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第[5X-5]章: 祝宴と疑念


キャンプの雰囲気は歓喜に包まれていた。EMIたちの勝利の知らせは、避難民や兵士たちの間で瞬く間に広まった。戦いから逃れてきた人々や後方に残っていた兵士たちは、英雄たちを歓声と感謝の言葉で迎えた。


—「戻ってきたぞ!勝ったんだ!」


入り口で兵士が叫ぶと、瞬く間に場内に興奮が広がった。避難民たちは涙を流しながら感謝を伝え、兵士たちは一列に並び、敬意を表すように胸を叩いた。


—「英雄EMIが皆を救ったんだ!」


誰かの声に、群衆は拍手と歓声で応えた。


EMIは疲れていたが、謙虚に微笑みながら人々の祝福を受けていた。セレナやアリアも称賛されたが、注目の中心はやはりEMIだった。彼女こそがガロッシュと直接対峙し、勝利の鍵となったのだから。


アリアはため息をつき、腕を組んで少し不満げな表情を見せた。


—「やっぱり、全部持っていくのはEMIね。」


そう言いながらも、どこか楽しげに微笑む。


セレナは肩をすくめ、いつもの落ち着いた調子で言った。


—「当然でしょ。彼女は全力で戦ったんだから。」


—「私なんて、みんながやるべきことをしただけよ!」


EMIは慌てて笑いながら、注目をそらそうとした。


しかし、その歓喜の渦の中で、一人だけ静かに身を引く者がいた。


自分の居場所ではない。


そう感じながら、アレックスは誰にも気づかれないように静かにその場を離れた。熱気と歓声から遠ざかり、キャンプの隅の木のそばに腰を下ろす。


彼の頭の中には、別のことが渦巻いていた。


あの女…


何者なんだ? なぜ俺にあんな口ぶりで話しかけた? 俺のことを知っているような態度だったが…


腕を組み、背を木にもたれかけながら、夜空を見上げる。


彼女の言葉が頭から離れない。


「また会えたわね…あなたでよかった。」


アレックスは目を閉じ、苛立ちを隠すように小さく息をついた。


—「偶然なわけがない。でも、俺には記憶がない。」


ありえない。彼女には見覚えがない。それなのに、彼女の眼差し、声の響き、そのすべてが奇妙な感覚を呼び起こす。


まるで、俺たちには忘れられた過去があるかのように。


夜風が静かに吹き、木々の枝を揺らす。キャンプの方からは祝宴の笑い声と、安堵に満ちた人々の声が聞こえてくる。


だが、アレックスにはそれを共に喜ぶことができなかった。


この勝利は、ただの始まりに過ぎない。


そして、その中心には間違いなく あの女 がいる。


—「アリステア…」


彼はその名をそっと呟いた。


不確かなものに包まれながらも、一つだけ確信していることがあった。


俺はこのままじゃ終われない。


彼女が答えを持っているのなら、俺はそれを見つけなければならない


その時、遠くの闇の中から、誰かがじっとこちらを見つめていた。


妖艶な笑みを浮かべながら。


物語は、まだ始まったばかりだった。


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