朝日が昇り始めるころ、アレックスは少しボロボロになったマントを直しながら訓練場に到着した。欠伸をしつつ辺りを見回すと、すでにEMIが意気揚々と準備をしていた。しかし、彼の目を引いたのは中央に立つアリアだった。彼女の手にはかすかに赤い輝きを放つ新しいルーンが握られていた。
「おはよう、アレックス。」アリアは輝くような笑顔で言った。「今日はもっとワクワクすることをやってみましょう。」
アレックスは眉をひそめ、疑いの目を向けた。
「“ワクワク”って、今回は爆発するかもしれないってこと?」
アリアは目を輝かせて笑った。
「もしかしたらね。でも試してみる価値はあるわ。このルーンには攻撃技が秘められているけど、正確な効果は未知数よ。」
アレックスは溜息をつき、いつものように二人のしつこさに屈した。
「すごいな。もし僕が生きてるクレーターになったら、EMIが罪悪感にさいなまれることを願うよ。」
「ちょっと!」とEMIが抗議の声を上げ、腕を組んだ。「これはあなたのためなんだから、忘れないでよね!」
アリアはルーンをアレックスに差し出し、その指が彼の手に触れた。
「目を閉じて、ルーンのエネルギーに集中してみて。」彼女は優しい声で言い、視線を彼に注いだ。
アレックスは少し落ち着かない様子で従った。手のひらに感じるルーンの温かさが広がり、今回は単なるエネルギーではなく、すぐ近くで寄り添うアリアの存在も感じ取れた。
突然、ルーンから赤い光が放たれ、彼の手の上にエネルギーの球体が現れた。アレックスは驚いて目を開け、それを見つめた。
「…成功した?」彼は半信半疑でつぶやいた。
アリアは喜びのあまり小さく跳び上がり、思わずアレックスに抱きついた。
「やったわ!やればできると思ってた!」
アレックスは予想外の接触に戸惑いながら瞬きを繰り返した。
「えっと…ありがとう…なのかな。」
アリアは一瞬だけ彼の胸に額を預け、その後ゆっくりと離れた。頬がうっすら赤く染まっているが、満面の笑みを浮かべていた。
「ごめんなさい、ちょっと興奮しちゃって…」彼女は照れたように笑いながらも、その目には喜びが輝いていた。
少し離れたところで、EMIはその光景を見ていた。彼女の胸の奥に奇妙な感覚が湧き上がり、それがアリアへの嫉妬なのか、アレックスへの何かなのかは分からなかった。
「おめでとう、アレックス!」EMIは無理に明るく振る舞いながら近づいてきた。「これでサポートと攻撃、2つの技が使えるようになったね。」
「つまり、これからもっと厳しい訓練をさせられるってことだろ?」アレックスはいつもの冷めた態度を取り戻しつつ言った。
「その通り!」EMIは彼の背中を軽く叩きながら言った。「次は体力を強化するトレーニングだよ!」
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訓練の終わりに
その日の厳しい訓練が終わったころ、アリアが再びアレックスに近づいてきた。今度は透き通った青い光を放つルーンを手にしていた。
「これは少し違うわ。」彼女は穏やかな声で説明した。「攻撃や防御の技じゃないけど、マナの容量を増やすのに役立つの。このルーンは小さいけど、魔法をもっと使いやすくしてくれるわ。」
アレックスはルーンを受け取り、それをじっと見つめた。
「で、今度は何をすればいい?」
「ただルーンを持っていればいいの。」アリアは彼の後ろに回り込み、そっと彼の手を包むように触れた。「こうすれば、やり方を間違えないで済むわ。」
「そんなに近くにいる必要ある?」アレックスは少し戸惑ったように尋ねた。
アリアは彼の肩越しに顎を乗せ、囁くように答えた。
「ええ、だって万が一の時にあなたが危険な目に遭うのは嫌だから。」
アレックスは溜息をつきながらも動かなかった。ルーンのエネルギーが体に流れ込む感覚と同時に、彼女の温もりが伝わってきた。プロセスが終わると、アリアはすぐには離れず、少しだけその瞬間を長引かせた。
「よく頑張ったわ。」彼女は優しい声で言った。
アレックスは少しだけ振り返り、彼女と目を合わせた。2人の顔はほんの数センチしか離れていなかった。
「…ありがとう。でもこれは、やっぱりちょっとやりすぎだ。」
アリアは微笑み、一歩下がった。その目にはどこか含みのある輝きがあった。
「大事な人のためなら、やりすぎなんてないわ。」
遠くで見ていたEMIは拳をぎゅっと握りしめた。なぜか分からないが、2人が近づいているのを見ていると胸の奥がざわつき、不安な気持ちが募った。それを振り払うように早足で近づいてきた。
「すごいじゃない!」EMIは元気よく言いながら近づいてきた。「これで3つの技が使えるようになったね!さあ、次の訓練に進もう!」
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その夜、アレックスは自分の手の中のルーンを見つめ、内心で何かが変わり始め
ているのを感じていた。一方、アリアとEMIはそれぞれ複雑な表情を浮かべながら互いを見つめ合い、アレックスの存在がもたらす新たな感情に気づき始めていた。