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第60章: アズラス、屋敷の主



アリア、エミ、セレナがアレックスの「衣装準備」から逃げ出させまいと奮闘している間、アズラスは絶好の機会だと考え、屋敷の探索に繰り出すことにした。


「人間どもめ… 俺をリボンで飾りつけて、ぬいぐるみのように抱きしめるとは侮辱にもほどがある!」

セレナに結ばれた青いリボンを激しく振り払い、アズラスは素早く部屋を飛び出した。



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屋敷の廊下を歩き回りながら、アズラスは豪華な装飾、輝くシャンデリア、そして壁に飾られた貴族たちの肖像画を観察した。


「ふむ… なかなか悪くない。ここで暮らすのも悪くないかもしれんな」

彼は誇らしげに胸を張った。


しかし、その好奇心はすぐに問題を引き起こすこととなる。


まず、アラリック公爵の書斎に入り込み、机の上にあった大量の書類の上に飛び乗った。

書類は勢いよく宙を舞い、部屋中に散らばった。


「ふん、こんな紙切れを山のように積んで生活するなんて、人間は愚かだな」


次に彼は厨房へ向かった。そこでは料理人たちが朝食の準備に追われていた。

アズラスは豪華な料理の数々を見渡し、その中でひときわ美味しそうなラムの骨付き肉を見つけた。


「ふっ… これは俺への供物に違いない!」


そう確信した彼は、迷うことなく肉に飛びつき、貪るように食べ始めた。


「ぎゃああああっ!? モンスターだ!!」

料理人の一人が叫び、持っていた皿を落とした。


「何事だ!?」

別の料理人が駆け寄る。


しかし、アズラスは肉をくわえたまま、素早く厨房を飛び出した。


「へっへっへ、人間どもめ、俺を捕まえられると思うなよ!」



---


逃げる途中、アズラスは廊下の角を曲がった瞬間、公爵アラリックと鉢合わせた。


優雅な雰囲気を纏った公爵は、肉をくわえたまま立ち尽くすピンクの小獅子を静かに見つめた。


「君が噂のアレックスの相棒か」

アラリックは落ち着いた声で言った。


アズラスは慌てて肉を飲み込み、堂々と胸を張った。


「うむ! 人間よ、屋敷の管理はしっかりしているようだな!」


アラリックは眉を上げた。


「屋敷の管理?」


「そうだ!」

アズラスは誇らしげに言い放つ。

「ここは俺の屋敷だ! この程度の豪華さならば、偉大なる精霊である俺の住処として認めてやろう!」


アラリックは小さく微笑んだ。アズラスの態度が可笑しかったのだ。


「そんな偉大な精霊が、なぜ盗んだ肉をくわえて走り回っていたんだ?」


「盗みではない! これは元々俺のものだ! 人間どもは、俺に食料を提供できることを誇りに思うべきだ!」


アラリックは腕を組み、しばらく考え込むようにアズラスを見つめた。


「…なるほど、朝から騒がしい理由が分かったよ」


「ふっ、俺のレベルになれば、これくらいの混乱は日常だ」


しかし、その瞬間、屋敷中に響き渡る怒声が鳴り響いた。


「アズラーーーース!!!」


アズラスはゆっくりと振り返った。


そこには、拳を握り締め、額には怒りの血管が浮かび、殺気を放つアリアが立っていた。


「お、お前… な、何を怒っているのだ?」


「何を怒っているかですってぇ!? お前がやったこと、分かっているの!?」


「証拠はない だが疑いもない!!


「いいからその肉を返せ!!」


「断る!!!」


アズラスは全力で走り出した。


アリアも即座に追いかけ、屋敷中を駆け巡る大追跡劇が始まった。

彼らは執事やメイドをかわし、豪華な家具の上を飛び越え、ついには村一つが買えるほどの価値がある花瓶を危

うく倒しそうになった。


アラリックはその光景を静かに見つめ、微笑を浮かべた。


「…ふむ、彼らがいると、この屋敷も随分と賑やかになるな」


そう呟くと、彼は静かにその場を後にした。


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