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第66章:止まらぬ獣


アレックスは素早く動いたが、獣の方がさらに速かった。


短剣で攻撃しようとした瞬間、群れのリーダーが怪物じみた速さで反応し、鋭い爪でその一撃を弾き飛ばした。


衝撃でアレックスは数メートル吹き飛ばされ、地面を転がりながら木に激突した。


「ぐっ…!」


鋭い痛みが右腕を駆け抜けた。短剣で防がなければ、腕ごと持っていかれていたかもしれない。


だが、獣は休む間も与えなかった。獰猛な勢いで飛びかかり、開いた顎がアレックスの頭を噛み砕こうと迫る。


その瞬間、一つの影が間に割って入った。


「寝てんじゃないわよ、バカ!」


キヨミが吐き捨てるように言い放った。


彼女の刀が銀色の閃光を放ち、獣の攻撃を正確に弾き返した。


衝撃で少し後退したが、キヨミは動じず、鋭い目で敵を見据えたままだった。


アレックスはその隙に体勢を立て直し、息を荒くしながらキヨミの隣へと下がる。


「クソ…こいつ、まるで戦車じゃねぇか…」


キヨミは獣から目を離さず、冷静に言った。


「だから言ったでしょ。一人じゃ無理だって。」


アレックスは歯を食いしばる。認めたくはなかったが、事実だった。


「…で、どうする?」


キヨミは刀を軽く回し、低い構えを取った。


「アンタが囮になる。私は仕留める。」


アレックスは呆れた顔で彼女を見た。


「おいおい、随分ざっくりした作戦だな。」


「文句言ってないで動きなさい。」


獣が怒りの咆哮を上げ、再び襲いかかってきた。


アレックスは仕方なく左へ走り、リーダーの注意を引く。


その間に、キヨミの姿が木々の間に消えた。


本当の狩りが始まったのだ。



---


リーダーは目にも止まらぬ速さでアレックスを追う。まるで彼を獲物と確信しているかのようだった。


だが、その瞬間——


圧倒的な気配が辺りを支配した。


青白い光が木の上から輝く。


——「虚空斬り(こくうぎり)」


静寂に満ちたキヨミの声が響いた。


アレックスが上を見上げた瞬間、息を呑んだ。


魔力の青いオーラを纏ったキヨミが、異世界の戦士のように空中に浮かんでいた。


白銀の髪が魔力の風に舞い、その瞳は氷のように冷たく輝いている。


装いはシンプルだが、まさに孤高のバウンティハンターを思わせる姿だった。


黒のロングレザージャケットに金属装飾の肩当てと腕甲。

引き締まった体を覆うタイトなトップと、機動性を重視したスリムなパンツ。

無音で動けるように設計された強化ブーツ。


だが、最も目を引くのは彼女の刀だった。


青白い霊気を纏い、その刃は空間そのものを切り裂きそうな妖しい光を放っている。


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「…まじかよ…」


アレックスの額に冷や汗が伝う。


まるで異世界転生モノのぶっ壊れスキルだ。


考える間もなく、キヨミが空から急降下した。


——彼女の刀が、一閃する。


時間が止まったように思えた。


群れのリーダーは、一瞬、何も感じなかった。


次の瞬間——


青白い光が傷口から噴き出し、身体が音もなく真っ二つに裂けた。


巨体が地に沈む。


キヨミは軽やかに着地し、一動作で刀を鞘に納めた。


「これで終わりね。」


アレックスはゴクリと唾を飲んだ。


「…どう考えてもぶっ壊れ魔法だろ、これ。」


キヨミは刀を指で回しながら、呆れたようにため息をついた。


「はいはい、驚いたのは分かったわ。でもね——」


その時だった。


森全体を揺るがすような、低く響く遠吠えが鳴り響いた。


アレックスとキヨミは反射的に振り向く。


そこにいたのは、群れの新たなリーダー。


先ほどの獣よりも遥かに巨大で、圧倒的な威圧感を放っていた。


漆黒の筋肉は鉄のように硬く、全身から闇のようなオーラが滲み出ている。


燃えるような赤い瞳が二人を睨みつける。


周囲の獣たちがその後ろに控え、一斉に動きを止めた。


——そして、咆哮。


まるで地獄の門が開いたかのような声だった。


次の瞬間、全ての獣が同時に襲いかかってきた。


「チッ…厄介ね。」


アレックスは舌打ちしながら後方に跳び、素早く短剣を抜いた。


無数の影が、牙と爪を煌めかせながら襲いかかる。


キヨミはそれを見ても動じず——


ただ、一歩踏み出した。


——「天翔斬舞(てんしょうざんぶ)」


彼女の刀が軌跡を描く。


青白い斬撃が、戦場を切り裂いた。


複数の獣が、一瞬で消し飛ぶ。


だが、真の敵はまだ残っていた。


新たなリーダーは、彼女の一撃をかわし、一直線にアレックスへと突撃していた。


アレックスは咄嗟に短剣を交差させ、致命傷を防ぐ。


だが、相手の力は桁違いだった。


獣の爪がぶつかると同時に、アレックスは吹き飛ばされ、背中から木に叩きつけられた。


「ぐっ…!」


キヨミが静かに地面に降り立ち、呆れたようにアレックスを見下ろす。


「だから言ったでしょ。こんな森に来るべきじゃなかったって。」


アレッ

クスは息を切らしながら、口の端についた血を拭った。


「黙れ…そいつを倒すの手伝え…」


新たなリーダーが再び咆哮を上げ、突進する。


キヨミはため息をつきながら、再び刀を構えた。


「…まあ、もし生き延びたら酒でも奢るわ。」


アレックスは目を細めた。


「お前、それは励ましてんのか、煽ってんのか?」


キヨミは薄く微笑んだ。


「両方よ。」


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