アリア、エミ、セレナがアレックスの「衣装準備」から逃げ出させまいと奮闘している間、アズラスは絶好の機会だと考え、屋敷の探索に繰り出すことにした。
「人間どもめ… 俺をリボンで飾りつけて、ぬいぐるみのように抱きしめるとは侮辱にもほどがある!」
セレナに結ばれた青いリボンを激しく振り払い、アズラスは素早く部屋を飛び出した。
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屋敷の廊下を歩き回りながら、アズラスは豪華な装飾、輝くシャンデリア、そして壁に飾られた貴族たちの肖像画を観察した。
「ふむ… なかなか悪くない。ここで暮らすのも悪くないかもしれんな」
彼は誇らしげに胸を張った。
しかし、その好奇心はすぐに問題を引き起こすこととなる。
まず、アラリック公爵の書斎に入り込み、机の上にあった大量の書類の上に飛び乗った。
書類は勢いよく宙を舞い、部屋中に散らばった。
「ふん、こんな紙切れを山のように積んで生活するなんて、人間は愚かだな」
次に彼は厨房へ向かった。そこでは料理人たちが朝食の準備に追われていた。
アズラスは豪華な料理の数々を見渡し、その中でひときわ美味しそうなラムの骨付き肉を見つけた。
「ふっ… これは俺への供物に違いない!」
そう確信した彼は、迷うことなく肉に飛びつき、貪るように食べ始めた。
「ぎゃああああっ!? モンスターだ!!」
料理人の一人が叫び、持っていた皿を落とした。
「何事だ!?」
別の料理人が駆け寄る。
しかし、アズラスは肉をくわえたまま、素早く厨房を飛び出した。
「へっへっへ、人間どもめ、俺を捕まえられると思うなよ!」
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逃げる途中、アズラスは廊下の角を曲がった瞬間、公爵アラリックと鉢合わせた。
優雅な雰囲気を纏った公爵は、肉をくわえたまま立ち尽くすピンクの小獅子を静かに見つめた。
「君が噂のアレックスの相棒か」
アラリックは落ち着いた声で言った。
アズラスは慌てて肉を飲み込み、堂々と胸を張った。
「うむ! 人間よ、屋敷の管理はしっかりしているようだな!」
アラリックは眉を上げた。
「屋敷の管理?」
「そうだ!」
アズラスは誇らしげに言い放つ。
「ここは俺の屋敷だ! この程度の豪華さならば、偉大なる精霊である俺の住処として認めてやろう!」
アラリックは小さく微笑んだ。アズラスの態度が可笑しかったのだ。
「そんな偉大な精霊が、なぜ盗んだ肉をくわえて走り回っていたんだ?」
「盗みではない! これは元々俺のものだ! 人間どもは、俺に食料を提供できることを誇りに思うべきだ!」
アラリックは腕を組み、しばらく考え込むようにアズラスを見つめた。
「…なるほど、朝から騒がしい理由が分かったよ」
「ふっ、俺のレベルになれば、これくらいの混乱は日常だ」
しかし、その瞬間、屋敷中に響き渡る怒声が鳴り響いた。
「アズラーーーース!!!」
アズラスはゆっくりと振り返った。
そこには、拳を握り締め、額には怒りの血管が浮かび、殺気を放つアリアが立っていた。
「お、お前… な、何を怒っているのだ?」
「何を怒っているかですってぇ!? お前がやったこと、分かっているの!?」
「証拠はない だが疑いもない!!
「いいからその肉を返せ!!」
「断る!!!」
アズラスは全力で走り出した。
アリアも即座に追いかけ、屋敷中を駆け巡る大追跡劇が始まった。
彼らは執事やメイドをかわし、豪華な家具の上を飛び越え、ついには村一つが買えるほどの価値がある花瓶を危
うく倒しそうになった。
アラリックはその光景を静かに見つめ、微笑を浮かべた。
「…ふむ、彼らがいると、この屋敷も随分と賑やかになるな」
そう呟くと、彼は静かにその場を後にした。