EMIはいつも自信に満ちた少女だったが、大学に新入生として転校してから彼女の人生は大きく変わった。入学して間もなく、彼女はすぐに注目の的になった。それは彼女が望んだことではなく、ただ自然にそうなったのだ。彼女の優しさ、美しさ、そして自然なカリスマ性が、周囲の人々を引きつけてしまうのだった。
数か月のうちに、EMIは様々な個性を持つクラスメートたちに囲まれるようになり、それぞれが特別な興味を彼女に抱いていた。
1. タケシ: サッカーチームのスター選手。元気で楽天的な彼は、いつもEMIを試合に誘ったり、一緒に勉強しようと言い出す。
2. リク: メランコリックな芸術家。授業中、密かにEMIの絵を描いている。彼は内気だが、視線は常にEMIを追い、その本質をスケッチブックに捉えようとしていた。
3. ケント: 科学クラブの天才。難解な理論をEMIに語るが、彼女には理解できないこともしばしば。彼は彼女のためだけに小さな発明品を作り、その敬愛の念を表していた。
4. ハルキ: 典型的な「不良少年」。気ままな態度で皮肉ばかり言うが、密かにEMIをトラブルから守っていた。
5. ソウタ: 音楽クラブのアマチュア歌手。彼はEMIにインスパイアされた曲を作りながら、「ただの練習だ」と装っていた。
こうして多くの人に囲まれていながらも、EMIは息苦しさを感じ始めていた。誰も彼女を本当の意味で見ていない。ただ夢の中の理想的な女性としてしか見てくれない。どれほど誠実に接しようとしても、彼らとの間に越えられない壁があるように思えた。
「どうして誰もただの友達になろうとしないの?」
EMIはよくそう呟きながら、大学の廊下を歩いて自分だけの静かな場所を探していた。
ある日の午後、彼女はそのプレッシャーから逃れるため、大学の建物の裏手に向かった。その場所は人通りが少なく、とても静かだった。すると、そこには草むらに座り、壁にもたれかかりながら本を読んでいる一人の青年がいた。
彼は無造作に乱れた髪とシンプルな服を身にまとい、ヘッドホンを着けて周囲の世界から隔絶されているようだった。その穏やかな雰囲気に、EMIは思わず目を引かれた。もしかしたら彼の静けさや、一人でいることを楽しんでいる様子に惹かれたのかもしれない。
興味を抑えきれず、彼女は彼に話しかけた。
「何を読んでいるの?」
彼は反応しなかった。EMIは少し恥ずかしさと困惑を覚えた。無視されたのだろうか?だが、よく見ると彼はヘッドホンを着けていることに気づいた。彼女はそっと彼の肩を叩いて注意を引いた。
彼は顔を上げ、少し驚いた表情を見せながらヘッドホンを外した。
「何か用ですか?」
彼の声は中立的で、敵意は感じられなかった。
EMIは少し緊張しながらも、彼が持っている本を指差した。
「その…ちょっと気になって。何の本ですか?」
彼は本を見てから、彼女に視線を戻した。
「若者がアステカの神から特別な力を授かり、他の神々の力を持つ人々と戦う話です。」
EMIは頷いた。その物語の内容は少し奇妙に思えたが、彼女が本当に興味を持ったのは本そのものではなく、彼だった。
「いつもここで一人でいるの?」
彼女はそう尋ねた。
彼は本を脇に置き、率直に答えた。
「ええ。目立つのが嫌いで、一人でいる方が好きです。」
その言葉はEMIにとって驚きだった。彼女を印象付けようとしない人、自分自身に満足しているような人と初めて出会ったのだ。大学に来てから初めて、誰かと期待やプレッシャーなしで話せる気がした。
「ここにいてもいい?」
彼女は不安そうに尋ねた。
彼は何も言わずに頷き、二人は静かに座った。ほとんど言葉を交わさなかったが、EMIは自分自身でいられる相手を初めて見つけた気がした。
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EMIは少しずつ変わり始めた。それまで彼女の周りを囲んでいた男子たちとの時間を減らし始めたのだ。彼らに理由を聞かれると、彼女は適当に言い訳をした。
「用事があるの。また今度ね。」
しかし本当の理由は、大学の建物の裏の隅っこに行き、いつもそこにいるアレックスに会うのが楽しみだったからだ。最初はほとんど話をしなかったが、EMIは彼の隣に座るだけで安らぎを感じた。しばらくして、アレックスは彼が読んでいた小説を貸してくれ、彼女はその物語に夢中になった。一緒に座りながら、それぞれの本を読むその静けさは、居心地の悪いものではなく、むしろ心地よいものだった。
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ある日、EMIが自分の周りの男子たちのことについて悩みを話していたとき、アレックスは本を閉じて、皮肉っぽい笑みを浮かべながら彼女を見た。
「君ってすごく運がいいよね。学校で一番賢いわけでも、美しいわけでもないのに、こんなに人気者だなんて。人気のある男子たちに囲まれて、みんなが君に夢中。でも、結局ここに来て、普通の俺と一緒にいるんだからさ。」
EMIはムッとし、口を尖らせた。
「そんな簡単なことじゃないの!」
アレックスはくすくす笑いながら言った。
「君は逆ハーレムの主人公みたいだよ。アニメの主人公みたいにね。これから君を『主人公』って呼ぶことにするよ。でも、それだと俺はただの脇役ってことになるな。」
そのニックネームに少し不満そうな顔をしたEMIだったが、内心では嬉しかった。誰かが自分に特別な意味を込めてニックネームをつけてくれたのは初めてだった。それはアレックスが彼女を本当の友達として見ている証拠だと思えた。
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ある日、EMIはアレックスから借りた小説を眺めながら、ずっと気になっていた質問を思い切って聞いてみた。
「アレックス...好きな人いるの?」
アレックスは本から目を離さず、淡々と答えた。
「いるよ。」
EMIは少し緊張しながらも、平静を装って続けた。
「誰?」
アレックスは彼女を見上げ、少し悲しげな表情で言った。
「心配しなくていいよ。君じゃないから。」
その言葉にEMIはほっとした反面、アレックスの声に含まれる哀しみの色を感じ取った。
「彼女のことは話したくない。もうこの世界にはいないから。」
EMIは瞬時に悟った。アレックスは大切な人を失ったのだ。その考えに胸が締め付けられる思いがした。彼を元気づけるため、EMIは突然立ち上がり、彼の手を引いた。
「行くよ!」
「え?何してるの?」とアレックスは困惑した表情で抗議した。
「そんな顔でここにいられるわけないでしょ!」とEMIは彼を引っ張りながら叫んだ。
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ある日、EMIはアレックスを自分の周りにいる男子たちに紹介することにした。最初、男子たちはアレックスに嫉妬の目を向けたが、彼の落ち着いた態度にすぐ安心した。
「安心して。俺はただのエキストラだよ。EMIには全然興味ないから。」
アレックスとEMIの軽口や無邪気なやりとりは、二人がただの友達であることを周りに印象付けた。むしろ、EMIがアレックスをいろいろな場所に連れ回し、彼がそれに毎回疲れた顔をする様子は、みんなにとってすっかりお馴染みになった。
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ある日、EMIがクラスメートたちと授業を受けていると、突然教室の真ん中に光り輝くポータルが現れた。
「な、なにこれ?!」とEMIは叫びながら必死に抗った。
次々と生徒たちがポータルに吸い込まれていく。その時、EMIは廊下にいたアレックスの姿を目にした。
「アレックス!」と彼の名を叫んだ。
状況を目にしたアレックスは大きなため息をつきながらつぶやいた。
「これ、完全にお決まりの展開だな…主人公から学園ラブコメの星から異世界ものに転職か。」
考えていたのは、ようやく静かな生活に戻れると思った瞬間だった。しかし、ポータルから突然手が伸びてきて、彼のシャツを掴んだ。
「一緒に来て!」とEMIが混乱の中でも笑顔を浮かべて言った。「一緒ならもっと楽しいでしょ!」
アレックスは目を閉じて、諦めたようにため息をつきながらポータルに引きずり込まれた。
「これ、馬鹿げてる...」
こうして、二人の本当の冒険が始まったのだった。