない弟さんが、対照的でとても愛らしいな。


 そうして、エリックさんたち、芸術大賞受賞者の番になった。ここからは今までの厳かな雰囲気とは違い、芸術大賞主催者側の仕切りになるらしい。なんと司会までいる。司会者が、君こそが明日の芸術界を背負って立つ人間だよ!我々をうならせてくれた実力で、世界でも活躍してくれたまえ!と声をはる。


 大賞受賞者が盾を授与され、先ほどまでとは比べ物にならない程の拍手が沸き起こる。

 その音の大きさに、メッペンさんが思わずビクッとした程だ。俺も少し驚いていた。

 ……なるほど?自分たち貴族のイベントのほうがメインであると、言いたいわけか?

 つまり拍手をしていた連中は、いわゆる貴族派と呼ばれる派閥の人間ということだな。


 さすがにアーサー国王陛下やサミュエル宰相は表情に出さなかったが、パトリシア王女はあからさまにムッとしていたし、上の弟さんも困惑しているようだった。

 王族相手に随分と舐めた態度が取れたものだな。そりゃあ、エリックさんが、芸術大賞を不可侵領域のように言うわけだ。


「この芸術大賞という賞は、もともとストークス伯爵の先々代が発案者なんですが、……発案当初は、こんな芸術大賞に関わる貴族たちが、好き勝手やるような賞ではなかったとうかがっています。選ばれた絵師が他国からも評価を受け、芸術大賞が権威あるものになった頃から、ストークス伯爵の先代が私物化し始めて、今ではこのようなことに。」


 俺の隣の席のダニエルさんがそう教えてくれる。なるほど、ストークス伯爵は芸術大賞創設者の孫なのか。それで伯爵程度なのに、あんなにも態度が大きいんだな。

 国内外から注目される芸術大賞の最高顧問ともなれば、芸術に造詣が深い人間として、貴族たちからも王族からも一目置かれることだろう。実際の本人がどうであれ。


 エリックさんの番になり、王族選出による特別賞は、王族から盾を手渡されることが司会者から告げられ、パトリシア王女がエリックさんの前に立った。通路を挟んだ反対側の、芸術大賞の貴族関係者席の貴族たちは拍手をしようとはしなかった。エリックさんの妻のジュリアさん以外、誰も。俺は拍手をしながら、ジロリとストークス伯爵を睨んだ。


「おめでとう。……負けないで下さいね。」

「ありがとうございます……!」

 今まで俺たちにも、おめでとうしか言わなかったパトリシア王女が、エリックさんに特別に言葉をかけた。これはかなり異例のことらしく、周囲がざわついている。



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