朝の陽光が公爵アラリックの邸宅の窓から差し込み、黄金色の輝きで室内を照らしていた。まだ少し眠気の残るアレックスは、目の前に並べられた豪華な衣装の数々をぼんやりと眺めていた。彼を囲むように、アリア、エミ、セレナの三人が立っており、王城での大宴会に向けて準備を整える気満々だった。
「いい? アレックス、あなたをちゃんとした姿に仕上げる必要があるのよ」
腕を組んだアリアが、紫色の髪を輝かせながら真剣な表情で言った。
「なんでそんなに騒ぐんだ…」
アレックスはため息をつきながら、面倒くさそうに服の山を眺める。
「動きやすい服でいいだろ?」
「ダメ!」
三人は見事に声をそろえた。
アリアは黒地に銀の刺繍が施されたスーツを取り出す。
「これが完璧ね。上品で落ち着いていて、品格もあるわ」
「つまらないわね」
セレナがいたずらっぽく微笑みながら口を挟む。
「彼の個性に合わないわ。もっと色のあるもののほうがいいんじゃない?」
そう言いながら、彼女は深紅のアクセントが入った衣装を取り出した。短いマントが背中を飾る、どこか威厳を感じさせるデザインだった。
「これならもっと印象的に見えるわよ」
「印象的って… 貴族の嫌味な男に見えるってことか?」
エミが舌打ちしながら別の衣装を持ち上げた。
「もっと英雄らしくて、私たちの仲間にふさわしいものがいいでしょ」
アレックスはエミが差し出した服をじっと見る。
それは白と紺の配色で、胸元には金色の紋章が輝いていた。
「…軍服にしか見えないな」
「その通りよ!」
エミは誇らしげに言った。
「軍人みたいに見えるのは勘弁だ」
「じゃあ、どれにするの?」
アリアが少し苛立った様子で問いかける。
アレックスは目の前の選択肢を見渡し、どれを選んでも誰かしらに文句を言われるのが分かっていた。重いため息をつく。
「どれでもいい」
その瞬間、三人は互いに目を合わせ、次の段階に進む合図をした。
エミとセレナはアレックスを更衣室へと押し込み、アリアは指示を飛ばす。
「シワをつけないように気をつけて!」
「おい、いつからお前らが決めることになったんだ?」
「あなたが服に興味ないって知ってるからよ」
次々と衣装を着せられ、却下されていくアレックス。
いくつかは似合っていたが、三人は何かしら理由をつけてダメ出しをした。
そして、一部の衣装はアレックスにとって不快でしかなかった。
結局、長い服選びの末に、黒地に銀の刺繍が施されたスーツに決定した。
「ほらね、結局私の選んだものが一番だったでしょ?」
アリアが誇らしげに微笑む。
「お前が試着を強要したからだろ…」
アレックスは、この服選びにどれほどの時間を費やしたかを考え、呆れ果てていた。
しかし、試練はまだ終わっていなかった。
突然、小さな姿のアズラスが彼の膝の上に飛び乗る。
青いリボンが不器用に結ばれており、その姿にアレックスは目を疑った。
「お前… 何をされたんだ?」
アレックスは驚きながら尋ねる。
「私もオシャレをしろと言われて…」
アズラスはうなだれ、エミとセレナは満足げに微笑んでいた。
「かわいいじゃない!」
セレナが嬉しそう
に抱きしめる。
「やめろ! 人間め、息ができん!」
アレックスは深いため息をつく。
服選びですらこの有様なら、宴会はさらに厄介なことになるに違いなかった。