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第30章: 過去の残響

一行は夜明けと共に旅立った。行き先は、鬱蒼とした森の端に位置する小さな農村、ヴェルグリス。公爵の報告によれば、この村は一夜にして完全に放棄され、戦闘の痕跡すら残っていなかった。それでも隣接する村々には恐怖の影が漂っていた。


アレックスはEMIとアリアの少し後ろを歩きながら、緊張と好奇心の入り混じった目で周囲の風景を眺めていた。


「何か役立つものが見つかると思うか?」アレックスが沈黙を破って尋ねた。


「注意深く調べれば、きっと何か手がかりはあるはずよ。」EMIは真剣な表情で、公爵から渡された報告書の内容を思い返しながら答えた。「ただ、一番心配なのは、どんな魔法が関わっているのか分からないってこと。」


「どんなものであれ、油断はできないわ。」アリアが慎重に答えた。彼女の手は装飾的な剣の柄に軽く触れたまま、まるで警戒を怠らないと言わんばかりだ。


ヴェルグリスに到着すると、その光景は言葉を失わせるものだった。村は完全に無人で、家々の扉は開け放たれ、床には住人たちの持ち物が散乱していた。まるで、何か恐ろしいものから逃げるために急いで家を飛び出したようだった。


アレックスは背筋に冷たい震えを感じた。この静寂は耳をつんざくほど不気味で、乾いた葉を踏む自分たちの足音だけが響いていた。


「...不気味だな。」アレックスは周囲を見回しながら呟いた。


アリアは頷きながら答えた。「まるで何かが村人たちをここから消し去ったみたいね。」


EMIは地面を詳しく調べ始め、やがて村の中心にある焼け焦げた円の前で足を止めた。

「これ、ただの痕跡じゃない。召喚儀式の一部だと思うけど、未完成のように見える。」


アレックスは彼女のそばに屈み込み、円を詳しく観察した。地面に焼き付けられたマークの中には、彼が基本的な魔法学で学んだものとは全く異なる、見慣れないルーンが含まれていた。


「これはあの闇の魔導士の仕業なのか?」アレックスが尋ねると、EMIは眉間に皺を寄せたまま答えた。

「その可能性が高いわ。でも心配なのは、これが最近のものではないということ。少なくとも数週間前の痕跡みたい。」


一行はさらに手がかりを探し、村で最も大きな建物である村長の家へと向かった。そこもまた荒らされた跡が残るだけで人の気配はなかった。家の中では、散乱した書類や、近隣の村に印が付けられた地図、そして村長の日記を見つけた。


アリアが日記を手に取り、声に出して読み始めた。

「何か黒い影が迫っている。村人たちは同じ夢を見るようになった。フードを被った姿の人物が彼らを森へと呼び寄せている夢だ。最初は気にしなかったが、昨晩、3家族全員が消えてしまった。このままでは、ヴェルグリスを守る者が誰もいなくなってしまうだろう。」


--



EMIは腕を組み、考え込んでいた。

「この魔導士は一人で行動しているわけじゃなさそうね。何らかの精神魔法や強制力を使って、人々を操っている。」


アレックスは、家族たちが抵抗もできずに自ら消滅への道を歩む様子を想像し、胃がきしむような感覚を覚えた。


日が傾き始める中、一行は村人たちが向かったと思われる近くの森を調査することにした。木々の間を進むと影が長く伸び、空気は次第に冷たさを増していった。


突然、アリアが立ち止まった。

「何か聞こえた。」


全員が動きを止め、静寂の中で耳を澄ませると、低い囁き声が聞こえてきた。それは、まるで何千もの声が一斉に話しているかのようだった。


「これは気味が悪いな…」とアレックスが呟いた。


慎重に進むと、一行は森の中の開けた場所に辿り着いた。そこには木々に刻まれた奇妙な印と、村の円と似た暗いルーンが刻まれた石の祭壇があった。


EMIは慎重に祭壇に近づき、ルーンを調べ始めた。

「これ、魔法の固定点ね。この地域で魔法を安定させるために使っているみたい。」


その時、囁き声が突然大きくなり、木々の間から影が動き始めた。アレックス、EMI、アリアは即座に構え、やがて純粋な闇で構成された人型の存在が姿を現した。


アレックスは唾を飲み込み、今まで学んだ技術を思い出した。

「うまくいけばいいが…」


彼は攻撃用のルーンを使い、影の存在に向けて爆発を放った。爆発の光が一瞬だけ森を照らしたが、影たちは何事もなかったかのように再び形を成した。


「普通の攻撃は効かないみたいね。」アリアが剣を抜き、その刃を銀色の光で輝かせながら言った。「光か火の魔法を使いなさい。」


EMIは頷き、火の魔法を連続で放ち、いくつかの影を消し去ったが、それでも影たちは次々に近づいてきた。


アレックスも負けじと別の技を試みたが、彼の攻撃は十分な威力がなかった。影が彼らを包囲しそうになったその時、EMIが大規模な魔法を発動し、光のバリアを展開して影を一時的に食い止めた。


「祭壇を破壊しなきゃ!」EMIが叫び、中心の祭壇を指差した。


アリアは頷き、自分の影のクリーチャーを召喚して祭壇に向かわせ、自らは魔法で援護した。アレックスは後方に残り、影たちがアリアに近づくのを防ぐため、持てる力を振り絞って戦った。


ついに影のクリーチャーたちが祭壇に到達し、正確な一撃でそれを破壊した。影たちは耳をつんざくような叫び声を上げた後、完全に消滅した。


疲労しつつも無事だった一行は、森の開けた場所で再び集まった。


「これはただの警告ね。」EMIは額の汗を拭いながら言った。「こんなものを作り出せるなんて、あの魔導士はとんでもない力を持ってる。」


アレックスは祭壇の跡を見つめながら、これが始まりに過ぎないことを感じ取った。


アリアが彼の肩に手を置いた。

「今日はよくやったわ、アレックス。あなたがいなかったら、ここまで来られなかった。」


EMIも頷いたが、その表情には不安が漂っていた。

「そうね。でももっと準備が必要よ。これから先、もっと厳しい戦いが待っている。」


村へと戻る道中、アレックスは心の中で、闇の魔導士との真の対決が避けられないことを悟っていた。


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