公爵アラリックの宮殿にある大広間は、それ自体が芸術品のようだった。高い窓から差し込む陽光が、金色の装飾に反射して輝いていた。アレックスは公爵の前に立ち、その隣には腕を組んで不満げな表情を浮かべたエミがいた。一方、公爵の娘であるアリアは父のそばに立ち、輝く笑顔を見せていた。その笑顔は部屋全体を明るくするかのようだった。
完全に回復したアリアは、彼女の長い紫色の髪を引き立てる優雅なドレスを身にまとい、その目はアレックスを見つめていた。他のすべてを忘れたかのように。
「アレックス、私の娘と婚約することを考えたことはありますか?」
公爵は温かい笑顔で、しかしどこか厳然とした口調で提案した。
「え?」
アレックスは数回瞬きをしながら、その言葉を理解しようとした。
「婚約?でも...まだ知り合って2日しか経っていないですよ。」
頬を赤らめたアリアは一歩前に進み、アレックスの手を握った。
「時間なんて関係ないわ。私の気持ちは確かだし、あなたも同じ気持ちのはずよ。」
その声は甘く、しかし言葉には揺るぎない決意が込められていた。
明らかに困惑しているアレックスは心の中で考えた。
どこからそんな確信が出てくるんだ…? これは早すぎる。
彼が答えようとした瞬間、エミが一歩前に出て断固とした口調で割り込んだ。
「アレックスは誰とも婚約できないわ。彼は英雄で、私たちは常に旅をしている。あなたが一緒に行くなら危険にさらされるだけよ。」
アリアは顎を上げて、挑戦的な視線でエミを見据えた。
「私たちの関係と愛に問題があるのかしら?」
エミは腕を組み、その表情は険しくなった。彼女の周囲に黄金色のオーラが漂い始め、光の魔力が顕在化していることを示していた。
「あると言ったら?」
空気が重くなり、アリアの紫色のオーラが現れ、エミの光と対照的な雰囲気を作り出した。二人はじっと見つめ合い、いつ魔法の戦いが始まるかわからない緊張感が漂った。
公爵は介入するどころか、楽しそうにその光景を眺めていた。そして、アレックスに向き直り、冗談交じりに言った。
「私の娘は自分を守るだけでなく、この国で最も才能のある魔法使いの一人だ。もし彼女と婚約すれば、旅に連れて行っても問題ないだろう。それに…」
公爵はおどけた調子で付け加えた。
「この国の法律では、妻が複数いても問題ない。両方と結婚するのも悪くないだろう。」
「なっ!?」
エミは一歩後ずさり、驚きとともに頬を赤らめた。
「面白い提案だと思わないか?」
公爵はエミの反応を無視して続けた。
エミは俯き、明らかにショックを受けていた。彼女は心の中で考えていた。
私が主人公なのよ。もしそうなら、ハーレムを作るのは私のはず。でも他の男はいらない。私にはアレックスだけでいいのに…
一方、エミの混乱には気づかないアレックスは首を横に振り、手を挙げて言った。
「それは受け入れられません。エミが主人公ですから。僕はただの脇役です。彼女こそが貴族や特別な人々に囲まれるべきですよ。」
エミは驚いてアレックスを見上げたが、感動するどころか、肩を落として哀しげな表情になった。
それが彼の私への見方なの?
一方、アリアはその発言を聞いて勝利を確信したようだった。しかし、アレックスはさらに続けた。
「それに、アリアとも婚約することはできません。それも脇役の台本にはないことですから。」
アリアの表情は凍りつき、彼女の紫色のオーラがわずかに強まった。
「…なに?」
突然、エミとアリアは同時に魔法を発射した。一方は黄金の光、もう一方は紫の閃光がアレックスをかすめて飛んでいった。彼は混乱しながらもその場を動かず、ぼんやりとした表情のままだった。
「今度は何をしたっていうんだ!?」
彼は髪をかきながら叫んだ。その間、二人の少女は怒りながら大広間を出て行った。
公爵はその様子を見て大声で笑った。
「若さとはいいものだな、アレックス。君の悩みが羨ましいよ。若返れるなら…それこそ冒険だ。」
アレックスは信じられないという表情で公爵を見つめ、ため息をつきながらつぶやいた。
「どうしていつもこんな状況に巻き込まれるんだ…?」