アズラースは頭を上げ、咆哮した。その圧倒的な声が空気を震わせ、洞窟全体が揺れた。足元の地面がひび割れ、彼の蒼黒いオーラが一気に膨れ上がる。
アレックスの背筋に冷たい戦慄が走った。アズラースの魔力が、先ほどとはまるで別物に感じられる。さっきまでのものが微風だったとしたら、今は制御不能な嵐だ。
「セレナ!」アレックスは驚愕の表情で振り向く。「お前、一体何を考えてたんだよ?!」
セレナは腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。
「調査しろって言ったのは誰? 地下の祭壇、ただの飾りじゃないみたいね。アズラースと何かしら繋がってると思ったから、どこまで押せるか試したかったのよ。」
アレックスは拳を握りしめた。
「おかげで、奴は全力を解放しちまったぞ! 最高のアイデアだな、天才!」
「はぁ、アレックス。」セレナは舌打ちしながら肩をすくめた。「どうせ戦うなら、相手の本当の実力を知っておくほうがいいでしょ?」
アレックスが反論しようとした瞬間、圧倒的な威圧感が彼らを襲った。
「もう話は終わったか?」
アズラースの低い声が響く。彼の蒼い瞳が闇の中で二つの星のように輝いていた。
「次は俺の番だ。」
アズラースの巨体が一瞬で間合いを詰めた。漆黒の魔力をまとった前脚が、雪崩のような勢いでアレックスに襲いかかる。
「アレックス、避けて!」
アリアの叫びが響くが、アレックスは反応が間に合わない。ただ、本能的に両腕を上げることしかできなかった。
そのとき——
「私を忘れないでよ!」
金色の閃光が横を駆け抜けた。
EMIが、拳に光の魔力をまとわせ、アズラースの攻撃を迎え撃つ。
轟音と共に、二つの力が激突した。衝撃波が洞窟を揺らし、光と闇の魔力がぶつかり合って火花を散らす。
しかし、アズラースは薄く笑った。
「面白い……が、足りないな。」
突如、彼のもう一方の前脚が異常な速さで動く。
「——しまった!」
EMIが気づいた時にはもう遅かった。鋭い爪が彼女の腹部を切り裂くように叩きつけ、彼女の体は壁へと吹き飛ばされた。
「EMI!」
アリアが悲鳴を上げる。
アレックスの心臓が早鐘を打つ。EMIが攻撃を受けることは珍しくないが、これほどの威力で吹き飛ばされるのは初めてだった。
だが、考える暇もない。次の瞬間、アズラースの影が彼の頭上に迫っていた。
「次はお前だ、人間。」
猛烈な衝撃が腹部に炸裂した。
「ぐっ…!」
アレックスの視界が揺らぎ、彼の体は地面を何度も転がった。息を整える間もなく、激痛が全身を襲う。
「くそっ……これが……本気の一撃か……」
セレナは歯を食いしばった。
「状況が……悪くなってきたわね。」
「今さら?」アリアは影の魔法を展開しながら答える。「このままじゃ、本当に潰されるわよ。」
アレックスは必死に呼吸を整えながら、頭を回転させる。
「力比べじゃ勝ち目がない……あいつの力を完全に引き出してしまった以上、別の方法で戦うしかない。」
セレナが彼を横目で見る。
「策はあるの? "天才戦略家"さん?」
アレックスは一瞬目を閉じ、すぐに小さく頷いた。
「……ある。でも、全員の完璧な連携が必要だ。それと……」
彼は再び立ち上がったEMIを見た。彼女は口元の血を拭い、不敵な笑みを浮かべていた。
「……全力を出し切る覚悟もな。」
アズラースはその様子を観察しながら、興味深そう
に目を細める。
「ほう……またやる気か?」
漆黒の魔力がさらに濃くなる。彼の爪が闇に包まれ、圧倒的な殺気が辺りに満ちる。
「なら、見せてみろ。俺を倒せる力があるのか……!」