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第68章: 説明

戦いが終わったと思ったその瞬間、不快な粘ついた音が空気を震わせた。

真っ二つに裂かれたはずの怪物の身体が、うねりながら再形成されていく。


その新たな姿は異様だった。

肌は歪み、所々が欠け、顔は痛みと怒りに苦しむかのようにねじれている。

まるで、清美が与えたダメージが永続的な傷となったかのように、

しかし同時に、それによってさらに危険な存在へと変貌していた。


「マジかよ…」アレックスは信じられないといった表情で呟いた。


息を荒げながら、清美は刀を強く握りしめ、再び戦闘態勢を整えた。


「このクソが…」歯を食いしばりながら低く呟く。


怪物が不気味な咆哮を上げ、凄まじい速さで二人に襲いかかる。

アレックスと清美も迎え撃とうとしたその瞬間——


突如、空から何かが信じられない速度で降ってきた。


—ドォォォンッ!!—


大地が揺れ、土埃と木の葉が舞い上がる。

その粉塵の中から、堂々とした巨大な影が現れた。


太陽の光を浴びて輝く、ピンク色の毛並み。

風になびく、ふわふわのたてがみ。


——アズラスが来たのだ。


その巨体とは思えぬ速さで、アズラスは怪物に飛びかかると、

鋭い牙でその首を一瞬で捕らえた。


怪物が必死にもがき、咆哮を上げる。

だが、アズラスは軽々と持ち上げると、

空中で激しく振り回し、そのまま地面へと叩きつけた。


—ゴキッ…!


骨と肉が砕ける音が森全体に響く。


アレックスと清美はその光景に目を見開き、ただ唖然とするしかなかった。


そんな二人をよそに、アズラスは口に挟んだ怪物の肉片を噛みながら、

何気ない口調でアレックスに尋ねた。


「なあ、アレックス。この娘、敵か?」


アレックスは眉をひそめ、深いため息をつく。


「口にモノ入れたまま喋るな!」

腕を組みながら叱ると、アズラスは平然と咀嚼を終えた。


ライオンは満足そうに牙を舐め、たてがみを誇らしげに揺らす。


「チッ、細かいな。」


アレックスは呆れた表情を見せつつ、同時に疑問も浮かぶ。


「…で?どうしてここに?」


アズラスは、倒れた怪物の死体の上にどっかりと腰を下ろし、まるで座り心地を確かめるように尻尾を揺らした。


「お前を探したんだよ。お前、何も言わずに消えたからな。

女どもが心配して、俺に捜索を命じたんだ。

セレナ曰く、『見つけてこないと王宮の舞踏会用の“可愛い衣装”を着せる』とか脅されたんだぞ?」


アレックスは一瞬目を閉じ、情報を整理し、それから深い息をついた。


「…別にそこまでしなくても…」



そう言いながら、彼は清美に視線を向け、アズラスを紹介しようとした。


しかし—— そこに彼女の姿はなかった。


「…え?」


アレックスは瞬きをし、驚愕する。


清美がいたはずの場所が、完全に空っぽだった。


アズラスもその異変に気づき、首を傾げる。


「消えた?」


アレックスは眉をひそめ、周囲を素早く見渡した。


彼女が動くのを見た覚えはないし、逃げるような音すら聞こえなかった。


まるで、跡形もなく消えた かのように。


「……面白い。」


彼は小さく呟いた。


これが清美との最後の遭遇ではない——そんな確信を抱きながら。


——


風が吹き抜ける中、アレックスはアズラスの柔らかい毛をしっかりと掴み、彼の背に乗っていた。


ピンクの獅子は信じられないほどの優雅さと速度で森を駆け抜ける。


「最初から俺を呼べばよかったんだぞ、アレックス。」


アズラスが軽い口調で言う。


「そうすれば、あんな面倒なことにはならなかったのに。」


アレックスは深いため息をつき、彼のたてがみに額を押しつける。


「他人に頼ってばかりじゃ、ダメだと思ったんだ…」


「で? その結果は?」


アズラスがニヤリと笑う。


アレックスは無言で彼の言葉を無視し、ただ帰路に集中することにした。


——


屋敷に着くと、アズラスは速度を落とし、ようやく正門の前で停止した。


そして、そこに待ち構えていたのは——


エミ、アリア、セレナの三人。


三人とも腕を組み、鋭い視線をアレックスに向けている。


冷や汗が背中を伝った。


「おかえりなさい、アレックス。」


エミが甘い声で言った。


しかし、背後には不穏な闇が渦巻いている。


「私たち抜きで楽しんでたみたいね?」


アリアが頬を膨らませ、目を細める。


セレナは無表情ながら、瞳にはどこか危険な光が宿っていた。


「さて、言い訳はある? それともすぐに罰を決めてもいいかしら?」


アレックスは肩を落とし、深いため息をつく。


「……こうなる気はしてた。」


楽しそうに観戦しているアズラスを横目に、彼は獅子の背から降りた。


「違うんだ、これは——」


「へぇ? 違う?」


エミが片眉を上げる。


「なら説明しなさい。」


アリアが腕を組んで睨む。


セレナはただ笑みを浮かべ、興味深そうに見守っていた。


仕方なく、アレックスは森で起こった出来事を話し始めた。


清美という謎の賞金稼ぎ。魔法を吸収し、強くなる怪物。そして、それを一撃で葬ったアズラスの登場。


意図的に「単独で行動した」ことは省略しつつ。


三人はじっと話を聞いていたが、時折視線を交わしていた。


「ふむ…」


エミが考え込む。


しかし、そのとき——


「興味深い…」


静かな声が響いた。


全員が振り返ると、そこには 銀髪の美女 が立っていた。


眠たげな目をし、わずかに乱れた服装。それでも彼女の美しさは際立っていた。


その怪物…もっと詳しく聞かせて。」


シエナが、アレックスにじりじりと近づいてきた。


そして——


突然、彼女は バタリ とアレックスに倒れ込んだ。


「えっ?!」


静寂が訪れる。


そして、聞こえてきたのは——


「……Zzz…」


彼女はいびきをかいていた。


アレックスは、遠い目をしながら深くため息をついた。


「……なんで俺ばっかりこうなるんだよ…」




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