アズラスは嵐のように突き進み、その一撃ごとに地面を砕き、空気を震わせるほどの圧倒的な力を見せつけていた。アリア、EMI、セレナは全力で戦っていたが、黒獅子には疲れの兆しすらなかった。
「無駄よ!」セレナは辛うじて突進をかわしながら叫んだ。「どれだけ攻撃しても、こいつの耐久力は異常すぎる!」
「それだけじゃない…」EMIは眉をひそめた。「まるで…楽しんでいるみたい…」
アズラスが咆哮し、アリアに襲いかかった。疲れ果てた彼女は、迫りくる一撃をただ目を見開いて見つめることしかできなかった。
しかし、その瞬間、アレックスがそこにいた。
何も考えず、彼はアリアと黒獅子の間に立ちはだかった。計画もなく、こんな化け物に立ち向かう力もない。
だが彼には…ルーンがあった。
かつてアリアが彼に託した、魔法と戦闘のためのルーン。
迷わず、彼はそれを発動させた。
彼の腕から光が広がり、全身に魔力の紋様が浮かび上がった。その力は、彼女たちのようなものではない。微々たるものにすぎなかった。
それでもアレックスは動かなかった。
退かなかった。
恐れもしなかった。
アズラスは一瞬彼を見つめ…そして、爆笑した。
「ははは!まさか!そんな役立たずのルーンで、俺を止められるとでも?」
黒獅子は闇のエネルギーを前脚に凝縮させ、全力でアレックスに振り下ろした。
衝撃で粉塵が舞い上がり、岩の破片が周囲に飛び散った。
「アレックス!」アリアが手を伸ばし、叫んだ。
だが、粉塵が晴れた時――アレックスはそこに立っていた。
両足は震え、腕はルーンの余波で焼けるように痛んでいた。それでも、一歩も動かなかった。
アズラスは目を細めた。
「…なんだと?」
アレックスは荒い息をつきながら、まっすぐに黒獅子を見た。
「俺の力は足りないかもしれない…でも、お前が仲間を傷つけるのを黙って見ているわけにはいかない」
アズラスは舌打ちし、初めて真剣な表情になった。
「…どうやら、お前はとんだ馬鹿らしいな」
暗黒のオーラが彼を包み込んだ。
アズラスはじっとアレックスを見つめたまま、動かなかった。
荒々しく、傲慢に戦っていたはずの黒獅子が、一歩後ずさった。
空気の緊張がわずかに和らいだ。アリア、セレナ、EMIはすぐにそれを察知した。
「アズラス…?」セレナが信じられないというように呟いた。
黒獅子は不機嫌そうに低く唸り、その漆黒のたてがみを揺らした。
「…これ以上戦う理由はない」
闇の魔導士は眉をひそめ、苛立った表情を浮かべた。
「どういうことだ、アズラス? まさか、ただの人間がちょっと勇気を見せただけで降参するつもりか?」
アズラスは答えなかった。ただ、静かに座り込み、深い思案に満ちた目でアレックスを見つめ続けた。
魔導士は再び何か言おうとしたが、突然、地面の下から鈍い振動音が響いた。
「ヴゥゥゥゥゥン…!」
足元の大地がわずかに揺れた。
魔導士の表情が一変した。驚き、そして――笑みを浮かべた。
「…フフ」
次の瞬間、彼は高笑いを始めた。
「ハハハハハハハ!」
三人の英雄は即座に警戒を強めた。
「今度は何がおかしいのよ?」EMIが拳を握りしめ、低い声で言った。
魔導士は両腕を誇らしげに広げた。
「フフ…ついに…真の目的が果たされたのだ!」
アレックスは眉をひそめた。
「…何を言っている?」
魔導士は指を鳴らした。すると、地面が血のような赤い光に包まれた。
「お前たち、本当にこの戦いに意味があると思っていたのか? 我々がここで勝利することが目的だと?」
祭壇の光が激しく点滅し、地面に刻まれた魔法陣が回転し始めた。
アリアが目を細めた。
「…嫌な予感がする」
「当然だ」魔導士は芝居がかった仕草で手を広げた。「なぜなら、今この瞬間、お前たちが目にしているのは――反物質爆弾の起動だ」
静寂が落ちた。
「…なに?」セレナが震える声で呟いた。
「そうだ」魔導士は、彼らの恐怖を楽しむようににやりと笑った。「これは…この世界を理解の及ばぬ技術。存在そのものを消滅させる、究極の兵器」
アレックスの背筋に冷たいものが走った。
「お前たち…世界を滅ぼすつもりだったのか?」
「いやいやいや」魔導士は指を振りながら、さらに邪悪な笑みを浮かべた。「これは、ただの始まりに過ぎない」
祭壇の振動が激しさを増し、暗黒の渦が空中に形成され始めた。
「この爆弾は、単にこの世界を消すため
のものではない! 次元の門を開く鍵なのだ!」
セレナ、EMI、アリアの血の気が引いた。
「…他の世界?」EMIが息を呑んだ。
魔導士の笑みが狂気を帯びる。
「そうだ。そして…我らが真の支配者が、今まさに到来しようとしている!」
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