戦場の空気は緊迫し、アズラスの闇のエネルギーが広がっていた。アリアの影の巨像が威風堂々と立ちはだかり、EMIの光の波動が激しく煌めき、セレナの崩壊魔法が空間を危険なまでに震わせていた。
しかし、彼らの強化された力の前に立つのは、漆黒の獅子アズラス。その堂々たる鬣(たてがみ)は青白い炎と揺らめく影に包まれ、黄金の瞳が鋭く輝いていた。まるで獲物を狩る直前の捕食者のように、彼は静かに身を低く構えた。
—「理解していないな……」
その声は、まるで精神に直接響くような重みを持っていた。
—「貴様たちに勝利はない。」
次の瞬間、アズラスの姿が消えた。閃光のような速度で移動し、一瞬のうちにEMIの目の前へと現れる。その巨大な爪が漆黒のオーラを纏い、容赦なく振り下ろされた。
EMIは瞬時に拳に光を宿し、迎撃する。激しい閃光と衝撃が爆発し、彼女はなんとか攻撃を防いだ。しかし、その勢いに押され、数メートル後方へと吹き飛ばされてしまう。地面には深い爪痕が刻まれた。
—「EMI!」
アレックスが歯を食いしばりながら叫ぶ。
だが、アズラスの猛攻は止まらない。流れるような動きでアリアの影の巨像へと向かい、強烈な一撃を繰り出した。巨像は両手でその爪を受け止めようとするが——
—「ぐっ…!」
獅子の圧倒的な力がそれを凌駕した。轟音とともに影の巨像が貫かれ、黒い霧のように一部が弾け飛ぶ。
—「まだ終わらせない!」
アリアが叫び、両手を前に突き出しながら巨像を再構築しようとする。だが、その瞬間、アズラスの爪が彼女に迫っていた。
その時——
セレナが瞬時に割って入り、崩壊魔法を纏った手でアズラスの爪を迎え撃つ。
黒き獅子の爪と崩壊の魔力が激突した瞬間、空間が歪むほどの衝撃が走る。
アズラスは素早く後方へ跳び退いた。その金色の瞳が、初めて興味深げに細められる。
—「ほう……ようやく本気か。」
アレックスは息を切らしながら、仲間たちの様子を見ていた。確かに彼らは強化されていた。しかし、それでもアズラスの圧倒的な力にはまだ及ばない。
(何か……何か突破口が必要だ……)
彼はセレナへと近寄る。
—「あいつは速すぎるし、力も圧倒的だ。でも……さっき、お前の崩壊魔法を前にした時、一瞬だけ動きを止めた。」
セレナが目を細める。
—「……確かに、避けたわね。」
—「奴は耐えられるはずなのに、本能的に距離を取った……それを利用する。」
アレックスはEMIとアリアを振り返った。
—「俺が囮になる。お前たちは、隙をついて一斉攻撃を仕掛けろ。」
セレナが呆れたようにため息をつく。
—「また囮役? 無茶ね。」
アレックスは苦笑する。
—「今さらだろ?」
EMIは笑みを浮かべながら頷いた。
—「いいわ、アレックス。信じてる。」
アリアも拳を握りしめる。
—「絶対に仕留める。」
セレナは彼を見つめ、一瞬だけためらうが、やがて小さく笑った。
—「……死ぬんじゃないわよ。」
アレックスは小さく頷き、構えを取る。
戦いは、まだ終わっていない。
そして今回は、彼らが仕掛ける番だった。
—「行くぞ!」彼の叫びと共に、彼らは再び漆黒の獅子へと突撃し——。