キャンプの雰囲気は歓喜に包まれていた。EMIたちの勝利の知らせは、避難民や兵士たちの間で瞬く間に広まった。戦いから逃れてきた人々や後方に残っていた兵士たちは、英雄たちを歓声と感謝の言葉で迎えた。
—「戻ってきたぞ!勝ったんだ!」
入り口で兵士が叫ぶと、瞬く間に場内に興奮が広がった。避難民たちは涙を流しながら感謝を伝え、兵士たちは一列に並び、敬意を表すように胸を叩いた。
—「英雄EMIが皆を救ったんだ!」
誰かの声に、群衆は拍手と歓声で応えた。
EMIは疲れていたが、謙虚に微笑みながら人々の祝福を受けていた。セレナやアリアも称賛されたが、注目の中心はやはりEMIだった。彼女こそがガロッシュと直接対峙し、勝利の鍵となったのだから。
アリアはため息をつき、腕を組んで少し不満げな表情を見せた。
—「やっぱり、全部持っていくのはEMIね。」
そう言いながらも、どこか楽しげに微笑む。
セレナは肩をすくめ、いつもの落ち着いた調子で言った。
—「当然でしょ。彼女は全力で戦ったんだから。」
—「私なんて、みんながやるべきことをしただけよ!」
EMIは慌てて笑いながら、注目をそらそうとした。
しかし、その歓喜の渦の中で、一人だけ静かに身を引く者がいた。
自分の居場所ではない。
そう感じながら、アレックスは誰にも気づかれないように静かにその場を離れた。熱気と歓声から遠ざかり、キャンプの隅の木のそばに腰を下ろす。
彼の頭の中には、別のことが渦巻いていた。
あの女…
何者なんだ? なぜ俺にあんな口ぶりで話しかけた? 俺のことを知っているような態度だったが…
腕を組み、背を木にもたれかけながら、夜空を見上げる。
彼女の言葉が頭から離れない。
「また会えたわね…あなたでよかった。」
アレックスは目を閉じ、苛立ちを隠すように小さく息をついた。
—「偶然なわけがない。でも、俺には記憶がない。」
ありえない。彼女には見覚えがない。それなのに、彼女の眼差し、声の響き、そのすべてが奇妙な感覚を呼び起こす。
まるで、俺たちには忘れられた過去があるかのように。
夜風が静かに吹き、木々の枝を揺らす。キャンプの方からは祝宴の笑い声と、安堵に満ちた人々の声が聞こえてくる。
だが、アレックスにはそれを共に喜ぶことができなかった。
この勝利は、ただの始まりに過ぎない。
そして、その中心には間違いなく あの女 がいる。
—「アリステア…」
彼はその名をそっと呟いた。
不確かなものに包まれながらも、一つだけ確信していることがあった。
俺はこのままじゃ終われない。
彼女が答えを持っているのなら、俺はそれを見つけなければならない
。
その時、遠くの闇の中から、誰かがじっとこちらを見つめていた。
妖艶な笑みを浮かべながら。
物語は、まだ始まったばかりだった。