ベロニカ獲得に失敗した俺たちはまた一文なしになって、その夜は公園で寝た。
まあ、俺たちみたいな貧乏パーティーでは珍しいことじゃない。
翌朝、噴水で体を軽く洗うと、俺とウルリックが斡旋所に行って、荷物運びのアルバイトをゲットしてきた。本来なら冒険者ギルドに行ってクエストをもらってくるべきなのだろうけど、今はレベルが上がらなくても、まずは金が必要だ。何しろ朝飯代すら持っていない。
冒険は普通に働くよりもリスクが高い。前人未到のダンジョンに踏み込んだり、魔族と戦ったり、冒険者としてのスキルも要求される。だからこそレベルが上がったり、冒険者として箔がついたりするわけだ。
ただ、途中で失敗して帰ってきたりすれば、稼ぎがないこともある。だから、確実に金を稼ぐには、アルバイトをした方がいい。とはいえ、冒険者としては不本意な金の稼ぎ方なので、仕事現場にいる冒険者は、普通の労働者から笑いものになっていることがままある。とはいえ、今はそんなこと気にしている場合ではない。
荷物運びと言っても、実際には土木工事の手伝いみたいな仕事だ。ポポナは小さい街ながら観光地で、いつもどこかしらで観光客が気持ちよく過ごせるように修繕とか改修とかの工事をしている。今回は展望台の改修工事現場に材木を運ぶ仕事だった。1日で8000マニーもらえる。それだけあれば安い宿に泊まれるし、普通に3食にありつける。
観光地というのは、ポポナからはパンゲアがよく見えるんだ。パンゲアってのは、あれだよ。あの林の向こうに見える、逆三角形をした不思議な形の山のことだ。
あれ、実は山じゃないんだぜ。空中に島みたいなのが浮かんでいるんだ。イースの城壁の外にあるので、普通の人は危なくて近くまでいけない。だけど、ポポナからは割と下の方まで、よく見える。
スティーブンさんは、冒険で行ったことがあると言っていた。近くまで行って、気球に乗って上陸したらしい。魔王が住んでいるともっぱらの噂で、退治しに行ったんだけど、魔王に会う前に魔族がわんさか出てきたので、命からがら逃げ帰ってきたのだそうだ。
俺もいつか行ってみてえ。そのためには、こんなところでバイトしている場合じゃねえと思いながら一日、汗を流した。
というわけで酒代をゲットした俺たちは、また街で一番大きな酒場へと突撃した。今回も夜を待っていられず、ランチタイムが終わった頃に入った。金欠の俺たちには、ここのランチは高い。入るだけで酒代も必要だしな。近所の店で買ったパンを分けっこして、それで小腹を満たしてから行った。
一度、座ってしまうと声をかける気力が失せてしまうと思ったのか、ベンはテーブルについても座らなかった。「さあ、お手並み拝見と行こうじゃないか」というウルリックの言葉が終わる間もなく、スタスタと酒場の奥の方へと行ってしまった。