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第42話 謎の調教師と突如の凶報

 翌日の早朝。


 王城に行き褒美で貰った4億G相当の金塊を受け取る。

 そのまま冒険者ギルドに預金するため赴いた。

 すると周囲の冒険者達がどよめき始める。


「おい、【集結の絆】だぜ」


「タニングの都を守り、魔王軍の将軍を打ち倒したっていう……確か騎士団長の救出にも成功したんだってな」


 俺達の活躍が正式に公表されたらしく、そのことが話題となっているようだ。


「んでパーティを立ち上げた早々の白銀シルバークラスだろ? あの少人数で脅威としか言えねえよ」


「マジで驚いたよな。特に団長のアルフレッドや他のメンバーも【英傑の聖剣】を追い出されてから冒険者ランクが大幅に降格されていた筈だろ?」


「てっきり弱体化したかと思ったのに……やっぱ強かったんだな」


「それに騎士団長のハンス王子も奴らを気に入っているらしく、勇者候補として名が挙がっているらしい」


「え? 私【英傑の聖剣】ローグだと聞いたわよ……実績と実力だって相応じゃないの?」


「よく知らねぇけどよ……ローグの素行が悪くて勇者枠から外れたって噂もある」


「まぁ確かに女遊びは酷いし、最近じゃ奴の酷さは有名だよな」


「以前は雑魚のパシリだった癖に、急にイキリやがって気に食わねぇ」


「それに比べて、アルフレッドさんは素敵よねぇ。凄く紳士だし街でも評判がいいわ」


「ああ、誰も悪く言う奴はいねぇ。以前はあんだけやんちゃしていたクズ野郎だったのによぉ」


「なんか【英傑の聖剣】と【集結の絆】、逆転しつつあるんじゃね?」


 随分と好き放題言ってくれているが、まぁ俺達の評価は悪くはないようだ。

 それに俺が所持する『聖剣グランダー』については、公表されてないからか誰も気づかないでいる。

 ただ前回の活躍もあり、ハンス王子に気に入られているのも事実だから勇者候補的な扱いを受けていると思われていた。

 まぁ実際、保留扱いではあるけどね……。


「凄い大金ね……確かに預かったわ」


 受付嬢のルシアはドン引きながら仕事をきっちりと果たしてくれた。

 これでピコの借金1千万も利息分と共に返済できた形だ。


 あれから、みんなで報酬金を山分けするべきかと話してみた。

 けどパーティ全員からは、「適切な報酬分だけ受け取り、あとは【集結の絆】の活動資金にするべきだ」と意見があり、団長としてそうすることにした。


 パーティの資金力だけなら黄金ゴールドクラスかもしれない。

 俺はルシアから預かり証を受け取る。

 これがあれば他国のギルドでも金銭を引き出すことが可能だ。


「ありがとう、ルシア。んじゃみんな、旅の準備でもして……」


「――もし、そこのスライムを連れている方々」


 突如、俺達に話し掛けてくる冒険者がいた。

 長い白髪を後ろに束ね、緑色の瞳に眼鏡をかけた温厚そうな顔立ち。すらりと背の高い若い兄ちゃんだ。

 とはいえ俺より年上、20歳くらいだろうか。


「はい?」


「私、調教師テイマーのラウル・ファブル。ソロで活動する第一級冒険者です」


 ラウルと名乗った男は丁寧な動作でギルドカードを見せてくる。

 ソロで第一級冒険者とは、他国から流れたワケありの冒険者だろうか。


「どうもアルフレッド、【集結の絆】の団長です。何か御用でしょうか?」


「ええ、簡潔に言いますと、不躾ながらその神官プリーストさんが抱えているスライムを鑑定させて頂きたいと思いまして、ハイ」


「スラ吉の? どうしてです?」


「ただの興味本位です。先日ギルドで見かけた時から気になりましてね……相当な異様な力を秘めている、そう思ったのです」


 調教師テイマーは職業上、モンスターの鑑定に長けている。

 パッと見ただけで、スラ吉の異常さに勘づいたのだろう。


「どうするシャノン?」


「鑑定してもらうだけなら、わたしから特には」


「だそうです。我々も野暮用がありますので手短にお願いしたい」


「わかりました。では――」


 ラウルはスラ吉に近づき手を翳す。

 掌から一瞬だけ魔法陣が浮き出し消滅した。


「……なるほど固有スキル持ちですね。あらゆるモノを吸収し力にする〈能力吸収ドレイン〉。それで規格外の力を宿しているわけだ。これは興味深い……」


 流石だな。全て正解だ。

 第一級冒険者は伊達じゃないぞ。

 彼なら、以前から思っていた俺の疑問に答えてくれるかもしれない。


「ラウルさん。スラ吉は固有スキル以外にも付与術士エンチャンターから強力なバフを施されていました。ですが、とっくの前に術者から離れているにもかかわらず、未だ永続されたままなんです……」


「どうりで……この子はその〈能力吸収ドレイン〉スキルでバフごと体内に取り込み自分の力にしていますね」


 なるほど、そういうことか。


 ローグがスキルジャンキーで与えまくった〈能力貸与グラント〉も、スラ吉は吸収したことで、奴から離れても没収されずに済んでいたようだ。

 今では完全無欠の最強スライムとなっているらしい。


 だからタニングの都でも無双状態だったのか。

 原作になかった邪神のような触手も、バフを吸収し進化を果たした形態のようだ。


 ラウルはすっきりした表情でスラ吉から離れる。


「ありがとうございます。これで疑問が晴れました。今夜からゆっくり眠れそうです」


 眠れないほど気にしていたのか?

 どうやら彼は凝り性のようだ。


「いえ、俺も気になっていたのでありがとうございます」


「はい、どうかその子を大事に育ててください。では機会があれば、また――」


 ラウルは軽くお辞儀をして去って行った。

 謎めいているがモンスター愛に溢れており、悪い兄さんではなさそうだ。



 俺達がそんなやり取りをしている中。

 突如バタンと勢いをつけて扉が開かれる。


 三人の冒険者達が駆け込んできた。

 見知った顔ぶれの男女である。

 それもその筈、彼らは【英傑の聖剣】に所属する冒険者だ。


 戦士ウォーリャのダグ、女魔法士ソーサラーサラン、回復術士ヒーラートッドの三人。

 入団時はパッとしなかったモブ達だったが、ローグの〈能力貸与グラント〉により強化され第二級冒険者になっている筈だ。


「大変だ! 地下水路のモンスターの正体はザラタンだった! 至急、第一級の冒険者達を集って対応してくれ!」


 ダグが必死の形相で、ルシアに訴えている。


「確か貴方達は地下水路に出没したモンスターの討伐クエストに参加されていましたね? そこにザラタンが現れたというのですか?」


「そうだと言っているだろ! 早くしてくれ、俺達じゃ歯が立たない!」


 ザラタンとは巨大亀のモンスターだ。

 全長15メートルを誇り鋼鉄を切り裂く爪を持つ。強力な嘴に口からは魔力で構成された高出力の破壊エネルギーを吐くヤバイ奴だ。

 また甲羅は物理だけでなく如何なる魔法攻撃も耐え抜く特性がある。


 文句なしの上級モンスターと言えるだろう。

 しかし通常は秘境の大海に出没する筈の奴がどうしてルミリオ王国の地下水路に出没したんだ?


「……わかりました。緊急として募集をかけますが、【英傑の聖剣】の団長さんには話を通していますか? ギルドの規定状、一度請け負ったパーティが手に負えない場合の緊急処置となるのですが?」


 ルシアが懸念しているのは【英傑の聖剣】で受けたクエストを他の冒険者に委ねるということは、クエスト失敗と見なされてしまう点だ。

 それは栄誉ある白金プラチナクラスの【英傑の聖剣】、つまり団長であるローグの汚点となるだろう。


「勿論、ローグ団長には報告したさ! けど昨晩からずっと不機嫌で取り扱ってもらえないんだ!」


 昨日? 聖剣争奪戦で俺に負けてからか?


「今頃、幹部のラリサさんとイチャコラしているんでしょ! 知らないわよ!」


「既に一人、ザラタンに殺されています! もう一人が我々を逃がすために足止めしてくれて……このままじゃ彼女が危ないんです!」


 犠牲者が出ているとは、なんだか凄いことになっているようだ。


 しかしローグの野郎ろくでもねぇな……。

 俺に聖剣を抜かれたことで、すっかり不貞腐れて団員達の声を無視しているみたいだ。

 おまけにラリサとイチャコラ中とかって団長としてどーよ。


 どちらにせよ今の俺には関係ない話だ。


「そうなんですか……しかし今、第一級の冒険者パーティは全員出払っています。ソロのラウルさんなら今さっきまでいらっしゃったのですが……」


「「「とにかく誰でもいい、カナデを助けてくれ!!!」


 ん? カナデだと!?

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