魔物が討伐され、その体が塵となって消えた後、アレックスとエミは洞窟内の生存者を捜索し始めた。瓦礫の山、気絶した狂信者たち、そして微かに揺れる魔法の光の中、アレックスは暗がりの隅からかすかなうめき声を聞いた。
彼は急いでその音のする方に向かうと、若い女性が気絶して倒れているのを見つけた。彼女の肌は青白く、呼吸は弱々しい。衣服はぼろぼろだったが、その中に隠された上質な生地は彼女が貴族の出身であることを示していた。
「エミ、ここに人がいる。かなり衰弱してる。」
アレックスは彼女の脈を確かめながらエミを呼んだ。
エミは近づき、その女性を興味深そうに観察した。
「他の奴らとは違うみたいね……大事な人なのかしら?」
エミはあまり関心のなさそうな声で腕を組みながら尋ねた。
「大事かどうかはともかく、今は助ける必要がある。」
アレックスはそう言って、女性を慎重に抱き上げた。
「わかったわ。あなたは彼女を村に連れて行きなさい。私はここで他の人たちを出口まで誘導する。」
エミは眉をひそめながら言った。
「大丈夫か?」
アレックスは彼女が残ると言ったことに驚きつつ尋ねた。
「当然でしょ。でも、あんまり時間かけないでよね。私一人で全部片付けるなんてごめんだから。」
エミは槍を指しながら強調するように言った。
アレックスは頷き、女性を抱えて洞窟を後にした。その体は予想以上に軽く、それが彼をさらに心配させた。歩を進めるたびに、彼は自分の足取りが重くなっていくのを感じた。戦闘やエミを強化するために使った力が徐々に彼を消耗させていた。
近くの村に着くと、アレックスは簡易的な診療所を見つけた。彼は急いでドアを叩き、年老いた医師が出てきた。その医師は女性の状態を見ると眉をひそめた。
「一体何があったんだ?」
医師はアレックスが女性をベッドに寝かせるのを手伝いながら尋ねた。
「近くの洞窟で見つけました。狂信者の集団に拘束されていたようです。」
アレックスは詳しい説明を避けながら答えた。
医師が診察を始める中、アレックスは近くの椅子に腰を下ろし、疲労感に身を委ねた。
「彼女は助かるのか?」
数分間の沈黙の後、アレックスは尋ねた。
「血を多く失っているが、どうやら間に合ったようだ。少し休養と治療を受ければ回復するだろう。」
医師は安心させるように微笑みながら答えた。
アレックスがほっとし始めたその時、診療所のドアが勢いよく開き、埃まみれのエミが満足げな表情で入ってきた。
「ふぅ、やっと終わったわ。他の人たちは無事よ。地元の警備隊が狂信者を引き受けるって。」
エミはアレックスの隣の椅子にどさっと腰を下ろした。
「残ってくれてありがとう。」
アレックスは彼女をちらりと見ながら言った。
「感謝なんていいから。良い判断だったのか、ただ面倒なだけだったのか、まだ悩んでるけどね。」
エミは冗談交じりに答えたが、怒っているようには見えなかった。
二人が休んでいると、医師がやや深刻な表情で戻ってきた。
「言わなければならないことがある。この女性はただの村人じゃない。彼女の顔を見て思い出したんだが、首都から届くニュースに出ていた人物だ。彼女は公爵アラリックの娘、王国で最も影響力のある貴族の一人の娘だ。」
「公爵の娘だって?」
エミは驚いた様子で瞬きをした。
「なるほど、服装がその証拠ね。」
アレックスは気絶したままの女性を見ながらつぶやいた。
医師は頷いた。
「もしこれが本当なら、彼女が目を覚ました時、きっと直接お礼を言いたいと思うだろう。この出来事は宮廷の耳にも届くかもしれない。」
エミは横目でアレックスを見ながら、面白そうな表情を浮かべた。
「ふーん、アレックス。目立たないようにするって計画はまた失敗ね。今度は貴族を救った英雄だってさ。」
アレックスは深くため息をつき、こめかみを揉んだ。
「完璧だ。これ以上望んでない注目がまた増える。」
女性はまだ意識を取り戻していなかったが、その呼吸は少し安定してきた。この出来事がさらに事態を複雑にする可能性をアレックスは感じていた。
「これからどうするの?」
エミが興味を隠しきれない声で尋ねた。
「彼女が目を覚ますのを待つしかないだろう…そして、また厄介ごとに備えるんだ。」
アレックスは諦めたように答えた。
エミは椅子に深く寄りかかりながら、状況を楽しんでいる様子だった。一方、アレックスはこれ以上自分が目立たない方法を考えようとしていた。