ガンッ!
大きな音で現実に引き戻された。ベンが立ち上がった勢いで、椅子が倒れた。
なんだ、こいつ。もう少し平静を装えないのか。そんなにあからさまに興奮したところを初対面の女子に見せたら、ドン引きされることは間違いない。そんなこともわからないのか。
俺は小さな声で「座れよ」と言って、ベンのズボンを引っ張った。だが、ヤツは早くも汗でビッショリになった手で俺を払い除けると、そのままズボンで手汗を拭いた。
「これが俺の仲間たちだ。お前ら、こちらベロニカさん」
ウルリックは実に自然に紹介した。
「ハイ」と言って軽く手を上げるベロニカに、こちらも「ハイ」と応じる。だが、余裕ぶってみせられたのは、俺だけだった。
ベンは脂汗を浮かべながら、ベロニカをガン見している。視線がおっぱいに釘付けだ。あいさつでもすればいいのに、無言というか、むしろ歯を食いしばっておっぱいをガン見している。その姿は、ただただ痛々しかった。
「こいつはベンだ。ベン、そんなに緊張するな。さあ、座ってくれ」
ウルリックもマズいと思ったのだろう。ベロニカに席を勧めながら、ベンを座らせようとした。彼女はベンの視線に気付いて、ちょっと引き気味だ。立て直さないと。
俺は立ち上がると「クリストファーだ。よろしく」と言って、右手を差し出した。
「あ、ああ…よろしく。ベロニカだよ」
少し引きつった笑いを浮かべながら、彼女は俺の手を握り返した。大きな手だ。剣士らしく、薬指と小指の付け根にマメができている。きっと俺たちより、ずっとたくさんのクエストをこなしてきている。直感的にそう思った。
ベロニカは俺の隣に一瞬、座りかけて、ピタッと止まった。あ、ヤバい。やっぱり気がついたか。俺の背後にいるエドワードを見ている。座るのをやめて、立ち上がった。
「ああ、あ〜。…。それで、君たちはレベルはどれくらいなのかな〜?」
腰が引けてきた。そりゃそうだろう。こんな見るからにキモオタという外見のヤツと一緒に冒険なんて、したくない。ヤツはさっきからテーブルに突っ伏して、スケッチブックに何か一心不乱に書いている。ブフウ〜、ブフウ〜と変なうなり声を発しながら。
さて、なんとかフォローしないと。
「認定レベル12だよ。ベロニカは? まあ、座んなよ」
ウルリックはしゃあしゃあと嘘をついた。非認定レベル4のくせに、3倍も盛って、しかも認定と言っている。一緒に冒険に出れば、すぐ嘘だってバレるのに。
「ああ、そうなんだ…。私、認定レベル20なんだよ…。ちょっとバランスが悪いかな〜…なんて、思ったり、して…」
ベロニカは気まずそうに笑って、少し後ずさりした。
認定20だって? もう3つくらいダンジョンを制覇したくらいの経験値の持ち主じゃないか。俺たちみたいに未達成イベント2つとは、比べ物にならない。
これは、見栄を張っている場合じゃない。恥ずかしいけど、本当のことをぶっちゃけて、仲間になってもらおう。
認定20ならば余裕で即リーダー就任だし、それくらいの経験値のある人に引っ張ってもらえば、すぐに俺たちも認定レベル12くらいになれるはずだ。なおかつ、こんなセクシーでかわいい女子がリーダーなら、嫌でも張り切るってものだ。
そう言わないとと思って立ち上がりかけた時、俺より先にまたガンッ!と椅子を蹴倒して、ベンが立ち上がった。