朝日が公爵アラリックの邸宅の大きな窓から差し込み、壮麗な会議室を暖かい金色の光で満たしていた。アレックス、EMI、そしてアリアは、公爵の正面に座り、報告の準備をしていた。部屋の空気には緊張感が漂い、遠くから聞こえる召使たちの足音だけが静寂を破っていた。
「それで、村で何を見つけたのだ?」と、公爵が尋ねた。彼の鋭い視線は、調査の先頭に立つEMIに向けられていた。
EMIは一息つき、慎重に言葉を選びながら答えた。
「公爵様、状況は私たちが想定していたよりも深刻です。最初の村では闇魔法の痕跡を確認しましたが、2つ目の村で闇の魔術師の信奉者と思われる人物と直接遭遇しました。」
公爵アラリックは指を組み、冷静ながらも興味を隠せない表情で耳を傾けていた。
「信奉者だと? 詳しく話せ。」
「その男は、忍者のような超人的な動きを見せました。しかし、狂気をまとった異様なオーラが漂っていました。」EMIの声には慎重な響きが込められている。「その見た目の派手さからは想像できないほど致命的で、現れた瞬間にはすでに包囲されていました。」
アレックスは黙ったまま状況を見守っていたが、アリアが付け加えた。
「脅し文句を吐きましたが、私たちの能力を測ることに興味を持っているようでした。彼にとってはゲームのようなものでしたが、本気を出せば私たちを簡単に消せたはずです。」
公爵は眉をひそめ、身を乗り出してさらに問いかけた。
「それで、無事に生き延びたのか?」
アレックスが口を開いた。その声は冷静だったが、決意がにじみ出ていた。
「アリアから教わった戦術とEMIの魔法のおかげで防御を維持できました。しかし、あの男を止めるには力不足でした。彼は逃げ去り、さらなる情報を得ることはできませんでした。」
「他に何か分かったことはあるか?」と、公爵の鋭い目が再びEMIに向けられる。
EMIは一瞬間を置き、アリアと視線を交わした後、続けた。
「村には住民の姿が全くありませんでした。戦闘の痕跡と、闇の生物が関与したことを示す跡が残っているだけでした。」
アリアも低い声で話し始めた。その目には不安が宿っていた。
「これらの生物は、ただの駒として利用されているようです。闇の魔術師は、より大規模な計画を進行させていると思われます。これは偶発的な攻撃ではありません。」
公爵はゆっくりとうなずき、テーブルの上で指をトントンと叩いた。
「もし君たちの言うことが真実なら、闇の魔術師はすでに信奉者たちを動員していることになる。これは想像以上に厄介だ。」
部屋の空気がさらに重くなる中、公爵は立ち上がり、厳しい声で命じた。
「すぐに行動を起こさなければならない。追加の資源と追跡部隊を用意し、調査を進めるが、敵と直接対峙することは絶対に避けろ。いいな?」
「了解しました、公爵様。」3人は声を揃えて答えた。
会議室を後にすると、アレックスの腕にアリアがそっと手を置いた。彼が振り返ると、彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。
「よくやったわ、アレックス。あの状況で冷静を保てたのは誰にでもできることじゃない。」
「ありがとう。でも、まだ足りない。」アレックスは目を伏せて答えた。
EMIが隣に近寄り、軽く肩を叩いた。その声は明るさを装っていたが、わずかな不安が隠せなかった。
「だから私たちはここにいるのよ。次はもっと準備しておくから。」
3人が邸宅を後にする中、不安の影が彼らを包み込んでいた。命からがら生還はしたものの、最悪の事態が迫っていることを否応なく感じていたのだ。闇の魔術師が次の一手を動かし始めている今、彼らに求められているのは、速やかにその計画を見破ることだった。
アレックスは、特徴的な顔を隠す衣装を身にまとい、少し後方に控えていた。彼は静かに観察しながらも、心臓が高鳴るのを感じていた。ルーンを使えるとはいえ、仲間たちの能力には到底及ばないと自覚していたからだ。
「アレックス!」
EMIが振り返りながら声をかける。「必要ならサポートの術式を使って。チームの一員なんだからね。」
彼は軽くうなずきながら、サポート用のルーンを準備した。
数時間の探索の末、一行は古代の祭壇を発見した。それは暗黒のシンボルと刻印で覆われ、不気味な雰囲気を放っていた。アリアは目を輝かせながら解析を始め、EMIは警戒しつつ周囲を見張っていた。
「嫌な感じがするわ...」
EMIが背筋に走る悪寒を感じながら言った。
突然、耳をつんざくような咆哮が静寂を引き裂いた。影から現れたのは、さまざまな生物の部分が組み合わさった怪物、キマイラだった。狼、蛇、ドラゴンの3つの頭がそれぞれ火と毒を吐き、呪われたように赤く光る目が彼らを睨みつけていた。
「準備して!」
EMIが光の杖を掲げて叫ぶ。
アリアは影の使い魔を3体召喚してキマイラを囲ませたが、その巨大さと凶暴さは圧倒的で、すぐに押し切られてしまった。
「アレックス、もっと召喚するための助力をお願い!」
アリアが切迫した声で頼んだ。
アレックスはサポートの術式を発動し、エネルギーの波動を送り込むことでアリアの魔力を強化した。「全力を尽くせ!」彼は汗を拭いながら叫ぶ。
魔力を増幅されたアリアは新たに6体の使い魔を召喚し、キマイラを取り囲むことで動きを鈍らせた。その間にEMIが行動を起こす。
「次は私の番よ!」
EMIが光の魔法を集中させた。手の中で輝く光球は次第に強さを増し、キマイラの目を一時的に眩ませるほどの光を放った。
「それじゃ足りない!」
後方からアレックスが警告する。
だがEMIは諦めなかった。さらなる力を引き出し、連続で光の雷を放つ。キマイラは徐々に弱っていき、最後には決意の叫びとともにエネルギーの爆発を放ち、その身を灰に帰した。
EMIは膝をつき、息を切らしていたが、勝利の微笑みを浮かべた。アリアがすぐさま駆け寄り、影の使い魔たちが消えていくのを見届ける。
「よくやったわ、EMI。」
アリアは敬意と安堵を込めて言った。
アレックスはゆっくりと近づき、EMIに水のボトルを差し出した。「重い仕事は全部君たちがやった。俺はただ後ろにいただけだ。」
EMIは疲れた笑みを浮かべながら彼を見上げた。「何言ってるの、アレックス。あなたがいなかったら、アリアの召喚が続かなかったかもしれないわ。全員が重要な役割を果たしたの。」
「でも、主人公は君だよ...」
アレックスは視線を逸らしながら小声で言った。
アリアはその言葉に込められた緊張感を感じ取ったが、何も言わなかった。アレックスには何か隠されたものがある。それは彼自身もまだ気づいていないが、いずれ明らかになるだろうと。
物語は、破壊された祭壇を前に立ち尽くす三人の姿で締めくくられる。これは始まりに過ぎない。さらなる大きな戦いが待ち受けているのだと、全員が実感していた。