場面はキャンプの外れ、木陰で本を読んでいるアレックスから始まる。数日前にアリアから渡された戦闘戦略についての本をめくりながら、彼は静かに時間を過ごしている。その数歩先には、腕を組み決意に満ちた表情を浮かべるEMIの姿があった。
「もうやめてよ、アレックス!」
EMIは本を読む彼を遮るように叫ぶ。
「こんなことしてちゃダメだよ。ちゃんと訓練しないと!」
アレックスは顔を上げ、明らかに苛立った様子で答える。
「訓練って、一体何のために?君たちみたいな力は僕にはないんだ。 ‘主人公の手違い’ でここに引きずり込まれたことを忘れたのか?」
そう言って皮肉を込めて彼女を指差す。
「僕が唯一できたことといえば、サポート用に使ったあの簡単なルーンを理解したことくらいさ。」
EMIは眉をひそめるが、返事をする前にアリアが自信満々の笑みを浮かべて現れる。手には革の袋を持っている。
「今回はEMIに同意するわ。」
アリアは袋を掲げながら、EMIの隣に立つ。
「アレックス、また危険な目に遭ってほしくないの。」
アレックスは呆れた顔で彼女を見つめる。
「またその話?だから言っただろ、僕は普通の人間だって。もしまた魔法使いの盗賊が現れたら、君たちの後ろに隠れる方がずっと安全だよ。」
アリアはきっぱりとした声で答える。
「それはもうさせないわ。」
そう言って、彼女は袋を開き、中から輝く精巧なルーンを取り出す。
「だから、私が直接あなたを訓練するの。」
EMIは目を見開いてルーンを見つめる。
「これ、すごく珍しいやつじゃない!どうやって手に入れたの?」
アリアはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「公爵家の娘でいると、いろいろ特典があるのよ。このルーンは家宝として特別な時のために保管していたもの。でも...」
彼女はアレックスを見つめ、小悪魔的な笑みを浮かべる。
「未来の夫のためなら、なんだってするわ。」
アレックスはため息をつきながら答える。彼女のこうした発言には慣れているようだ。
「そんなもの、自分に使えばいいだろ。僕みたいな奴に無駄遣いするなんて。」
「無駄遣いなんかじゃないわ。」
アリアは微笑みながら、空中に投げキスを送る。
EMIは苛立ったように腕を組む。
「もし失くしたり、何か問題が起きたらどうするの?」
アリアはEMIを無視し、アレックスに向き直る。
「まずは基本的なことから始めましょう。このルーンは防御、サポート、そして少しだけ攻撃に使える技術を秘めているわ。伝説の英雄になる必要はないけど、少なくとも自分を守れるようにはなってほしいの。」
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アリアは地面にルーンを置き、青白い光を放ちながらそれを起動させる。そして、それが一時的な魔法の盾を作り出す防御技術であることを説明する。
「ここに手を置いて、集中してみて。」
彼女は指示を出す。
アレックスはしぶしぶ従うものの、気乗りしない様子だ。数分が経っても何も起こらず、EMIは苛立ちのため息をつく。
「もう、アレックス!こんな簡単なルーンも使えないの?」
「もう少し黙ってくれたら...」
アレックスは目を閉じ、さらに集中しようとする。
ついに、ルーンから微かな光が現れる。しかし、その盾は彼の手を覆うだけの弱々しいものだった。アレックスはそれを見て、驚きと諦めが混ざった表情を浮かべる。
「まあ、少なくとも顔で爆発しなくてよかった。」
アリアは微笑む。
「これが始まりよ。明日はもっと高度なものに挑戦しましょう。」
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その日の訓練が終わり、二人が休んでいる時、EMIがアレックスの隣に腰を下ろす。彼は空を見上げていた。
「なんでもっと頑張らないの?」
EMIが静かに尋ねる。
アレックスは肩をすくめる。
「僕は君たちみたいじゃない。隠された力も、壮大な運命もない。唯一の取り柄は、逃げるべきタイミングを知っていることくらいさ。」
「そんなことない。」
EMIは真剣な目で彼を見つめる。
「あなたは思っているよりもずっと勇敢よ。何度も私たちのために命を賭けてくれたじゃない。魔法なんかなくても、あなたは十分に大切な存在よ。」
アレックスはしばらく黙り込んでいたが、やがて微かな笑みを浮かべる。
「じゃあ、僕は運のいい脇役ってことだね。いいチームに恵まれた。」
EMIも笑みを浮かべるが、どこか切なげだ。
「私にとっては、あなたは脇役なんかじゃないわ、アレックス。」
その
様子を、アリアは遠くから見つめていた。興味と嫉妬が入り混じった表情を浮かべながら。アレックスとEMIは星空の下で会話を続けていた――次の冒険の準備が始まるのを待ちながら。