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第41話 悪役、勇者となる?

 かれこれ三度目となる謁見の間。

 すっかり場慣れした自分も面の皮も厚い方だと思う。


 だが今回は大分雰囲気が異なっていた。

 騎士達がずらりと並び、正装した貴族も同じように立っている。

 最奥の玉座にはフレート王が鎮座しており、左右にはハンス王子とティファ王女が佇んでいた。


 俺達も正装させられ礼節に乗っ取り跪く。

 ガイゼンだけは相変わらず鎧姿だけどな。

 どうやら周囲から肉体の一部扱いとなっているらしい。ある意味、ガイゼン補正というやつだろうか。


 女子達みんなも綺麗なドレスに身を包んでいる。

 特にシャノンのドレス姿は初めてなので、ここぞとばかりガン見してしまった。

 純白でまるで花嫁衣裳のようだ。


「あ、あまり見ないでください……アルフさん」


 見惚れる俺に、シャノンは頬を染めて照れていた。

 初心な表情といい、彼女は本当に綺麗だと思う。


 さらにシズクも大人として成長してナイスバディを強調したドレス姿だ。

 つい柔らかそうな胸の谷間に目がいってしまう。


「触ってもいいですよ、ご主人様」


 こっそりと耳打ちしてくる、奴隷っ子のシズクさん。

 やべぇ……ローグと違って俺は手を出さないもんだから、彼女のラブ・アタックが半端ない。

 つい魔が差しちまいそうだ。


 そうした、しばしの沈黙後。

 フレート王が口を開く。


「では改めて、アルフレッド率いる【集結の絆】の者達よ。この度の活躍、真に見事であったぞ。タニングの都を救い、我が息子ハンスを救出したこと。感謝の念が尽きない。父として国王として礼を言おう」


「ハッ、勿体なきお言葉」


 団長リーダーである俺が先頭になって言葉を発する。


「うむ、面を上げて良いぞ。其方らは我がルミリオ王国の英雄だ。そこで褒美を取らせよう――」


 フレート王の言葉と共に、俺達の前に台車が運び込まれた。

 台車には金塊が山積みとなっている。

 え? 多くね? どれくらいなんだ……。


「4億Gはあるだろう」


「よ、よん!?」


 嘘でしょ!? なんか奮発してんじゃないの!?

 原作で活躍したローグに対してだって、2億Gの褒美であいつ気を失いそうになっていたぞ!

 やべぇ、ピコの借金なんて利息分込みで一気に返却できるわ!

 この勢いで屋敷でも買うか……いや立ち上げたばかりで調子に乗り過ぎだろうか。


 あまりにも大金ぶりに俺達一同が驚愕する中、ハンス王子が「皆の者、聞いてほしい!」と言い出した。


「彼、アルフレッドは我がルミリオ王国の象徴とする宝剣である『聖剣グランダー』に選ばれ所有者となった! これは紛れもなく勇者となった事に等しい偉業である!」


 その言葉で周囲の貴族達から「おおっ、なんと!」と声が上がる。


「うむ、ハンスの言い通りだ。聖剣を抜いた者は必然的に勇者の資格を得たようなもの。アルフレッドよ、この場を借りて我が国を代表とする勇者となってくれぬだろうか?」


 フレート王まで便乗して言ってくる。


 俺ぇ一度、蹴っている筈なのに……。

 これさ、断っていいやつ?


 けど、みんなめちゃ期待した目で見てくるんですけど。

 王や貴族達だけじゃなくて、背後で跪く仲間達もだ。

 特にシャノンは瞳をキラキラさせている。


 前はそうでもなかったけど、本来の彼女は清く美しい神官プリーストだけに、こういう英雄職が大好きのようだ。

 まぁ【英傑の聖剣】の頃と違い、〈能力貸与グラント〉スキルという不正で得た形じゃない。

 みんなで協力して勝ち取った成果だ。


 けどなぁ……。


「……陛下、それに殿下。こうして聖剣を手にしたのは事実ではありますが、正直自分はまだその域には達していないと思っております」


「アルフレッドよ、それはどういう意味だ?」


「ハッ、言葉の通りです。私は未だ第三級冒険者である身。【英傑の聖剣】のローグ殿や他の第一級冒険者達には実力的に遠く及ばないでしょう。勇者とはルミリオ王国に限らず、様々な民に誉れ高き絶対的な象徴……今の私では荷が重く、勇者職を担えるとは難しいかと」


「つまり勇者としての実力には達してないと申すか?」


「ハッ、おそれながら……」


 俺の言葉に国王だけでなく周囲からも「え~っ」と口惜しむ声が漏れる。

 いやいや仮に今、勇者になったからって絶対にボロが出ると思うよ。

 国的にそっちの方が恥じゃね?


 ティファからも「アルフレッド様……」と残念そうな表情を浮かべている。

 その傍らで、ハンス王子は「確かにそうだね……」と口を開いた。


「私も剣士の端くれとして、今のアルフレッドには修行が必要だと思います。であれば、勇者の件は保留にしたらどうでしょう?」


「保留か……ハンスがそう言うのであれば良かろう。だがアルフレッドよ、其方は聖剣に選ばれたのも事実。腕を上げ、第一級冒険者となった暁には我が国を代表とする勇者となってもらうぞ、良いな?」


「ハッ、その際は是非に」


 この辺が妥協点だろうか。

 どちらにせよ、ただの冒険者が国で管理していた聖剣を所有するなんて前代未聞だ。

 このまま持ち逃げするようで後味も悪い。

 一度手にしたら返却とか無理らしいからな。


「良かったですわ、アルフレッド様。もし勇者となれば貴族同様、いえそれ以上の身分となりましょう。さすれば婿養子として王族入りも……きゃっ」


 え? ティファは何を言っているの?

 まさか、んなこと考えて残念そうな顔していたわけ?

 悪いけど、王族なんて俺のガラじゃない……それだけは勘弁してくれ。


「うむ、流石余が見込んだ男よ。早く勇者の器となることを期待しているぞ!」


 フレート王よ。あんたいつ俺を見込んだんだよ、初耳だわ。


「わたくしも見守っていますわ、アルフレッド様ぁ」


 ティファに恍惚の表情で言われ、俺は「ありがたき幸せ」と一礼する。

 この姫さんが所々で問題発言する度に、女子達の視線が俺の背中へと突き刺さる。

 もう勘弁してよ……。



 色々あって、ようやく城から解放された俺達。


 もう夜じゃねーか。

 半分は聖剣抜くのに10時間も粘っていたローグのせいだけどな。


「とにかく疲れた……なんか美味いもんでも食いに行こーぜ」


 褒美の金塊は荷物になるので城に置いてきている。

 明日の朝、取に行き冒険者ギルドへ預金する予定だ。



 晩飯はちょっと良さげな食事処で、みんなで食べることにした。

 凱旋のお祝いも兼ねて、豪華な食事がテーブルいっぱいに置かれる。


「――アルフよ、これからどうするんだ?」


「何がだ、ガイゼン?」


「いやぁよぉ。聖剣手にしちまったろ? それって半分は勇者ってことじゃねぇのか? けどお前さんが陛下の前で言った通り、今のオレ達じゃ力不足だと思う。とても務まる筈がないのもわかっている……だが一方でタニングの都みたいに魔王軍が何か仕掛けてくるのなら、先陣は切らなくても結局は嫌でも戦わなきゃならねぇんじゃないか?」


「……だよな。だからこそ俺達は強くならなきゃならない。勇者云々じゃなく、一人の冒険者として言える事だ。結局、強くなきゃ自分の身すら守れなくなるからな。それは生きるための絶対条件だ……だから色々考えてみた」


「考えた?」


「武者修行だ――色々な国や各地を回って未踏破のダンジョンに挑んだり、やる事はぶっちゃけ今までと変わらないけど、ルミリオ王国でまったりするより刺激になるんじゃないか?」


 一応は原作で主人公ローグが辿ったルートを回りたいと思っている。

 そうすれば身の丈に合わない戦いは事前に回避できるし、情報も手に入れやすいだろう。


「武者修行ね。いいんじゃね? オレは賛成だ」


「パルはアルフと一緒ならどこでもついて行く」


「わたしもです、アルフさん! 共に正道を歩みましょう!」


「ご主人様の思いのまま、どこまでもついて参ります!」


「仕方ないわね。当然、アタシも一緒だからね」


 ガイゼン、パール、シャノン、シズク、ピコが賛同してくれる。


「勿論、ワタシ達もついて行くわ」


「英雄と共にあらんことを」


吟遊詩人バードとして血が騒ぐよ」


 三つ子の小人妖精族リトルフのマカ、ロカ、ミカも微笑を浮かべ理解を示してくれた。

 この子達がいれば怖いモノなしだ。

 無双スライムのスラ吉もいることだし大丈夫だろう。


 人間、何か目標を持たないと成長しないものだ。

 だから武者修行の旅に出ると決めた。


 まぁ半分は原作に沿った聖地巡りでもあるんだけどね。


(その前に、なんとしてでもカナデを引き抜かないとな……)


 盛り上がる仲間達を微笑ましく見守りつつ、未だ【英傑の聖剣】に留まるサムライガールのことを思うのであった。

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