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第67章: 重力サポート (Support Gravitacional)


キヨミは一瞬の隙もなく鋭く跳躍し、まるで影のように空間を滑るように移動した。

彼女の最強の技、「虚無の斬撃」が猛スピードで解き放たれる。


風が激しく渦巻き、青い光の軌跡を描きながら刀が空を切り裂く。

瞬く間に、その刃は群れのリーダーの脇腹へと突き刺さった。まるで嵐のごとき鋭さだった。


だが――


異変が起こった。


青い光が一瞬強く輝き、森全体を照らしたかと思うと、まるで何事もなかったかのように消え去った。


キヨミの攻撃が、効いていない?


リーダーの体を包むのは、黒く濃密なオーラ。

それはまるで不可視の外套のように周囲の空間を歪め、彼女の魔法をかき消していく。


キヨミは軽やかに地面へ降り立ち、驚きの色を見せながらも、冷静さを失わなかった。


「……何なの、これは?」


群れのリーダーは、邪悪な笑みを浮かべながら、不気味な笑い声を響かせた。

その声はまるで何重にも歪んだ音のようで、森全体に響き渡る。


「……面白い。お前の攻撃は無意味だ」


ざらついた声でそう呟くと、リーダーはゆっくりとキヨミを見下ろした。


「この力は、すべてを吸収する。」


キヨミはわずかに眉をひそめた。

黒いオーラは、魔法も物理攻撃も無効化する絶対的な障壁。


だが――


「へぇ……しゃべれるとは思わなかったけど、いいことを聞いたわ。」


キヨミは軽く刀を構え直し、笑みを浮かべた。


「私は、そう簡単にやられるほど弱くはない。」


彼女の体から新たな魔力が放たれる。


――第二段階、虚無の斬撃。


刃が青く輝き、先ほどとは桁違いの密度を持つエネルギーが込められる。

キヨミは宙へと跳び上がり、精密な一撃を狙う。


リーダーは即座に反応し、猛然と突進する。


しかし――


彼女はすでに動きを読んでいた。


青白い閃光が爆発し、黒いオーラに小さな亀裂が走る。


リーダーが低く唸るような声を上げた。

今の一撃は、確実にダメージを与えていた。


だが、それでもまだ倒れない。


「やっぱり、簡単にはいかないか……。」


キヨミは息を整え、次の攻撃の準備をする。


だが、リーダーはそれを許さなかった。


彼の身体は、さらに黒いオーラを濃くしながら、凄まじい勢いで彼女に向かって突進する。


――轟ッ!!


巨大な爪がキヨミの防御を打ち砕き、彼女の体を岩場へと吹き飛ばした。


激しい衝撃音が森に響く。


キヨミは一瞬、視界が揺らぐのを感じた。


「っ……!」


痛みをこらえながら立ち上がると、彼女はリーダーを睨みつける。


「なるほど……。こっちの攻撃を吸収して、どんどん強くなっていくってわけね……。」


一方、少し離れた場所でその戦いを見ていたアレックスは、じっと状況を分析していた。


「……マズいな。」


リーダーは攻撃を受けるたびに力を増している。


単なる強敵ではなく、適応し、成長するタイプの怪物だ。


キヨミの攻撃が通じたとはいえ、決定打にならない限り、この戦いは長引くだけで不利になる。


そんな中、キヨミはアレックスの視線に気づき、苦笑を浮かべた。


「……逃げ腰になってるじゃない、アレックス。」


彼女の目は、まるで挑発するように光っていた。


「やっぱり、あんたは弱虫なのね。」


その言葉に、アレックスはわずかに眉をひそめた。


「……」


そして、静かに短剣を握り直した。


—介入する必要はない、私一人で十分よ。


しかし、アレックスは聞いていなかった。彼の頭は素早く回転し、その瞳は鋭く輝いていた。もしキヨミが一人で戦い続ければ、いずれあの怪物に圧倒されるのは時間の問題だった。今こそ、自分のサポート技を使う時だ。


アレックスはわずかに身をかがめ、正確な動作で力を解放し始めた。


—キヨミ、準備しろ!


彼の声が響いた瞬間、サポート魔法が空間を満たしていった。波のように広がる光のエネルギー。キヨミは、その魔力の圧力を感じ、一瞬だけ動きを止めた。空気が変化し、彼女の体を包み込むように力が流れ込んでくる。


電流が走るように、キヨミの体を魔力が駆け巡る。その増幅は凄まじく、膝が崩れそうになるほどの衝撃を受けた。目を大きく見開き、その圧倒的な力に驚きながらも、口元には興奮の笑みが浮かぶ。


—こ、これは…すごい!


アレックスは、彼のサポートが発動する様子を冷静に見守っていた。この力があれば、キヨミはリーダーを超えることができる。その魔力は、彼女の身体能力と魔法制御の両方を飛躍的に強化する。


キヨミは、自分の中に湧き上がる力を感じながら、群れのリーダーに向き直った。その眼差しは、先ほどまでとはまるで別人のように鋭く、揺るぎない自信が宿っていた。


リーダーは異変を察知し、その黒いオーラが揺らぎ始めた。まるで、この新たな力を前にして耐えられなくなっているかのように。


—キヨミ、お前が始めた戦いを終わらせろ。


アレックスの声には確信がこもっていた。この戦いの流れは、すでに彼らに傾いていた。


キヨミは再び笑った。だが、その表情には、今度こそ絶対に勝つという確信があった。彼女はカタナを構え、空気を切り裂くように力を集中させる。そして、閃光のごとき速度で突進した。


リーダーは、反応する間もなくその攻撃を受けた。


キヨミの斬撃が炸裂する。アレックスの魔力で強化されたカタナは、かつてない威力を持って敵を切り裂いた。リーダーは防御を試みるが、刃は迷うことなくその体を貫いた。


二つに裂かれた怪物が地面に崩れ落ちると、周囲に漂っていた黒いオーラも掻き消えていく。


キヨミは、まだアレックスの魔力の余韻に包まれながら、荒い息を吐いていた。その体は今も力強く輝いていた。



アレックスは薄く笑いながら、ゆっくりとキヨミに近づいた。


—言っただろ? お前ならやれるって。


キヨミは彼の方を振り返り、勝利の余韻に満ちた笑みを浮かべた。


—ありがとう、アレックス。こんなに力が湧いたのは初めてだよ。


戦いは終わった。


…少なくとも、そう思っていた。


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