目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第5X-4章: 忘れ去られた者



女の言葉の後、場に沈黙が広がった。


アレックスの背筋に冷たい震えが走る。


—「そうでなければ… 私が自ら殺していたわよ。」


その言葉が、彼の頭の中で何度も響いた。


しかし、考える暇はなかった。


EMI、アリア、セレナが即座に反応した。


ドォン!!


三つの攻撃が同時に女へと襲いかかる。


—「アレックスから離れろ!」 EMIが叫び、光を纏った拳を振るう。


—「貴様、アレックスに触るな!」 アリアが影の刃を放つ。


—「消えろ!」 セレナが破壊の雷を放つ。


だが、女は動かなかった。


そして信じがたいことに、彼女に触れる前に攻撃はすべて消え去った。


まるで、この世界そのものが彼女を害することを拒んでいるかのように。


女は小さく息をつき、アレックスの顎から手を離す。


アレックスは無意識に後ずさった。


—「あらあら… 随分と攻撃的ね。」 女はくすっと笑う—「今は護衛までつけているのね、アレックス?」


彼は歯を食いしばる。


—「お前は誰だ?」


女は首を傾げた。


—「私のこと、覚えていないの?」


アレックスは眉をひそめた。


いいや、全く心当たりがない。


しかし——


彼の心臓は激しく鼓動していた。


恐怖ではない。


もっと違う、何かが…


理解できない感情が、胸の奥でざわめいていた。


女は彼の表情をじっと見つめ、そして小さく笑った。


—「面白い。」


沈黙していたザレクが、くくっと笑いを漏らす。


—「はは… やっぱり、時間ってのは残酷だな、アレックス。」


—「何を言っているの?」 アリアが低く唸り、再び魔法を構える。


しかし、女は片手を上げた。


—「まあまあ、落ち着いて?」 微笑む—「今日は殺すつもりはないの。」


そして、ガロッシュとザレクを振り返る。


—「目的は果たしたわ。行くわよ。」


ガロッシュは不満げに唸ったが、反論しなかった。


ザレクはただ薄ら笑いを浮かべるのみ。


だが——


アズラスだけは動こうとしなかった。


女は彼に視線を向けると、興味深そうに微笑む。


—「あら… まだアレックスのそばにいたいの?」


アズラスは静かに唸りながら、強い意志を示した。


女はまた笑う。


—「いいわ。その忠誠心、報いてあげる。」


彼女が指を鳴らした。


パチン——


その瞬間、アズラスの身体が震えた。


何かが砕ける感覚。


見えない鎖が、断ち切られた。


初めて——


彼は自由になったのだ。


女は最後に笑いを残し、再び指を鳴らす。


シュウウウウ……


空間が歪み、巨大なゲートが開かれた。


—「待て!」 アレックスが叫ぶ。


しかし、女はゲートに入る前に、もう一度だけ彼を見た。


そして、ある名前を口にした。


—「また会いましょう、アリステア。」


時が止まった。


アレックスの思考が凍りついた。


胸が締めつけられるように痛む。


アリステア——


その名前は……


その名前は……


知っている。



けれど、思い出せない。


彼が何かを言おうとした瞬間、女はガロッシュとザレクと共にゲートへ消えた。


沈黙が降りる。


仲間たちは不安そうにアレックスを見る。


彼は動けなかった。


アズラスは静かに頭を垂れる。


アリステア——


なぜ… その名前を知っている?


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?